ただひたすら逃避行
「―――ステラ、焼き払え。」
「はーいっ!」
僕とイギリス軍の兵士の目が合った瞬間に僕はそう呟いていた。
ステラが全身から炎を噴き、それがイギリス兵を焼いた―――その瞬間に彼らが動き出した。
「うわああああっ!」「奇襲だっ!」
「ステラ、僕を逃がせ!」
「はーい!」
その瞬間、ステラは大きな狐に化けると僕を背中に乗せて駆けだした。
「逃がすな!撃てぇ!撃てっ!」
「守れ!」
僕が新たに指示を出すと、ステラはそれに従うべく、狐の大きな尻尾で僕を包み込んだ。
次の瞬間、ズドンッ、ドンッ!と凄まじい銃声が聞こえた。
「う、ぐっ!」
ステラは銃弾を受けたようだ、呻き声を上げながらも大地を疾駆していく。
そのおかげで、銃声は大分遠くなった。
暫くすると、ステラは速度を落とし、やがて止まった。
「大丈夫か?」
僕は彼女の背から降りて訊ねると、彼女は弱々しく頷いた。
これ以上、負荷はかけられない。
僕はそう判断すると、指を弾いて彼女を解放した。
「このまま行くしかないか……。」
僕はそう思いながら辺りを見渡した。
一応、森だが……。
「北はあっちだから……。」
ここがインドならば西に行けば着くだろう。
だが、イギリスも西だ。インドの真西から来ている事を考えれば、一応北方向に行った方が良いに違いない。
故に北西を目指して進む、か。
僕はそう思いながら北西に向けて駆けだした。
五日後。
僕は荒野を走っていた。
ここがどこだか分からないが、日が昇っている頃は行動を避け、日が暮れたらその夜を疾走していた。
飯は夜を徘徊する狼などを捕らえて食った。
そして、たまたまイギリス兵と出くわす事もあった。
今もその口だ。
「待てぇ!止まらねば撃つぞ!」
やっべっ、まだ追ってくるよ!
僕は放出出来るギリギリの魔力を使って筋肉に干渉、強化していたがそれでも馬の走力より早いかどうかぐらいだ。
「くっ……スタミナが持たない、か。」
僕は目の前に見える山に進路を変えて走った。
ここからなら一キロほどで着くはずだ。
「撃てぇ!」
その時、声と共に無数の銃声が響き渡った。
運良く急所には当たらなかったが、右肩を弾丸が一発貫通した。
「くっ……!」
痛みを堪えながらさらに疾走すると、すぐに山の断崖絶壁の前に辿り着いた。
そこには洞窟がある。どこに繋がるかは分からないし奥がどこまでかは分からないが、入り口は狭い。
いざとなれば一対一で戦える……。
僕はそう判断すると、その洞窟に滑り込んだ。
◆◇◆
「おい、洞窟に逃げ込まれたぞ!」
「困ったな……。」
男達はがやがやと洞窟の前で話し合っていた。
「このまま見逃すという手はないな。順番に侵入して―――。」
リーダーのような男はその場をまとめながら発言する。
が、その瞬間、男は首から血を噴いて倒れた。
その一瞬前に見えたのはただの白い残像だけだった。
「な、何だ!?」「奇襲!?」
男達が狼狽する、その瞬間にも男達は殺されていく。
そして最後の一人は剣を構えて辺りを見渡した。
「こ、来いっ!殺すなら殺せ!」
―――ジャリ。
後ろからの音にパッと男は振り向いた。
だが、そこには何もいない。男が不審に思った瞬間、背後から微かな息の音と地を蹴る音が響いた。
男は咄嗟に振り返った瞬間には、もう地面に押し倒されていた。
「は……白銀の……おおか、ぐあぁっ!」
◆◇◆
追っ手は来ていないようだ。
だが、出口で待ち伏せているかもしれない。
僕は指先に炎を灯してそれを頼りに前へ前へと進んでいた。
ステラはまだ回復していない可能性が高い。
仕方がないので、進みしかないか……。
僕はそう判断すると足を進めていった。
ふぅ、しかし寒いな……洞窟のせいか……。
仕方ないしに僕は防寒具の代用としてマントをまとうと足を速める。
さっさと外に出よう……お、明かりが。
出口が見えてきたことに僕は内心喜びを覚えると、足をさらに速めた。
そして、その外に出た先には……。
「ゆ、雪?」
見たのは久方ぶりだ。日本で見たのが最後だから二百年以上前―――。
「じゃなくてだ―――。」
僕は頭を振ると軽く絶望を感じた。
こんな中を動くのは自殺行為に等しい。
だが、あちらには連中がいるかもしれない。引き返せない。
僕はため息をつくと、その雪の中に足を踏み入れた。
―――ダメでした。
僕は雪の中に突っ伏してそう思った。
数十分で体温が奪われ、足がもつれ、倒れ込んでしまった。
一か八か、ステラを呼んでみるか……あぁ、でもダメだ、そんな魔力を行使する力も残っていない。それどころか、声を発する力さえも……。
僕は力無く、その純白の中に意識が奪われていった。




