与する者、攻める者
その後、僕がダウンしている間に全てが進んでいった。
議会では、悪魔の正当性が説かれ、全面的にフランスに与することが決定された。
それにより、密かにフランスに使いが送られ、インド洋全面は解放されることとなった。
海賊船は無事にインド洋を横断して、ガンダーラ城下町に少し向こうで停泊して僕の乗船を待っていた。
だが、僕はまだ乗るつもりはなかった。
「クリス、どうだ?民の避難は。」
「順調、だろうな。だが、このペースでは全員の避難に一ヶ月がかかってしまう。その前にイギリスが攻めてくるかどうか―――。」
僕とクリスは日夜、話し合いを続け、いろいろと城下町を持たせる作戦を考えていた。
城壁を強化し、守備兵は二倍に増やすなど……。
だが、イギリス、日本の力ははっきり言って未知数だ。
何故、フランス軍が日本に完敗したか、理由も分からない。
そんな中、僕は新たな悪魔と契約を結んだ。
「悪魔よ。この世界に現れ、我の命に従え。」
僕が新たに契約したのはレベル五の妖霊であった。
ステラという名の妖霊らしい。
炎を使えるらしいが。
「へー、隆史ねぇ、そう言えば悪魔界でも少し聞いたわね。かといって服従する気にはなれないけどっ!」
―――やたらと元気の良い妖霊である。
僕は苦笑しながら、ステラを魔界に返すと立ち上がった。
「どうだい?クリス。こんなもんだが。」
「なるほど……。」
クリスティーはうんうんと頷きながら僕の背後で言った。
そう、彼女にも軽く召喚術を教授していたのである。
「これを五人や六人支配すれば、それなりの戦力になるか……。」
「だがな、人数が多いと支配が行き届かず裏切られる可能性もあるから気をつけねばなるまい。」
僕はそう言いながら器具を片づける。
「―――そうだな。来たる日に備えて調練させておいた方が得策か。」
「その通りだな。」
そして、その日はとうとう来てしまうのだ。
「タカシ、イギリス軍が侵攻してきた、という情報が入った。もう騎馬隊と魔装部隊が尋常ではない速度で接近している。タカシはもう逃げてくれ。」
ステラの契約から一週間後、僕の部屋に飛び込んできたクリスは焦った表情を浮かべていた。
僕は立ち上がりながら言った。
「だが、クリスは―――?」
「私は最後まで現場で指揮をせねばなるまい。何、死にはせんよ。安心しろ。」
「しかし、僕も少しは戦力になるぞ。」
「タカシはフランスの希望、我々の希望だ。潰えさせる訳にはならない。」
クリスは有無を言わさぬ口調で言うと、僕の手を引いて自分の部屋へ案内した。
「ここに、非常口がある。そこから逃げろ。」
彼女はベッドの下の床板を外すと、そこには空洞があった。
なるほど、これならクリスもすぐに逃げられるか。
出来る事なら、戦いたいが―――この身体では足手まといになるかもしれないし、何より大切なのは安部隆史が生存しているということを聖悪魔教会に伝える事。
ここは彼女に任せるしかない―――。
「南へ抜け出せる道が右側に見えるはずだ。」
「クリス……無事でいろよ。」
僕は彼女を抱き寄せて唇を重ね合わせると、クリスは頬を赤く染めて頷いた。
「雪月花、ジャンヌ、イヴ。」
僕は二人の悪魔と一人の精霊を呼び出すと、三人はすぐさま姿を現した。
「ここでクリスの応援をしていてくれ。何か変があれば、イヴはすぐに僕の身体へ戻れ。」
「了解。」
三人は頷くと、クリスの方に近寄った。
「この三人がいれば、助かるはずだ。」
「分かった、じゃあ、早く行け。」
クリスはそう言うと名残惜しそうにその場から立ち去った。
僕も一つ息を吸い込むとその空洞に飛び込んだ。
空洞の中は滑り台のように滑り降りれたが、どうもごつごつしており、何度も背中をぶつけながら滑り降りきった。
「痛ててて……。」
僕は顔を顰めながら呟くと視線を彷徨わせた。
えっと、右側は―――。
―――あれ?
土砂で埋まっていますよ?
「ちっ、仕方ない……。」
何故、埋まっているかは放っておいて、どこに出るかは分からないが、左の道へ進もう。
ここばかりはイヴを置いてきたのを悔やまれる。
彼女の偵察して貰えば、一発であったのだが。
僕は歯噛みしながらステラを呼び出した。
「は~い、あれ、洞窟?」
「灯りになってくれ。」
「はーい、畏まりー。」
ステラは至って軽いノリで言うと、その場で火の玉になった。
「僕のちょっと先を進んでくれ。」
「はーい。」
そして、僕が歩き出すと、そのちょっと先を火の玉は浮遊して移動した。
「そう言えば、あの雪月花さんとか、ジャンヌ先輩は~?」
「残してきた。僕は単身で脱出だよ。」
「ふ~ん、なるほどねぇ、意外と薄情なんだ。」
「まぁ、そう思われても仕方がないが―――。」
「ふっふっふ~。」
何やら嬉しそうにステラは進んでいく。
「機嫌が良いな。」
「ん?それはそうでしょ?口うるさい先輩もいないし。」
ちなみに、契約後は雪月花やジャンヌに躾を任せていた。
結構しごいていたみたいだな。
「そ・れ・にー。パヴァンダーっていうから、結構生ぬるいのかと思ったけど、意外とリアリストだったからねー。」
「悪かったな。リアリストで。」
「まぁ、そうでなきゃ、やっていけないのかも―――お、先が明るい、出口かな?」
「おう、そのようだな。」
僕が姿を変えろ、と合図すると犬の姿になって僕の前をとことこと歩き始めた。
そして、洞窟から脱出すると―――。
「うわ……。」
僕は思わず目の前に広がる光景に引きつり笑いを浮かべた。
何故なら、そこはイギリス軍の野営地だったからだ。




