現状把握
ヴァーヴァラ、ミニ図鑑、おさらい編
【安部隆史】
この話の主人公。
一塊のヴァーヴァラだが、九尾、神炎を保有、さらに剣術に長けているため戦力として抜群。
その上、女たらし故にいろいろな困難に巻き込まれている。
この話はその幸せ野郎の奮闘記でもある。
九尾、神炎などは追加で補足予定
「今が一九〇〇年代……嘘抜かせ……。」
僕は震える声で言った。
だが、ローラは戸惑ったような顔で繰り返した。
「しかし、今は一九四〇年です。」
彼女が嘘をついているとは思えない。
ここは確かめるが、先決だ。
「イヴ、どう思う?」
『私にもまだ……。ただ、隆史様は強烈な魔力でこの空間に引き寄せられたようです。』
脇に女性が舞い降りて言った。
この女性、僕が四神の力を得た時に青龍がつけてくれた僕の補佐役だ。
僕の魔力と強く結びついているからどのような状況でも存在する。
この前、欲求不満で暴走した妻の星鹿を食い止めるために製作した傀儡を身体として手に入れている。
まぁ、逆から言うと、それまで身体はなかったということだが。
『簡単な手段はレイズ達をお呼びになるか、ないしはヴァンパイアのお知り合いかエルフのお知り合いに話を聞くことですね。』
そうか……ヴァンパイアとエルフは長寿だからこの年でも生きているはずだ。
「貴方、本当に安部隆史なのですか?」
ローラは肩を押さえながら訊ねた。
僕は肩を竦めると少し魔力を使って、彼女の肩を癒してやる。
と同時に魔力の糸を形成して彼女に気付かれないように首に引っかけた。
「ほら、立って。少し歩きながら話そう。」
僕はそう言うと、彼女は戸惑ったような顔をしながら立ち上がった。
やはり、先程、自分を殺そうとした奴を癒すという概念は信じられないのかな?
「いかにも、僕は安部隆史だよ。」
「そんな馬鹿な……。確かに私は貴方が死んだのを見ました……。」
ローラは歩きながら信じられなさそうに僕を見た。
は?僕が死んだ?
馬鹿な……。
『ローラ様、差し支えなければ、ここまでの歴史を教えて頂けますか?』
イヴはそう訊ねると、ローラはコクコクと頷いた。
「一七二二年、我等が日本軍はフランス、聖悪魔教会に宣戦布告しました。」
「日本が仏蘭西に?」
馬鹿な……。
「詳しい経緯は私が生まれていないので分かりませんが……。フランス側にドイツがつきましたが、イギリス、イタリア、ロシアは日本側について戦い始めました。そして千九百二十二年、フランス軍と日本軍が全面衝突。その際に安部隆史は死亡した、と。その映像は日本各地で放送されました。私も幼い頃、それを確認しています。」
なるほど、嘘ではないのか。
しかし、僕が死んだ?
おかしい。
『隆史様、とりあえず、場所を移しましょう。』
イヴが脇で進言した。
『ここは恐らく日本。すぐに兵隊が来てしまいます。』
確かにその通りだ。僕は視線をローラに向けながら言った。
「それで、ここはどこかな?」
「横浜、ですが。」
『横浜は知っています。南の方に向かえば海です。』
よし、ならば急ごう。僕は心に決めると魔力を整えた。
「じゃ、ローラ。ここでお別れだ。もう会いたくないがね!」
僕はそう叫ぶと陰の魔力で翼を広げた。
そしてイヴを抱えると中空に飛び立った。
「そうですね……。でも、忘れ物です。」
背後からの声。
僕は振り返ると、ローラが銃を構えていた。
そして弾丸が放たれる。
僕は咄嗟に上昇しようと翼を羽ばたかせたが、戦から数年、離れていたせいで加減を誤る。
思った以上に上昇出来ず、腰に銃弾を受けてしまった。
だが、たかが一発……。
次の瞬間、身体全体に激痛が走った。
この感覚には覚えがある。
魔力拒絶反応……!?
僕は中空で血反吐を吐きながら墜落していった。
「う……。」
目を覚ますと、僕はやたらと揺れる物の上にうつ伏せで寝ていた。
『隆史様、目覚ましたか。』
イヴの声で、僕はイヴの背にいるということが分かった。
「ここは……?」
『もうすぐで港です。あまり動かれないように。あの銃弾がどのような作用をもたらしたかは定かではありませんが、何もされないことが大事です。』
「そうも言ってられないさ……。」
『いいえ、ご安静に。安静にされないのであれば、私が魔力を全て引っこ抜きますよ?』
「……洒落にならないな。」
『でしょう?私に任せてじっとしていて下さい。隆史様。』
「いたぞ!」
「捕まえろ!」
「―――追われているみたいだね。」
『はい。兵卒に見つかってしまいました。』
僕はイヴの背中にしがみついたまま、背後を見ると兵士達が追いかけてきていた。
魔装を装備してビュンビュン弾丸を放ってきている。
「ちぃ……。」
僕はベルトから手榴弾を抜くと、背後に放った。
数秒後、ズドンッという爆発と悲鳴が聞こえた。
「少しだけ時間を稼いだ。」
『あまり動かぬようにと申しましたのに。』
「イヴだけに任せられないよ。」
『はいはい。』
イヴは呆れたようにため息をつくと、手を背後に振った。
すると、その途端に激しい水流が発せられて手榴弾から立ち直った兵士達は流されていった。
『これで文句はありますか?』
「イイエ。」
『さて、港に着きましたが……。』
港の積荷の影。僕はイヴの手当を受けながら辺りを見渡した。
貿易が盛んな港のようだ。だが、積荷の中に仏蘭西や独逸の文字は見あたらない。
それどころか『イギリス』や『イタリア』などと片仮名が使用されている。
もはや、この時代は片仮名……いや、カタカナなのか。
これからも僕もカタカナを使うべきか。
郷には入れば郷に従え、と言うし。
『これは……こんな物を開発していたんですね。』
「ん?どうした?」
『これは一種の制御魔法陣を発生させています。あの銃弾で刻ませたのでしょうが、こんな高度な術が日本軍で出来てしまうとは……。』
「ふむ……。制御というと魔力のか?」
『そうです。一定以上の魔力を放出しようとすると魔力が反発を起こすよう仕組まれています。九尾の力はもちろん、神炎も使用出来そうにないです。傀儡糸は多少加減すれば使用は出来ますが……。』
「なるほど、私は一塊のヴァーヴァラに成り下がった訳か。」
『―――そうですね。私も一度に隆史様から魔力を引き出せなくなりました。』
「分かった。とりあえず、どこかの船に忍び込んで大陸の方に行かないと……。」
僕は視線を貿易船に移した。
「まぁ、やってみるかな。」




