黒ずくめ、再来
『マリア、シュビハドウダ?』
城内の食堂の隅、そこで僕は食事をしながら麻里亞と会話をしていた。
―――モールス信号で。
クリスはいないが、公衆の面前なので慎重に行っている。
ちなみに、クリスの警護は今、ロウェルがついている。
『ジュンチョウ。モウスグフネガトオレルヨウニナル。ソウシタラココトハオサラバ。』
『ソウカ。』
麻里亞の食器の縁を叩いて伝えてきた情報に、僕は口の形で答えた。
そして、目の前のラーメンを啜る。
と、またコンコン、と音が響いた。まだ伝えたい事が?
『アノコノコト、キニシテイルデショ?』
あの子……クリスか。
『ソリャ、ソウダロ?』
『ダッタラ、ウマクオサメルベキネ。ヨルノテイオウサマ。』
は?夜の帝王様?そんな異名は継いだ覚えはないが……。
ヴァンパイア王のことを示しているのか?
僕が戸惑っていると、彼女はクスリと笑って立ち上がった。
「じゃ、この後、軍議があるから。」
「あ、おう。」
麻里亞は食器を持って食堂から出て行くのを見届けると、僕はため息をついた。
ま、何とかしないとな……。
ゾクッ。
その瞬間、殺気がした。
「イヴ。」
僕は深呼吸しながら呟くと、不可視の精霊は脇に舞い降りた。
『確かに感知しました。恐ろしい魔力です。』
「今はどこに?」
『城壁……いや、もう中に侵入しています!』
「ちぃっ!」
僕はそのまま食器を放置して駆けだした。
その様子を食堂にいた兵士達はぽかんと見送っていた。
僕はそのまま一気に階段を駆け上がると、廊下から凄まじい爆音が響いた。
「まさか……!」
僕は走る速度を緩めず、指を弾いた。
「はい?何でこんな城内に呼び出すんです?しかも全力疾走中に。」
雪月花は幾らか不機嫌そうに言った。
だが、緊急事態というのは弁えているのか、ハヤブサの姿ですぐに飛び立てる体勢だ。
「増援を!」
「はい。」
雪月花は短く返事をすると、すぐに飛び立った。
僕はそのまま素早く音源の部屋に辿り着くと、思いっきり扉を蹴り飛ばした。
「くっ……!?」
そこには、血を出血しながら倒れている重臣達や警護の兵がいた。
立っているのはロウェルともうすでに駆けつけていた麻里亞、そしてクリスだけだ。
だが、そのロウェルと麻里亞も深手を負っている。
無事なのはクリスだけのようだ。
「ご無事ですか!?閣下。」
僕はそう言いながらも視線を走らせる。
元凶は……あれか……。
壁が見事にぶち抜かれ、そこに立っている三人の黒ずくめの戦士達だ。
死屍累々を作り上げた犯人って訳か。
この前の奴もいるっぽいしな……。
「ま、衛……あれは化け物だ……閣下を連れて逃げろ……!」
ロウェルは腹から血を流しながらも、しっかりとした足で立ち、槍で相手を威嚇していた。
「本当に逃げ切れるならその判断を今すぐしていましたけどね……。」
僕は苦笑しながら、腰のベルトに両手をやった。
そして、両側の脇に着いたスイッチを押すと、バンッと音を立てて小ぶりの斧が跳ね出た。
僕はそれを掴むと、地を蹴った。
そのまま、それを叩きつけるように黒ずくめの戦士に斬りかかった。
だが、それは微動だにせず、斧を片手で受け止めた。
「くっ……!」
またか!
僕は歯噛みしながら斧を手放して後退しようとしたが、その瞬間には、もう一人の黒ずくめが僕の脇に回って掌を突き出した。その掌は雷のような物が集中している。例えるなら、雷球か。
『隆史様!』
イヴの叫び声が響く中、それは僕の腹に吸い込まれ―――。
ガキンッ!
は、しなかった。
突然、飛んできた短刀にそれは阻まれ、その間に僕は離脱した。
そして、その離脱した僕の目の前に一人の男が現れた。
「もしかして……カノン?」
「そうだよ。」
その男はカノンの顔を被っていなかったが、声はまさしくカノンだ。
「ちょっとアリアは諜報活動で野外に出ていたけど、面白い情報が手に入ってね。」
彼は小声で僕に囁く。僕は彼の隣に並びながらそれを聞いた。
「そいつらはイギリスが作り上げた、擬似魔法戦士でね。さっき、隆史が斬りかかった方がコードα。魔力を肉体活動に変えて使う戦士。で、隆史に襲いかかった方がコードβ。魔力を魔法として撃ち出す戦士。そして何も動こうとしないのがコードγ。あれがαとβに魔力を供給している。周りに結界が張ってあって厄介だけど……。」
「まずはγから潰すのが鉄則か。」
「如何にも。」
カノンはそう言いながら僕に短刀を押しつけた。
「これは魔力無効化が掛かっている短刀。すぐに壊れてしまうし、徐々に効果は薄れてくるけど、ないよりはマシでしょ?」
「なるほど、零牙刀を人工的に作った物か……。」
零牙刀より弱いし、どういう仕組みかは分からないけど……。
やってやるさ!
僕はそれを懐に収めると、床に倒れている兵士の手から槍を取った。
「さぁ、勝負だ!」




