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整っていく準備

ヴァーヴァラ、ミニ図鑑、おさらい編


【N.M.】


通称、ノキア・モード。

多重人格のように人柄が入れ替わる現象を示す。


隆史はそれを使用すると、女たらしに拍車が掛かり、一人称が『俺』になる

 僕が目を覚ますと、腕の中ですやすやと姫君が寝ていた。

 全く、無防備なこった。敵国の密偵がいるってのに。

 僕は苦笑しながら半身を起こすと彼女の緑色の髪を撫でた。

 美しい、色合い。グリゼルダを彷彿される髪の毛だ。

 ゼルダは僕の師だったが……何も礼が出来ていなかったな……。

 考えてみると、彼女が一番、僕の事を心配して動いてくれていたのかも知れない。ライラの手回し具合には負けるかも知れないが、いつだって協力してくれた。

 会えるなら、もう一度会いたい。だが、それは叶わないだろう。

 雪月花らの話では、ゼルダはもう死んでしまったのだから。

「ん……あぁ、おはよう、タカシ。」

 想いにふけていると、お姫様が目を覚ました。彼女は半身を起こすと僕に身体をもたれた。

「おはよう。クリス。よく眠れたかな?」

 僕は微笑みながら彼女の頭を撫でると、彼女は少し恥ずかしそうにコクンと頷いた。

「お前のテクニックが……その……うまかったからな。」

「ふふ、昨日は可愛い声で鳴いてくれたね。」

「い、言わんでくれ!恥ずかしい……。」

「恥ずかしがるクリスも可愛いよ。うん?」

 僕はそう言いながら彼女の頬に手をやるとこちらを向かせて口づけた。

 そして、その小さな口の中に舌を入れ込む。

「ん……んんっ……。」

 僅かに声を漏らしながらもぎこちなく舌を絡ませて応えるクリス。

 そんな姿もいじらしく、可愛らしい。

 僕はそんな姿を堪能しながら、彼女の口腔を隅々まで愛撫する。

 そして、彼女の息継ぎのタイミングを見計らって舌を引き抜いた。

「ぷはっ。」

 クリスは止めていた息を吐き出し、何回か深く呼吸をするとチラッと僕を見た。

「どうした?」

「いや……妙にこの手の技術がうまいな……と思って……。」

「クリス。流浪の剣士にはいろいろと秘密があるんだよ。」

 僕は人差し指で彼女の口を塞ぎながら言った。

 彼女は言いかけの言葉を呑み込むと不服そうな顔を作った。

 だが、僕は構わずにベッドから降りると、その場で跪いた。

「では、閣下、お支度を。」

「うむ。」

 彼女は頬を若干赤らめながらもコクンと頷いてベッドから降りた。


 数分後、クリスは身支度を済ませると公務に出向いた。

 今日は調練の視察や組閣に関しての書類整理であった。

 僕はただ彼女の後ろについて歩き、周囲にさり気なく目を光らせていた。

 時折、クリスはチラリと僕を見、その時、僕は微笑みを向けた。

 すると、彼女は嬉しそうに笑顔を見せながら公務に戻るのだ。


 そして、僕の推挙した人員も到着していた。


「ああ、麻里亞。御機嫌よう。」

「ええ、タカ……ではありませんでした、衛さん、今回はお呼び頂きありがとうございます。」

「いいや、礼には及ばないよ。」

 僕は来てくれた麻里亞と合流、談笑しながら閣下の元へと連れていく。

「閣下、推薦した知人がここに。」

「入れ。」

 僕は部屋の前に辿り着いてそう言うと、彼女は少し嬉しそうな声で返事をくれた。

 少し離れる、と言った途端に悲しそうな顔をするもんなぁ……。

「失礼します。」

 僕は麻里亞と共に中に入ると、書類を整理している閣下は眉を吊り上げた。その脇にはロウェルもいる。

「―――その娘がか?」

「ええ、彼女は麻里亞と言い、数多くの国で財務や軍事、あらゆる分野でいろいろな知識を提供した女性です。自分と同じく流浪の旅人で、先日、手紙を送りましたら、幸い近くにいる、ということだったのでこちらに招いた次第でございます。」

 僕は適当にでっち上げたことを伝えると、麻里亞はその場で一礼した。

「麻里亞と申します。衛さんからこのお話を聞いて参りました。」

「……それで、貴様はどれほど出来る?」

 クリスは素っ気なく訊ねる。―――何で不機嫌なの?

「さて、私の器量は閣下が図る物では?最も、衛さんは私の器量をとうにお見通しでしょうが。」

 麻里亞はどこか高圧的に笑顔で話す。

 クリスがこちらに視線を向けるので、仕方なく僕は口を開いた。

「私も麻里亞の実力は把握し切れておりませんが、彼女は商取引に関してはとても上手なので、外務に関するポストを与えてはいかがでしょうか?彼女ほどの実力があれば大臣クラスまで行けるのでしょうが……。」

「考えておく。下がれ。麻里亞。ロウェル、適当な部屋へ案内せよ。」

「分かりました。閣下。」

 ロウェルは少し不思議そうに頷くと、僕を見、麻里亞を見て、最後に将軍を見た。

 そして、ふむふむ、と頷く。

「では、麻里亞殿、こちらへ。」

「はい。」

 ロウェルは何もかも納得しきった顔で麻里亞を案内していった。

 そして、部屋には僕とクリスが残された。

「―――タカシ、正直に答えろ。」

 と、クリスはどこか厳しい声で言った。

「あの女はお前の何だ?」

「へ?」

「いや、誤魔化さなくても良い。お前のその技術とあの仲の良さから推察するに、付き合っているのだろう?正直に言ってくれても構わない。もし、それが事実ならこの国から一人、流浪の女旅人が消えるだけだ……。」

「それは一国を担う将軍の発言としてどうかと思うけど。」

 僕は呆れながら、彼女の正面に立った。

 そして手を伸ばすと俯き加減の彼女の顔をくいっと持ち上げた。

「クリス、僕が君を愛していないと思うのかい?クリス。そんなに旦那が信じられないのかな?」

「い、いや、そういう訳では……。」

「心配しなくても、麻里亞はただの友達だよ。もっとも、どんな人間の娘でも、クリスには敵わないだろうね。その美貌は。」

 そう甘く囁いてやると、クリスは顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 ふぅ、相変わらずN.M.には助けられるな。

 しかし、N.M.―――つまりは、ノキア・モード。これの正体は何なのだろうか?

 早聖さんは多重人格の派生系とか言っていたが……。

 ま、いっか。

 僕は苦笑すると、クリスの髪の毛に手を乗せて撫でながら囁いた。


「僕は一生、君の物であり、同時に君は僕の物なんだよ。」


 それは呪詛のように部屋に響き渡った。

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