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黒き影

「くっ……!やれ!」

 全く馬鹿馬鹿しい。

 僕は苦笑しながら向かってくる重臣共を見た。

 各々が槍、剣、槌、斧などを振りかざす。

 連携が取れていない奴を倒すのは容易いが……閣下の手前、意識を刈る程度に済ませておくか。

 一人目に向かってきた奴の手を掴むと、小手返しの要領でひっくり返し、地面に叩きつけると同時に左手で槍を取ると他を牽制する。

 そして、一人目の脳天に足を振り下ろして意識を刈ると、そのまま踏んづけて踏み切り、二人目の腹を殴り、同時にもう一人の首に手刀を入れる。

 と同時に斬りかかってきた奴の剣を指二本で白刃取りすると体勢を低くしてそこから顎下に向けて蹴りを入れた。

 そいつは吹き飛ぶ最中、僕は地を蹴って宙を舞った。

 吹き飛んだ奴を目で追っていたため、大半は僕を見失ったようだ。

 そこに槍の柄で鋭く一撃を加えていく。

 バタバタと暑苦しい男達が倒れていった。

 その中で残った二人は懐から何かを取り出そうとしたが、次の瞬間、うっ、という呻き声と共に倒れた。

 その後ろにはロウェルとクリスティー将軍が立っていた。

「これぐらいはやらせろ。」

「これはこれは失礼しました。」

 僕らは軽口をたたき合いながらギルディアを真っ直ぐ見た。

「さて……?」

「くっ!」

 彼は観念……した訳ではなく、懐から紙切れを取り出した。

「何だ?あれは。」

「妖術の類でございまする、お下がり下さい!」

 ロウェルの叫び声と同時に僕は槍を投げた。

 だが、遅かった。

 キィンッ!

 金属音と共に槍は弾かれ、ギルディアの前には黒い甲冑が立っていた。

「コードナンバーα、召喚を確認。注文を。」

「奴らを排除せよ!」

 声高にギルディアは叫ぶ。

「受諾。」

 短く甲冑は呟くと、フッと姿を消した。

 咄嗟に僕は将軍の前に跳ぶと、全身に衝撃が走った。

「ぐっ!」

 右の横っ面から殴られたような感触。咄嗟に腕で防いだが、見事に身体が吹き飛ばされた。

 僕は受け身を取りながら着地すると、ロウェルが盾を構えて懸命にそれを防いでいた。

「くっ……!」

 やむを得ない、バレてしまうかもしれないがまずは!

 僕はそう決断すると、指先から細い魔力の糸を紡ぎ出した。

 そして手足の中に撃ち込むと、筋力を人為的に強化した。

 ズドンッ!

 迫撃砲並みの力で地面を蹴り飛ばすと、右足を勢いよく振り回して黒い甲冑に向けて蹴りを放った。

 ガキンッ!


「な!?」


 僕は思わず目を剥いた。

 何と甲冑の戦士は僕の蹴りを腕一本で止めた。

 バカな……江崎流拳法の衝撃波蹴りだぞ!?

 僕が驚愕している間に、ロウェルは素早く槍を突き出した。

 それは意外にも容易く甲冑の中に吸い込まれていく。

「ぐっ……!?」

 甲冑は呻き声を漏らすとたじたじと後退した。

「α、活動数値低下、マニュアルNo,37を発動。情報抹殺。」

 甲冑は一人そう呟くと、タンッと地面を蹴った。

 僕は思わず身構えたが、こちらには来ない。後退していく。

 そして、ギルディアの元に舞い戻ると、腕を一閃した。

「な……!?」

 次の瞬間には、ギルディアの首は刎ね飛ばされていた。

 と同時に、その黒甲冑はすぐに消滅してしまった。煙のように跡形もなく。

「……異な……イギリスはこのような異形と戦っているのだな。」

「ええ、そうですね……。」

 クリスティー将軍の言葉を聞きながら僕は意識を集中させて指先から魔力の糸を紡ぎ出した。

 そして、僅かに残った煙と塵をそれで捕まえておいた。


「―――衛。今回は助かった。」

「いえ、礼には及びません。」

 その後、会議室は封鎖され、ロウェルを主に現場検証が始まった。

 反旗を翻した重臣達は全員、捕縛。重傷であったベルンは医務室へと運ばれた。

 生還するかどうかは五分五分だそうだ。

 そして、死んだギルディアの亡骸は司法解剖の後、首だけ獄門に晒された。

 お情けで胴体は埋葬されたらしいが、噂によると兵士が乱雑に扱って死体を切り刻んで腕を川に投げ捨てたとか何とか。

 しかし、それは将軍にとって関係なかった。

 ただ、実の弟に裏切られた、という事実だけであった。

 表面は大丈夫そうに振る舞っているが、その心のうちはきっと荒んでいる。将軍とはいえ、若い女性なのだ……。

「タカシ……。」

 ポツリと聞こえた単語に僕はビクッとしてしまった。

「はい?今、何と?」

 僕は自然な振る舞いで振り返ると、将軍は作り笑いを浮かべて言った。

「ああ、いや、昔、私を助けてくれた青年の名前がそう言う名前でな。」

 む?そのような記憶はないな。

 昔……ということは将軍の幼少時代だろ?

 ―――うん、記憶にない。多分、他人だ。

「よく、衛に似ていたな。」

 ―――うん、偶然偶然。

「六人ばかり従者を連れていた覚えがある。」

 六人?レイズ、アメリ、カオル、雪月花、ジャンヌ、ミィール……。

 ―――きっと偶然だよ。うん。

「そう言えば、そのうちの一人がひどく口が悪かったな。兄なのか……『この愚弟!』とか吼えていたな……。しかし、兄が従者ということはあるまい……ん?どうした?衛。頭でも痛いのか?」

 その言葉を聞いているうちに僕は頭を抱えるようになってきた。

 間違いない、それはレイズだ。

 最高の従者で、兄であったレイズだ。

 恐らく、戦中だったのだろう、それだったら辻褄が合う。

「―――なぁ、衛。」

 ポツリと、クリスティー将軍は僕を見ていった。

「二人っきりの時は、タカシ、と呼んで良いか?」

 この言葉はすなわち、信頼の証。

 だが、バレるリスクも高まる。

 ―――しかし、呼ばれるのも悪くない、と思う自分もいた。


「―――仰せのままに。」


 気が付いた時、僕は無言で頭を下げていた。


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