会議室での謀反
ヴァーヴァラ、ミニ図鑑、おさらい編
【決め台詞】
「これだから馬鹿は嫌いなんだ。」というのが隆史の決め台詞である。
ちなみに彼の悪魔で、従者だったレイズの決め台詞は、
「しくじったな、これ、銀製じゃないだろ。」である。
「姉上、それが今回は重役会議であり、下々の者は出席出来ないのですが。」
会議室へと行こうとするクリスティー将軍と僕をそう言って引き留めたのは、会議に呼びに来た将軍の弟であった。
ふーむ……胡散臭いが……。
「―――分かった。衛、君はここで部屋を守れ。」
「しかし、閣下……。」
「お前を信じている。」
異論を唱えようとした僕に小さく将軍は囁くと、僕の肩に手を乗せた。
―――責任、重大だな。
僕は将軍と弟が部屋を出て行くのを見ながらはぁ、とため息をついた。
「イヴ。」
『はい、隆史様。』
僕は虚空に呼ぶと、彼女はスゥッと音もなくそこに現れた。
「姿を消して将軍を見守っていてくれ。僕は出来るだけ近くにいる。」
『心得ました。』
イヴは用件を素早く確認すると、部屋から出て行った。
「ふむ……では、せっかくだから、っと。」
僕は一つ頷くと部屋の本棚に視線を向けた。
「少し歴史書に目を通しておくかな……。」
◆◇◆
「姉上、こちらでございます。」
弟のギルディアが部屋へと案内する。私はただ頷いて中に入った。
「おお、将軍閣下、おはようございます。」
そこには重役に混じって兵士を束ねるロウェルとベルンがいた。
良かった、彼らは信頼に置ける事が分かっている。
私は安堵しながら、二人の間に設けられた席へと座った。
「では、全員が揃いましたので会議を始めたいと思います。まず始めに……。」
ギルディアが会議を進行するのを聞きながら、私は視線を資料に落とした。
資料にはイギリスが用いる軍事道路について書かれていた。
―――そうだ、あの事件が起こったのもあそこだったか……。
***
今から大分前のことだった。
イギリスがインド商会の付近に道路を設け、日本軍との連絡経路を完成させたその年。
私は……五歳かそこらだったか。
当時、イギリスより征仏大将軍に任ぜられた父上と共に私はそこの視察に来ていた。
私は軍用品から香辛料までいろいろに取りそろえられている商店を歩いていると……とんっと肩が押された。
幼い私はバランスを取る事は出来ず、よろめいて道路に出てしまった。
その時、日本軍がチベットに基地を設けるべく、ここで車を頻繁に出し入れしていた。
そして、私がよろめいて出た道路にも……。
猛進する車。
叫ぶ父上。
何が起こったか理解出来ない私。
その私に車は確実に進んできており、あと一寸で接触……。
その瞬間、車が急停止した。
「これだから馬鹿は嫌いなんだ。」
そんな台詞と共に現れたその人は片手で車を押しとどめていた。
そして私を優しく空いている片手で抱き上げると、平然とした顔で商店の通りに戻り、真っ直ぐと父上の元に歩いていった。
「お子さんから目を離してはいけませんよ?」
「あ、ありがとうございます。貴方のお名前は……?」
将軍、といっても父上は謙虚な人間であった。
へりくだった調子で言う物だから、相手も将軍だとは思わなかったのだろう。
くすりとその人は笑むと、私を父上に渡しながら言った。
「私の名前は―――。」
***
ズドンッ!
激しい銃声によって、私は我に戻ると同時にパッと構えを取った。
視線を辺りに走らせると、ほんの一瞬前まで穏やかだった席が、今や全員が抜刀し、殺気を放ち合っている。
そして唯一、飛び道具である拳銃を構えているのは我が弟、ギルディア。
さらに目の前に立ちふさがっているのはベルンとロウェルであった。
と、突然、ぐらりとベルンは体勢を崩して倒れた。
「くっ……。」
ロウェルは歯噛みしながら殺気を放つ。
私は一拍遅れて、ギルディアの拳銃から硝煙が発せられていることに気付いた。
「―――何のつもりだ、ギルディア。」
私は低い声で唸ると、弟はせせら笑った。
「謀反ですよ。分かりませんか?姉上。貴女の味方はもはやこの兵しかおりませぬ。」
「謀反……だと?」
「ええ、イギリス政府から貴方を消すよう言われたのです。」
「買収されたのか……!」
ロウェルの怒りの満ちた声が場に響く。
「当たり前と言えば当たり前でしょう。姉上はイギリス国からの縁談をことごとく断った。そんな不便な傀儡よりは、もっと便利な傀儡に取っ替えるのが一番でしょう?」
ギルディアはそう言いながら、拳銃の撃鉄を持ち上げた。
「この……愚弟が!」
私は怒りを込めたその言葉を吐き出すと、彼はますます笑んだ。
「愚かなのは貴女だ。強き者に従えば苦労せぬものを。」
ギルディアは嗜虐的な笑みを浮かべて、拳銃の引き金に指をかけた。
それを合図に部屋の中にいた重臣達が武器を振りかざして猛進する。
私とロウェルは咄嗟に背中合わせになると、それぞれの獲物で敵に対峙した。
しかし、それが隙だった。
そう、先程まではロウェルが銃弾の軌道を防いでいたが、背中合わせになったことによって軌道を防ぐ物がなくなってしまった。
「さよなら、姉さん。」
ズドンッ。
ふと、その放たれた銃弾が、いつしかの車に見えた。
ギンッ!
「これだから馬鹿は嫌いなんだ。」
次の瞬間、そこには私の側近が立っていた。
槍を片手に持ち、空いた片手で私を庇うように抱き寄せる。
その光景はまさに、あの時のようであった。
「将軍閣下、ここをば、私にお任せを。」
衛は微笑んでそう言うと同時に一瞬で槍を薙いだ。
近くにいた重臣が巻き込まれ、胴を斬られる。
「ひぃっ!」
その光景を見て恐れをなした重臣達は次々と後ずさっていった。
「ええい、狼狽えるな!敵は三人だぞ!かかれ!かかれぇ!」
ギルディアは取り乱したように叫びながら剣を抜いた。
だが、重臣達はただ震え、動かない。否、動けない。
衛が無言のうちに凄まじい殺気を放っているのだ。それに射竦められた者は動けない。
「ロウェル様、閣下をお願いします。ここは僕が。」
衛はそう呟くと、ロウェルは頷いて私を庇うように立った。
それを確認すると、衛はもう一度私に微笑んでから抱いていた腕を放した。
「では、お手合わせ願えますか?ギルディア殿。」




