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海を横断するためには

ヴァーヴァラ、ミニ図鑑、おさらい編


【ヴァンパイア】


夜を統治する陰の魔力を保持した生物。日光には弱い。

夜会ブラディジアを拠点とする。

そこはハデスの作った永遠の夜の世界である。

レティシア女王の時、隆史を国王として招き入れて栄華を誇った。


 僕は海月に言われたとおり、メイと雪月花を連れて船長室へと向かった。

 そこにはいつもの面々……そしてカノンとアリアもテーブルを囲んでいた。

「よし、全員揃ったな!」

 海月はそう言うと、全員は僕の方を向いた。

「隆史さん、こちらにどうぞ。」

 麻里亞が柔和な微笑みを浮かべてスペースを空ける。

 僕はそこに立つと、そこには地図、方位磁石、魔力計測器などが雑多に置かれていた。

「さて、航路についてだが……。残念ながら最短距離での移動は難しい。インドの南を通るとなると、やはり、イギリス軍の砲撃に遭ってしまう。」

「だろうな。で、どうするんだ。さっきの補給で手に入れたのは中東辺りまでの食料だぜ。しかもギリギリだ。もつか?」

「持たないだろうな。遠回りしたら持たない。」

 現の問いに対して御名斗は厳しい答えを突きつけた。

「じゃあ、陸路で行ってみるか?」

 僕は冗談交じりで言うと、御名斗は呆れたようにため息をついた。

「不可能に決まっているだろう。あそこのインドを統率する女将軍は残虐で―――。」

「―――いや。」

 現がそれを鋭く否定した。

「もし、この人が本当に安部隆史ならば可能だよ。だって、聞いているだろう?安部隆史伝説。」

「―――もしや……。」

 御名斗がさらに呆れた顔を見せる。

 てか、安部隆史伝説って何だ?

 海月も苦笑しているし、麻里亞は顔を真っ赤にして俯いているし、咲と蕾はそっぽを向いているし……。

「ん……まぁ、俺は隆史さんが本物だと信じているぜ。だから……まぁ、現のいう作戦は分からんでもない。しかしなぁ……あまりにも度肝を抜く作戦だなぁ……。」

 海月は苦笑を浮かべたまま言う。

「いや、理解出来ないんだけど……僕に何をさせるっていうの?」

「つまりだね……あー。」

 海月は目を逸らしながらそれを言った。


「インドの女将軍をたらし込んで、味方につけられれば―――ってことなんだ。」


 翌朝、早朝。

 僕は咲と蕾、雪月花を連れて海へと飛び込んだ。

 ここから、陸地までの遠泳となる。

 僕が着水した後、咲と蕾がしっかり浮いている確認すると、抜き手を切った。

 両手で水を捉え、かき分けていく。

 その脇を雪月花は人魚の姿でスイスイと泳いでいる。

 そして背後では咲と蕾がせっせとついてきているのが分かった。


 あの作戦が提示された後、僕は激しく反対したが、何故か全員はそれしかないと不思議なほど同意を示していた。

 海月とカノンが立てた計画に寄れば、僕は陸地についたら咲と蕾と別行動を取り、インドのガンダーラ城へと向かい、そこで女将軍に仕官するのがまず一段階だそうだ。

 女将軍自体は若いので安部隆史の事を知らないが、城内の長老などは安部隆史の風貌を知っている可能性が高い。

 なので、カノンとアリアは別行動をし、随時、咲や蕾と連携を取ってそいつらを消すそうだ。

 仕官した後は、適当に起こった内乱を鎮めて昇進しろ、というのが計画の第二段階だ。

 これを切っ掛けにだんだんと将軍に近付くらしいが……。

 そんな内乱なんて起こるかなぁ……。

 そして、将軍を口説いて籠絡し、こちらの味方にする、というのが最終段階だ。

『なぁ~に、隆史さんはカノンとアリアに全面的に頼って、普通にいつものように女の子を口説いてりゃいいさ。』

 と海月は安請け合いしたが……。

 僕が口説くのはノキアモードのときだけであって、『いつも』のようにやっている訳ではない……はず。多分。


「お。」

 僕は陸地が見えてくるのを確認すると、背後を振り返った。

 咲と蕾が少し遅れてついてくる。

 どうも顔が真っ青だ。泳ぎ慣れていないのか。

 やれやれ、ちょっと男を見せようかな。

「よっ。」

 僕は腰の辺りから九尾の尾を噴射すると、咲と蕾を捕まえた。

「ひゃっ!?」「はうっ!?」

 そして、僕は腰に力を込めると、そのまま姉妹を放り投げた。

「きゃあああああああああ!」

 二人は悲鳴を上げながら陸地にすっ飛んでいく。

「雪月花!」

 僕が声を掛けると、人魚が海で跳ねた。

 そして、中空でハルピュイアに姿を変えると、素早く宙を舞う二人を掴んで着地した。

 よし―――と安堵した瞬間だった。

「ぐっ……ごほっ!」

 胸に激痛が走り、口から血が吹き出た。

 こんなんでも来るのか……。

 水中で痛みを堪えていると、ぐらっと身体のバランスが崩れた。同時に頭から水を被る。

 くっ、間の悪い波だ!

 僕はそう思いながらも痛みで動く事が出来ない。

 やばっ……。

 ごぼっと口から血と共に空気が漏れ出す。

 ここで死ぬとか……そりゃないだろ……。

 僕は僅かに手を伸ばして足掻く。

 と、その瞬間、その手をパシッと誰かが掴んだ。

 雪月花……?

 目を見開いて、それを見ようとするが、酸欠で意識が朦朧として誰だかは分からない。


 不意に唇に柔らかい感触がした。


 空気がそれから流れ込んでき、頭に酸素が供給される。

 それによって、徐々に目の焦点が定まっていく。


 イヴ……?


 目の前にいるのは傀儡の身体を得た精霊だった。

 どこか恍惚とした顔で僕の唇に吸い付き、酸素を供給すると共に僕を水面へと引き上げようと僕の身体を抱いて足を必死にばたつかせていた。

 僕は意識をはっきりさせると、イヴの身体を抱きしめて水を蹴った。

 そして一気に浮上する。


「ぷはっ!」


 水面から顔を出した時、顔に氷水を掛けられたような刺激が走った。

 そして空気の感じ。海の潮の香り。

「助かったか……。」

 イヴに礼を言うべく視線を辺りに彷徨わせたが、彼女はいない。

 海に視線を走らせたが沈んだ様子もない。

 どうやら、僕の中に戻っていったらしい。

 自分の魔力と深く繋がっているので引っ張り出そうと思えば引っ張り出せるが、まぁ、まずは……お説教かな。

 血相を変えて飛んでくる雪月花を見ながら僕は苦笑するのであった。

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