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即身仏だった植物魔法使いが魔法学園で自由に生きる話  作者: 木兎梟


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4/15

それは種を運ばせる植物のように

私たちはいまだ、大樹の枝葉の中にいた。

日はすっかり落ち、外は完全な暗闇に包まれている。

唯一助かっていることといえば、ここがかなりの上空にあり、さらに枝葉に囲まれているおかげで、魔物に襲われる心配がほとんどないことくらいだ。

今は、ミズクが作った簡易的なツリーハウスの中で、ミズクが生やした果物を食べている。


うん。

意味が分からない。


※


あのあとモナに落ち着かされ、私は考えることを放棄した。

どうせ今考えたところで、何も分からない。

ミズクと名乗った少女も頑張ってこちらの言葉を喋ろうとしているが、今のところ分かったのは、助けてほしいらしいということくらいだった。

モナと途方に暮れていると、ミズクが心配そうにこちらを見ていた。

ごめんね。助けてあげられなくて。

あと、その触手を近づけるのはやめてね。ちょっと怖い。


「かえれ、ない? ここ、寝る?」


たどたどしい言葉で、健気に言葉を繋げている。


「うん、帰れない。明日になれば帰れると思う。でも……」


彼女に苦笑いを浮かべるほかなかった。

ミズクは心配そうな表情を浮かべると、踵を返して枝葉の奥へ入っていってしまった。

そう。本来は偵察だけのはずだった。

上空なら魔物に襲われることも少ないし、私の『加速』を使えば逃げ切れない魔物はいない。

すぐに帰れる、安全な任務のはずだったのに……。


「モナ、水とか食料とか持ってきてる?」


「う~ん、緊急で呼び出されたから、何も用意してこなかったの……。アルティは?」


「偶然買っておいた飴と、水が少し……」


「明日のお昼まではピィロも出せないから、ちょっと我慢するしかないね……」


二人で意気消沈していると、ミズクが近づいてきた。

今の彼女は、どこからか調達した大きな葉っぱで簡単な服を作っていた。

葉の真ん中に切り込みを入れて頭から被り、腰のあたりを細い蔦で縛っただけの簡素なものだ。

それでも、身長より長く伸びた黒髪は泥にまみれ、顔の半分を隠している。

彼女は私たちの前に座り、


「おうち……作る? ……んー、来て!」


と言って、私の腕を引っ張った。


「わ、ちょっと! ここ枝の上だから! 引っ張らないでっ!」


「あ、待って~」


ミズクに引っ張られながら、枝葉の中を歩いていく。

すると枝葉が、ミズクを避けるように左右へ分かれて道を作った。

足元では枝同士が絡み合い、歩きやすい足場まで形作られている。


(花を咲かせたり、樹を操ったり……植物魔法? でも、なんか……)


後ろを歩くモナも、同じことを考えているのか眉間にしわを寄せていた。

少し歩くと、目の前が急に開けた。

先ほどまでの暗闇が嘘のように明るい空間に、思わず目を細める。


「っ……なにこれ……」


開けた空間の中央には、無数の枝が絡み合ってできた大きな球体があった。

その外壁には、人が出入りできそうな穴がぽっかりと開いている。

どうやら、枝だけで作られた簡易的なツリーハウスらしい。


「おうち……! ごはん……水、ある! 元気!」


「ごはん~!?」


後ろにいたモナの目が輝く。

そんなことより、この空間に疑問は浮かばないのか。

あのツリーハウス、どうやって作ったのか気にならないの?

ツッコミどころがありすぎて頭が痛い……。

いや、今はモナくらい気楽にいた方がいいか。


(考えるな私……。頑張れ私……)


ミズクに招かれ、ツリーハウスの中へ入る。

中は思っていたよりも明るかった。

見たことのない実のようなものが、淡い光を放っている。

作りは簡素だけど天井は高く、三人だけなら十分広く感じる。

中央には切り株でできたテーブルがあり、その上には見たことがあるような、ないような果物が山盛りに置かれていた。

ミズクを見ると、腕を組んで鼻高々に立っていた。

背中から生えた二本の蔦まで、真似するように互いに絡み合っている。

私は何度目かの思考放棄をする。

モナに至っては、もう座り込んでナイフで果物を切っていた。


※


私は、モナが切ってくれたリンゴのような、ナシのような果物を口に入れる。

(ん~っ……♪ なにこれっ……! みずみずしくて甘いっ!)

「アルティ! こっちの緑のおっきい実! 中が真っ赤だよ~! しかも、すっごいみずみずしいの!」


モナはそれをナイフで切り分けると、ミズクがどこからか出した葉っぱの皿に並べていく。

私とミズクはそれを手に取り、同時に口へ運んだ。


シャクッ……。


「!」


一口かじっただけで、その水分量に驚く。

ふと隣を見ると、ミズクも夢中になって果肉にかじりついていた。

その口元から覗くぎざぎざの歯に、思わず目を丸くする。そんなことより…!


(なにこのみずみずしさ!? それに甘い! かじるたびにジュースを飲んでるみたい……!)


つい夢中になってかじっていると、


ガリッ!


「んぐっ……!」


何か硬いものを噛んでしまい、驚いてぺっと吐き出した。

令嬢らしくないとはよく言われるけど、こんなところを誰かに見られたらと思うと、少し顔が熱くなる。

手のひらを見ると、そこには黒い種のようなものがあった。

果肉を見ると、切り口から同じような黒い種がいくつも顔を覗かせている。

ふとミズクを見ると、種をぷぷぷぷっと口から飛ばしていた。


(さすが野生児……)


切っていたモナは気づいていたのか、私たちに見えないよう口元を隠しながら種を出し、何事もなかったように上品に食べていた。


(こういうところに貴族の品が出るんだよねえ……)


ある程度食べ終わったところで、私はミズクのほうへ身体を向けた。


「おいしい果物をありがとう。私はアルティ。アルティ・タイムス。……わかる? 名前、アルティ」


「アルティ……!」


「私はモナだよ~。モナ・ゴート~」


「モナ……!」


「今さら自己紹介でごめんなさい。私たちも混乱してて……。でも、もう大丈夫。あなたのことを聞かせて」


とはいっても、言葉の壁がある以上、聞き出せることには限界がある。

それでも、彼女の事情を聞かないことには始まらない。

ミズクもうんうんと唸りながら考えている。

なんとなく、こちらの意図は伝わっているみたいだ。

すると、何か思いついたように顔を上げた。


「ナイフ、ほしい」


「あ、ナイフ? ちょっと待って」


腰の鞘からナイフを抜き、手の中でくるりと回して持ち手を向ける。

ミズクはナイフを受け取ると、壁面をがりがりと削り始めた。


※


絵から読み取れることと、彼女の拙いながらも必死な説明を合わせれば、ある程度の事情は理解できた。


けど……これは……。


旅から禁忌の森へ帰ってきたミズクとその家族は、何か分からないものに襲われた。

絶望したミズクは、ただ祈ることしかできなかった。

そして、そんなミズクを森そのものが襲い、生贄のようなものにしたらしい。

そこから長い、長い時間を地中で過ごし、自分の身代わりを作って、ようやくここから出てきたらしい。

壁に描かれた絵の中には、魔法学園らしき建物もあった。


(この子、一体いくつなの……? それよりも、そんな長い間ずっと一人でいたの……?)


もし自分だったらと思うと、すぐにおかしくなってしまいそうだ。

そんな途方もない時間を、一人で過ごしていたの?

モナに至っては、もうミズクを抱きしめ、自分の膝の上に座らせていた。

その目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

私もモナと一緒に、この子を抱きしめてあげたい。

けれど、今はぐっと堪えてミズクを見据える。


(ミズクにお礼をするのは、学園に帰ってからでいい。今は私がしっかりしないと)


「ミズク、この身代わり、大丈夫なの?」


コクリ、と頷いた。


「大丈夫、パーフェクト」


「そう。じゃあ、この樹を生やしたのはあなた? 出てくるときに描いてある樹、私たちが今いるこの樹だよね?」


私は、絵に描かれた樹、ミズク本人、そして足元を順番に指さしながら、言葉と身振り手振りで伝える。


あ。

目を逸らした。


(うそでしょ……。どんな出力してるのよ……)


やりすぎなんてもんじゃない。

それに、どれだけの魔力があればこんなことができるのか、想像もつかない。

ほら。

さっきまで泣いていたモナまで、顔を引きつらせてるじゃない。

正直、私だってそんなわけがないと思ってした質問だ。

でも、説明された内容を考えれば、聞くしかないじゃない!

大きくため息をつき、頭に手を当てる。

そもそも、この子の植物魔法はどう考えてもおかしかった。

本来、私たちが知っている植物魔法は、植えられている植物の成長を促したり、すでにある根や蔦を動かしたりするのがせいぜいだ。植物からまったく別の植物を生やすなんて、もってのほかだ。

それなのに、この子の植物魔法は、どう見ても何もないところから植物そのものを生み出している。

それだけじゃない。この樹に生えている植物にも違和感がある。最初に咲かせたあの花だってそうだ。あれは木に生えるような植物じゃない。

どう考えても、植物魔法の域を遥かに超えている……。


「アルティ……」


モナもこの異常さに気づいているのか、心配そうにこちらを見ていた。

モナの考えていることは分かる。

これだけの大樹を生み出し、触媒もなしに植物そのものを生み出す。

そんなことが学園に知られれば、おそらく待っているのは拘束だ。

封印されるか、それとも一生を実験対象として過ごすことになるか。

どちらにせよ、こんな規格外を学園が野放しにするはずがない。

でも……。

今までずっと土の中にいた彼女を、また自由のない暮らしに戻すなんてことはできない……!


※


ここまでの会話を経て、私もある程度は彼女たちの言葉が分かるようになってきた。

絵を描くのは苦手だったけど、どうやら事情も分かってくれたみたいだ。


(でも、世界樹を出したのバレた……。どうしよう……消す? でも、今消したらまずいし……)


私の植物魔法は、一度食べて解析した植物であれば、魔力がある限りいくらでも複製できる。

咄嗟に出してしまった世界樹も、昔解析した植物のひとつだ。

ただ、土に埋められる前の私なら、世界樹なんて枝を一本作るのが限界だった。

だから、どうして今の私が世界樹を丸ごと一本生やせたのか、正直自分でも分からない。

でも、ひとつだけ確かなことがある。

私が複製した植物は、枯らすことで、その植物を作るのに使った魔力を自分へ還元できる。

ただし、食べられたり、ちぎれたりして失われた部分の魔力までは戻ってこない。

原型がそのまま残っていれば、使った魔力をすべて回収できる。

私が出したものなのだから、この世界樹だって枯らして魔力を還元できるはずだ。

顎に手を添えて考えていると、アルティが何かを決意したような表情でこちらを見た。



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