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即身仏だった植物魔法使いが魔法学園で自由に生きる話  作者: 木兎梟


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3/15

新種発見

「は?」


私はそれはもう、力いっぱい魔法を使った。

自分では、ただ木を生やして地面から押し出してもらうつもりだったのだが……。


「出すやつ間違えたあああああ!!!」


私は今、地上はるか上空。

世界樹の枝に引っかかっていた。


「ど、どどどどどうやって降りよう」


下を見ると枝葉が鬱蒼と生い茂り、地面なんてまるで見えない。

おそらく世界樹のてっぺんにいるとしたら、高さは……いや、もう全然分からない。


「えっと、こういう時は落ち着いて……ふう……ふう……」


深呼吸を繰り返していると、今度は別の心配が頭をよぎった。


「Ⅱ(ツー)、大丈夫かな……」


私が森から脱出するために、長い長い時間を掛けて作り上げたミズク2号。

接続自体はうまくいっていたみたいだけど、少なくとも今はこの樹の下にいるはずだ。

世界樹の根に呑まれて壊れてないといいけど……。

私は駄目元で目を閉じ、手のひらを枝に当てる。


「おおっ!?」


一瞬、私の意識が森と繋がった。

森を俯瞰した景色が、目の裏に浮かび上がる。


「まだ繋がれるんだ……なんで? ……ううん、まあいいや……」


再び目を閉じ、樹に触れる。

意識だけで移動するのは慣れている。うれしくないけど。

そのまま意識を地下へ潜らせ、様子を探る。


(あ、いた!)


地下空間には、私が雨期を数えるために咲かせた枯れない花が、床から壁一面、さらには天井までびっしりと咲いていた。

その中央には、体の半分を地面に埋め、無数の根と接続されたミズクⅡ(ツー)がいる。

傷はない。どうやら無事みたいだ。

とりあえず一安心した私は、今度は周囲へ意識を向けてみる。


(……? 鳥……? いや、魔物……? あ、人! 人乗せてる!)


大きな鳥のような人。

その背中には、青と白の髪をした女の子が乗っていた。


「た、助けてくれるかも……!」


こうしちゃいられない。


(あの人たちに助けてもらうしかない! こんなところで一人で死ぬなんて絶対嫌だ!)


背中に魔法陣が展開される。

そこから二本の太い蔦が勢いよく伸び、その間から、平たく細長い植物の本体が姿を現した。

本体の裏側から無数の細い根が伸び、私の背中へ這うように絡みついていく。

根の先端が背骨に接続される。

瞬間、二本の蔦が自分の腕のように感じられた。


(よし、動く!)


二本の蔦を器用に操り、枝を掴んでは身体を引き寄せる。

時折、意識を飛ばして彼女たちの位置を確認しながら、枝葉の外を目指して進んでいった。


---


「アルティ! アルティ! なにこれ!!」


「わ、わかんないよ!」


私は目の前に突然現れた規格外の大樹に完全に思考を持っていかれ、まともな判断ができなくなっていた。


「あ、報告! ガドル先生に報告しよ~!」


「あっ、そっか!」


ポーチから魔結晶を落とさないよう慎重に取り出し、魔力を流す。


「ガドル先生! ガドル先生!」


『聞こえてる! こちらでも確認した! 樹が出てきた瞬間、感知系の先生がぶっ倒れちまった! そっちは無事か!』


「はい! ……私たち、どうすればいいですか!?」


『安全を考えれば一度戻ってきてほしい。だが、無理のない範囲で周囲を見て回れそうか?』


「今のところ、魔物が出てくる気配はありません!」


「モナが見ても、今は魔力が静かなの~。たぶん大丈夫じゃないかな~」


「だそうです!」


『わかった! 無理しなくていい! 危ないと思ったらすぐに離脱しろ!』


「「了解!」」


「モナ、いったん離れて見て回ろ」


「おっけ~」


大樹から距離を取り、全体を見渡せる位置まで離れて周囲を旋回する。

見れば見るほど謎だ。

これほど巨大な樹が、一瞬で生えるわけがない。

原因の見当がまったくつかない。


「おっきいね~。おとぎ話に出てくるユグドラシルみたい」


「いや、えぇ……? いくらなんでも……」


そんな空想の産物、あるわけ……。

と反論したいところだけど、この迫力を目の当たりにすると、もしかして、と思ってしまう。

大樹の根元は、もともと生えていた木々を飲み込むように地面へ広がっている。

樹形だけ見れば、巨大なキノコにも似ていた。

太い幹にはほとんど枝がなく、遥か上空で初めて枝分かれし、そこから傘を広げるように無数の枝葉が伸びている。


「樹が出てきた以外は、とくになんもないね~」


「これ以上問題起きたら対処できないよ……」


「今も対処できてないよ~」


そんなやり取りをしながら、三十分ほど周囲を旋回していると。


「んん……?」


「モナ? 何かあった?」


モナが目を細め、樹冠の一角をじっと見つめる。


「人がいるよ~」


「人!?」


私の目ではまだ見えない。

けれど、鷹の御霊を憑依させているモナには、はっきり見えているようだった。


「魔物じゃないよね……? こんな危ないところに人なんているわけないよ!」


「でもでも~、手振ってるよ? 手じゃないのも振ってるけど」


「どういうことなの……。わかった。慎重に近づいてみよ」


警戒しながら旋回し、ゆっくりと距離を詰めて様子を窺う。

やがて、私の目でもはっきり見える距離まで近づいた。


「たしかに、人……かなあ。女の子みたい。あと裸ね……。あの緑のやつ何……?」


「見たことないね~。ちょっと気持ちわるいかな~。魔物に寄生されちゃってるのかな~」


「ええ!? じゃあ助けたほうが……? いや、討伐? ……ガドル先生に報告か――」


「あ、泣いちゃった! 行ってみよ~!」


「ちょっ、待って! あっ!? 魔結晶!!」


急発進の勢いで、魔結晶が手から滑り落ちた。

森の中へ吸い込まれるように落ちていく白い結晶を、私はただ見送ることしかできない。

そのまま、モナの背に乗せられたまま女の子のもとへ向かっていった。


「そこの人~! だいじょ~ぶ~!?」


「アルティ! 魔結晶落とした! 落とした!」


モナは女の子へ急接近し、近くの枝を鉤爪で掴んで動きを止めた。

黒髪の女の子はすでに泣きじゃくっていて、何を言っているのか分からない。

女の子が手を広げると、緑の触手がモナへ伸びた。


「動かないで!」


私は咄嗟にモナから飛び降り、間に入る。

腰から短剣を抜いて構えた。

けれど、勢いよく降り立ったはずの枝はびくともしない。

枝葉の先にいるはずなのに、まるで大きな丸太の上に立っているような安定感だ。

考えれば考えるほど、この謎の樹に意識を持っていかれる。

私は頭を振って目の前の状況に集中する。


「あなたは何? 答えによってはここで討伐する!」


モナも真剣に彼女を見つめている。

目の前の少女は、身長よりも長く伸びた泥だらけの黒髪を引きずるようにしていた。

泣き続けたせいか目元は赤く腫れ、灰色の瞳はモナと同じように眠たげで、半分ほどしか開いていない。

体はやせ細り、全身泥だらけだ。身長も私たちより低く、見た目だけなら年下に見える。

そして背中からは、謎の触手が伸びている。


(これ……植物? やっぱり寄生されてるかもしれない……!)


「○!※□◇#△!」


「え?」


「◎△$♪×¥●&%#?!」


「は?」


---


なんか全然降りてきてくれないんですけど!

う駄目かもしれない。

そう思うと、また涙が出てきた。


(もう駄目だあああ! ここで死ぬんだあああ!)


……と思ったら、急に降りてきてくれた。


(やった! 助かる!)


鳥の人が何か喋っている。

後ろに乗っている人も、何か言っているみたいだ。


(どこかで聞いたことある言葉だけど……なんだっけ……。ま、いっか! これで助かる! ありがとー!)


泣きながら背中から生やした蔦も一緒に広げて抱きつこうとすると、青と白の髪の女の子が敵意を剥き出しにして降りてきた。

二人とも、白い服の上に緑色の上着を重ねていた。

胸や縁には白い糸で模様が入っている。

見たことない服だけど、同じような格好だし、やっぱり仲間なんだろう。


(え、何? うわ! ナイフ!? わ、悪いことしちゃったかな……!?)


慌てて距離を取り、震えながら相手を見る。

女の子は何か言っている。

でも、ところどころしか分からない。

その中で、聞き取れた言葉だけが耳に残った。


「あなた――――狩る――!」


身が凍る。


「ひゅっ……」


女の子は今にもこちらへ斬りかかってきそうな勢いだ。

後ろにいる優しそうな鳥の人も、彼女を止めてくれそうにない。


「助けてください!」


「ha?」


「怪しい人じゃないんです!!」


「eh?」


(駄目だ! 全然伝わってる気がしない!)


(落ち着けミズク! 旅してた時を思い出せ! こういう場面はたくさんあったじゃないか! 敵意を向けられたら、とりあえずこれだ!)


目を閉じ、今まで食べた中でもとびきり綺麗な花を思い出す。

そう。

私が好きな、素朴で可憐な花。

私には似合わないと思うけど、この花をあなたたちに!

私を中心に、黄緑から深緑へと色を変える魔法陣が展開される。


それに反応して、女の子の敵意が殺意に変わった。


(やばい! ミスった! 死……)


「…………」


(……刺されてない?)


恐る恐る、ゆっくりと目を開ける。

私は青と白の髪の女の子に差し出すように、水色のバルーンフラワー亜種のブーケを向けていた。

それだけじゃない。

周囲の世界樹の枝葉からも、同じ花が大量に咲き広がっている。

気づけば、辺り一面が水色の花畑になっていた。

それに対して目の前の彼女は、鳥の人(……あれ? 普通の人?)に、ナイフを持つ腕を押さえられていた。

しばらくそのままの状態が続いたあと、目の前の女の子はようやくナイフを下ろしてくれた。


(よかった……。安心してくれたみたい……)


でも、どうやって助けてもらおう。

どこかで聞いたことのある言葉なんだけど……。

うんうんと悩みながら、彼女たちを観察する。

どうやら二人で何か言い合っているみたいだ。


(私のことで喧嘩してるなら、本当にごめんなさい……)


目を凝らしてじぃっとみていると、青と白の髪の女の子の胸元にある紋章が目に入った。


(あ、あの胸の紋章……見たことある……)


(……あっ!? あの建物の旗と同じ!!)


思い返してみれば、あの建物にいる人たちを観察していた頃に、少しだけ聞きかじった言葉だった。

途中から研究に集中するようになって、あまり見なくなっていたから忘れていた。


(えっと、たしか……)


---


(まずい!! 攻撃される!)


私は咄嗟に、自分へ『加速(アクセラレート)』を二倍で発動させる。


(いや、発動が速い!? 間に合わない!! ……っ!?)


相打ち覚悟で短剣を突き出そうとした、その瞬間。

それよりも早く、モナに腕を掴まれた。


やられる!


そう思った瞬間、女の子の手にあったのは、水色の花だった。

大きくはない星形の花が、甘い香りを漂わせている。

周囲を見渡せば、いつの間にか私たちは同じ花に囲まれていた。


(なにこれ……花? 綺麗だけど……敵意はないってこと……?)


ちらりとモナを見る。

モナは首を横に振った。

鷹の直感なのか、あの瞬間も女の子から敵意を感じていなかったのだろう。

私は大きくため息をついて短剣を下ろし、腰の鞘へ収めた。


そんなことよりも、だ。


「モナ! どうして憑依解いちゃったの!」


「ごめん~~~! でも、あのままじゃあの子のこと刺してたよ~~!」


「いきなり魔法使われたら誰だってそうする!」


「そうだけど~! あの子からはずっと敵意を感じなかったの! それに、寄生されてるなら自分で魔法なんて使わないと思ったの!」


「それはっ……そうかもしれないけど……。それより、どうやって帰るのよ!」


「はぅっ……それは~……」


そう。

モナの憑依魔法は、同じ御霊をその日のうちに続けて降ろすことができない。

以前、一度だけ無理に連続で降ろそうとしたことがある。

そのときは逆に御霊に身体を乗っ取られかけて、大騒ぎになった。


「もうピィロが降ろせないなら、飛んで帰れない……。通信用の魔結晶も落とした……。しかもここは地上から遥か上……。こんなところで野宿……うう……」


「本当にごめんなさい……」


「ううん、私もごめんなさい。もっと冷静だったら、こうはなってなかったよね」


私も正直、泣きそうになっていた。

けれど、モナの今にも泣き出しそうな表情を見て、はっとする。

自分も反省しながら、モナの頭をそっと撫でた。

そのとき、後ろからか細い声が割って入る。


「ア……ワ、タシ……ミズク、イイマス」


「え……?」


「わたし、ミズク・オウル・フォレストロア」


「……フォレストロア!?」


驚かないはずがない。

この森の遥か南にある辺境領。

その領主が、たしかフォレストロア男爵だったはずだ。


(今回の事件に何か関係してる? これって報告すべき? というか、何が起こってるの……?)


「あなた、フォレストロア男爵の子なの!? ちょっと、ほんとは喋れるんじゃないの!」


「アルティ~! おちついて~!」


「あわわわあうあうあうあう」

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