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即身仏だった植物魔法使いが魔法学園で自由に生きる話  作者: 木兎梟


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14/15

一球入根

wardogsが楽しすぎてな…。

生徒会室へ向かう途中、やけに周囲の視線を感じた。どうやら、さっきイヤリングから聞こえたフェリシアの声は、私だけではなく全校生徒に向けて流れていたらしい。

(私一人を呼ぶのに、やることが大げさすぎる……)

たまらず再びフードを深くかぶり、足早に役員棟へ向かった。

生徒会室の扉を開けると、四角いメガネをかけたフェリシアが奥の席に座っていて、手前の席にはダリアスがいた。


「来ましたわね! ミズク!」


「よっ」


「……道中、恥ずかしかったんだよ? もう……」


フードを外し、生徒会室の扉を閉める。フェリシアは机に積まれた書類へ目を通しながら、さらりと言った。


「学内放送は、個人を指定して送ることができませんの。あらかじめ通信先を決めた通信石同士なら話は別ですが、探索任務や緊急時でもない限り、基本的には使いませんわ」


「あ、そういえばこのイヤリング、もらえてなくて。風紀委員長さんからもらったんだよ」


「あら、私としたことが忘れてましたわ。でも、レイとも面識ができたのならよしですわ」


(どこまで見通してるんだ、この人……)


「ミズク。一日貸し出しの件、覚えてます? あれですわ。今日はテニヌ部からの要請ですわ。災難ですわね」


「おいおい、いいじゃねえか、テニヌ。熱い競技だぜ?」


ダリアスは楽しそうに、剣でも振るように腕を横へぶんぶん振っている。

災難? 競技? 何をさせられるの……?


「ダリアス。あれは蛮族の競技ですわ……」


「フェリシアは分かってないな! あれこそ紳士の競技だ」


「ちょっと待って! 何をさせられるの、私!? ちゃんと説明して!」


テニヌ。それは、エクスが王となった時代までさかのぼる。

エクス・ガリヴァー王がこの国に広めたとされる競技で、当初は、バウンドするこぶし大のボールを『ラケット』と呼ばれる網を張った道具で打ち返し、相手が返球できなければ得点。一定数のポイントを先取すれば勝ち、というものだった。

この競技は貴族の間で爆発的に広まり、屋敷の敷地内に専用のテニヌ場を造る者まで現れたという。

しかし、やがて一部の貴族が言い始めた。


「なんか、地味じゃない? 魔法を使おうか!」


一部の地域で魔法を使用したテニヌが始まると、それに合わせてルールも少しずつ変化していった。

そして現在。変更に変更を重ねた結果、テニヌは最初期とはまったく別物と呼べる競技へと変貌している。


「現在の公式ルールを大まかに言えば、一定数のポイントを先取するか、相手のラケットを三本すべて破壊する、もしくは相手を続行不能にすれば勝利ですわ」


「あの……続行不能って?」


「そのままの意味だ。気絶、リタイア、その他諸々。相手が続けられなくなったら終わりだな」


「蛮族の競技じゃん!」


「おま、違うんだよ! これだからいいとこの出は! いいか! 自分の魔法を極限まで使って、相手がすべてを込めた球を打ち返す……そうすることで、お互いのことが分かるんだ! 分かんねぇかー……!」


拳を握りながら熱く語るダリアス。それを、私とフェリシアは少し引いた目で見つめていた。

いや、でも私はまだ実際に見たことがない。案外、言うほど物騒な競技でもないのかもしれない。


「はぁ……。とりあえず、午後三時から行ってもらいますわ。私たちも同伴しますから、危なくなったら止めますわ……」


「なら安心……かな……?」


「ああ。そこは安心してもらっていいぜ」


「そこまで言うなら……」


結局、二限目に行くのは諦めて、テニヌのルールを詳しく教えてもらった。

基本は相手の身体を狙って打つらしく、ボールを打ち返せずに空振りした場合や、返したボールが相手のコートまで届かなかった場合は、相手にポイントが入る。

ちなみに、避けても相手のポイントになるらしい。

(なんだこれ……)

各ポイントの最初の一球だけは、必ず相手のコートで一度バウンドさせなければならない。それ以降は、バウンドさせても、そのまま打ち返してもいいらしい。

二限目の授業の終わりを告げる鐘が鳴ると、アルティとモナも生徒会室へやってきた。


「放送聞いたよ〜。ミズクちゃん、呼ばれてたけど何だったの〜?」


「……テニヌ部に一日貸し出しだって」


「いいわね! テニヌは楽しいわよ!」


「アルティも分かるか!」


アルティはテニヌ肯定派か……。

それから、アルティとモナと一緒に生徒会室をあとにした。午後三時までは自由にしていいとフェリシアに言われたので、まずは昼食をとりに食堂へ向かうことにした。

役員棟を出て、中央棟を通り抜けて食堂へ向かうと、入口からあふれそうなほどの生徒が集まり、長い行列ができていた。


「あちゃ、出遅れたか」


「こんなに人いたの……?」


「そうだよ〜。でも、お昼休みは長いから、のんびり待ってても大丈夫だよ〜。寮の売店でも軽食を売ってるから、そっちならすぐ食べられるかな〜」


「学食でもいい……? 朝ごはんおいしかったし……。お昼も食べたいかな」


「じゃあ並ぼっか」


「並ぼ〜」


結局、長い列に並んで昼食を済ませた。昼は朝よりも種類が豊富で少し迷ったが、モナにおすすめされたオムライスを選んだ。トマトソースと鶏肉で炒めたご飯(チキンライスというらしい)の上に、とろとろの半熟卵がかかり、さらにキノコ入りのホワイトソースまで添えられている逸品だ。


「ん~~~~~~~♪」


あまりのおいしさに、思わず目を見開いてしまった。口の中でとろける卵に、チキンライスとホワイトソースが絡む。その相性が抜群によく、飲み込んだそばから次の一口を掬っていた。


食事のあと、紅茶を飲みながら他愛のない話をして、しばらくのんびりと過ごした。その後、薬学の授業へ向かうことにした。途中までアルティたちが案内してくれたので、今度は迷うことなくたどり着けた。教室の扉を開くと、すでにミルロ先生と、数人の生徒たちが雑談をしながら席についていた。ミルロ先生が私を見つけて、わざわざこっちまで来てくれる。


「あ、ミズクさん! 来てくれてありがとうございます! 見ての通り、薬学は植物学より生徒が多いので寂しくありませんよ。今回も植物学と同じく概要説明だけですので、気楽に受けてくださいね。ではでは、お好きな席へどうぞ♪」


「あ、はい……」


周りを見回すと、どの生徒たちもすでにグループができているのか、数人ずつまとまって座っていた。とりあえず、私は端の空いている席に座ることにした。アルティたちだって、向こうから話しかけてくれたから話せているだけで、自分から知らない人に何を話せばいいのか、正直よく分からないし……。 授業自体は、言われた通り今後の授業方針や試験方法などの説明だけで終わった。最初のうちは座学を中心に進め、後半からは実際に調合を行うらしい。調合にミアグラスプは使えないし、寮に戻ったら道具も確認しておこう。 そんなことを考えているうちに授業は終わり、もらった教科書を鞄に詰め込んだ。最初はどの授業もこんなものなのかな……。だとしたら、最初から少し気を張りすぎていたかもしれない。そんなことを思いながら、教室をあとにした。 そのあと、もう一つ授業を受けてから、午後三時前に生徒会室へ戻った。部屋にはすでにみんなが揃っていた。


「時間通りですわね。早速、行きますわよ」


そうして私たちは、テニヌ部の活動場所へ向かった。中央広場から北へ進むと、魔法演習場があり、その先には運動場が広がっていた。さらに少し進んだところに、半透明の壁で囲まれた広い区画がある。


「どぉおおおおりゃああああ!!!!」


「ふぬらばあああああああ!!!」


「ちぇすとおおおおおおお!!!」


男女問わず、奇声を上げながらボールを打ち返している。


「ここですわ」


(帰っていいですかー!?)


顔を真っ青にしながら後ずさると、ダリアスにフードをつかまれてしまった。彼はニヤニヤしながらこちらを見ている。ムカつく……! コート脇にある建物の扉が、ドンッと大きな音を立てて開いた。そこから、身長二mはあるであろう大男が現れる。筋骨隆々の身体に、半袖と短パンが悲鳴を上げそうなほどぴっちりと張り付いていた。


「来たか!! 生徒会!!」


声がデカい!! まだ向こうにいるのに、その声だけで圧倒されてしまう。大男はズンズンとこちらへ歩いてくる。近づくにつれて、その大きさがますます際立ってきた。こえぇ……。 大男が目の前まで来ると、私は首が痛くなるほど見上げるしかなかった。なんというか、すべてがでかすぎる……! そんなことを思っていると、彼は突然、私の両脇に手を入れてヒョイッと持ち上げた。


「ひゃあ!?」


「ふむ、ふむふむ。細いな!! だが噂は聞いているぞ!! 魔法の腕は素晴らしいとな!! 一日貸し出しではあるが、体験入部だと思って楽しんでくれ!!! ガハハハ!!!」


そのままフェリシアの制止も聞かず、建物へ連れていかれた。そして、用意された紺色の半袖と短いスカート、運動靴に着替えることになった。いつもの長いスカートとは違って、なんだか足元が少し心もとない。 ただ、スカートの下には、下着の上から『スパッツ』なる黒い短パンを履いている。これなら、まだそこまで恥ずかしくはないか……。 その後、簡単な準備運動を済ませると、ラケットを渡された。受け取ったラケットは少し重く、網の部分には普通の糸ではなく、かなり硬く丈夫そうな糸が張られていた。ちょっとやそっとでは破れそうにない。 ボールも触らせてもらったが、こぶし大で軽く、よく跳ねる。これなら、当たってもそんなに痛くないかも……。 そして、そのままさっそくコートに立たされた。コートは幅三mほど。多少は左右に動けるものの、逃げ回れるほどの広さはない。目の前には、長いポニーテールの女子生徒がボールを持って立っている。


「新入部員には、まず簡単な練習だ!! 大丈夫!! 軽く打ってみようか!!」


(まだ入部してないんだけど……)

対面している女子部員が、

「いきますよ~」

と声をかけて、ボールを宙に放った。軽く膝を曲げ、そのまま小さく跳び上がりながらラケットを振るう。軽い音を立ててラケットに当たったボールは、私側のコートで一度跳ね、そのままこちらへ向かってきた。それほど速くはなかったので、身構えていた私は教えられた通りにラケットを振った。

「よっ、と」

ラケットの網の部分にポコンと当たると、ボールはしっかり相手側のコートへ飛んでいった。

(ちゃんとできた! これ、楽しいかも!)

相手もその場から軽く打ち返してくれる。何度かラリーを続けているうちに、私の打ったボールがコートの外へ飛んでいってしまった。

「あ、ごめんなさい!」

「いいよいいよ! 次、少し強めにいきますね〜!」

「はーい!」

彼女はポケットから新しいボールを取り出し、何度か地面に弾ませてから受け止めると、最初と同じように宙へ放った。 最初と同じ動きだった。膝を沈めて軽く跳び上がり、ラケットを高く振り抜いてボールを捉える。

ドッ!!ッパァァン!!

「え?」

ボールは私の頬をかすめ、そのまま後方の防護壁へ大きな音を立ててぶつかった。防護壁がバチバチと音を立てながら、ようやく勢いを殺していく。

「チッ……」

「え?」

今、舌打ちした!?

ヤバい。足が震えてきた……。

「ミズクー! それぐらい返せないとゲームが始まらないぞー!」

後ろからダリアスが野次を飛ばしてくる。 嘘でしょ……。ボール、全然見えなかったんだけど……。

「いきますよ〜!」

「え!? ちょ、待って……」

彼女はもう、ボールを宙へ放っていた。 ヤバい! ヤバいヤバいヤバい! あんなの当たったら首がもげる!? 私は無意識にミアグラスプを背中から伸ばし、同時に全身へ魔力を纏う。

ドッ!!

相手から放たれたボールが地面を叩き、こちらの顔面へ向かって跳ね上がる。 その瞬間、さっきまでまったく見えなかったボールの動きが、妙にはっきりと目に映った。まるで、周りだけがゆっくりになったみたいに。

あ、走馬灯だ……これ……。 私、死ぬのか……。こんな変な球技で……。 ……こんなんで死ねるかアアア!!

ミアグラスプのツルを腕に巻きつけ、球筋に合わせて身体を横へずらす。そのまま一心不乱にラケットを振るった。

「うっぐぅぅぅ!!」

ボールがラケットの中心に食い込む。あまりの重さに、ラケットを握る腕ごと引きちぎられるんじゃないかと思うほどの衝撃が走った。 私はさらにツルをラケットへ巻きつけ、腕ごと強引に固定する。

「うりゃあああ!!」

そのまま力任せに振り抜いた。 ボールはサーブの勢いを乗せたまま、対戦相手へ鋭く飛んでいく。 研ぎ澄まされた感覚の中、私は彼女がにやりと笑ったのを見た。 彼女は、ボールを捉えるようにラケットを持っていない方の手を前へ伸ばし、ラケットを身体の後ろへ引く。 今なら分かる。彼女の魔力が脚、胴、腕を通り、ラケットにまで集まっているのが。

「はぁああああ!!!」

ラケットの真芯でボールを捉え、軽々と打ち返してくる。 なんなら、ボールが燃えてる気がする!! 速度はサーブほどではない。私は再び身体の軸をずらし、打ち返そうとラケットを振った。

「うっ!!?」

(おっっもぉっ!!)

燃えるボールがラケットに当たった瞬間、その理由が分かった。とてつもない回転がかけられていて、ボールが網に食いつくように離れてくれない。 ミアグラスプへさらに魔力を送り、腕に巻きついたツルを太くして身体を支える。

これなら……!

強引に打ち返そうと力を込めた、その瞬間。 ふっと、ラケットが軽くなった。 次の瞬間、背後から防護壁を叩く大きな音が響いた。

「はぁ……はぁ……えぇ?」

ラケットを見ると、網が焼き切れたように裂け、真ん中に大きな穴が空いていた。

(えぇ……)

(……でも、なるほど。回転と熱で、網が先に耐えられなくなっちゃうんだ……)

残りはあと二本。端のベンチに置いてあるラケットを手に取り、再びコートへ向かった。

※

「お〜。ありゃ初歩的な火炎弾だが、あそこまで回転がかかってるのはそうそう見ねぇな」

ラケットを破壊され、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているミズクを見て、隣のダリアスは口角を上げています。自身もこの蛮族の球技の経験者だからか、さっきからずっと解説口調ですわ。

「ダリアス……。あんなのが当たったら、ミズクが死にますわ」

「あ? 大丈夫だろ。まあ、仮に当たっても、あれのいい実験台だろ」

「……まあ、そうですわね」

「お、ミズクもやるな。蔦まで使い始めやがった」

「……結構、彼女も楽しんでません?」

「案外やってみると楽しいんだぜ? 今度フェリシアもどうだ?」

「ぜっっっっっっったいやりませんわ!!」

※

コート内を起点に、魔法で物体を生成するのは禁止らしい。なら、コートの外で作る分には問題ない……のかもしれない。試しにやってみたけど、誰にも止められなかった。どうやら合っていたらしい。よかった。 私はコートの外から蔦を伸ばし、交差させるようにして、炎をまとったボールを一度受け止めることにした。作戦はうまくいった。蔦に勢いを削られたボールが、こちらのコートでバウンドして向かってくる。あとは、それを力いっぱい打ち返すだけだ。 ただ、力いっぱい打ち返しても、対戦相手にはあっさり返されてしまう。

(決定打がない……!)

腕をツルで補強しているとはいえ、さすがにつらくなってきた。どうにか、一泡吹かせられないかな……。 考えていると、再び相手が炎をまとったボールを放ってきた。蔦を生やして対処した、その時。ふと、あることに気づいた。

(ボールには魔法を使ってもいい……。ああ、なら!)

思いついた作戦に、つい口元が緩んでしまった。

※

(昨日入学してきた初心者の相手をさせるなんて、ひどい人だね、部長は……って思ってたけど、順応するのがかなり速いな、この子。まあ、私も同じ一年だし、人のこと言えないけど!)

私は身体強化をさらに強めて、飛んできたボールを打ち返す。あの子に決定打がないのは分かった。でも、それは私も同じだ。こうなったら、あとは根比べ! 次も普通に返してくる。そう思って構え直した、その時だった。黒髪の少女の打ったボールが、はるか高くへポーンと打ち上がった。

(浮いた! 初心者にはよくあるミスだね!)

高く上がったボールを追いながら、ラケットを構える。

(これで決める!)

「ラズリー!! 避けろ!!」

脇で見ていた部長が叫んだ。

「え?」

部長の声に気を取られていると、ふいに頭上から大きな影が落ちてきた。

(あれ……? さっきまで明るかったよね……?)

再び頭上を見る。打ち上がったはずのボールは、いつの間にか巨大な塊へと姿を変え、私めがけて落下してきていた。

「わあああああぁぁああ!!」

私は慌てて横へ飛んだ。 直後。

ずどおぉぉん……!!

重たい音とともに、巨大な塊がコートへ落ちた。振り返って恐る恐る確認すると、そこには何本もの木の幹が複雑に絡まり合っている。

「はぁあ!? なにこれ……?」

向こう側では、初心者のはずの少女が嬉しそうにしていた。

「植物魔法でこの手を使うのは初めて見たな!! 初心者とは思えぬ、いいセンスだ!!」

周りで見ていたほかの部員たちも、うんうんと感心したように頷いている。あまり驚いていないところを見ると、こういう奇策自体はテニヌでは珍しくないのかもしれない。 悔しくて唇を噛んでいると、部長が私の肩に手を置いた。

「この手を見るのは初めてか!! ならば、私が手本を見せよう!!」

周囲が部長の出場に大いに沸いた。私も、部長がこうして試合に出るのを見るのは初めてだった。

※

「フェリシア! ダリアス! 見た今の!」

私は初めてのポイントについ嬉しくなって、外で見ていた二人に報告していた。

「おー!! やるなあ!! ありゃメテオフォールって技だな。最初は氷魔法の得意な選手が編み出した技だ。植物魔法で見るのは初めてだが、やるじゃねえか!」

「対戦相手も、ずいぶん驚いているようですわね」

あれ、若干フェリシアの視線が違う気がする。気のせいかな? えへえへと喜んでいると、

「生徒会庶務!! 今度は私が相手だ!!」

振り返ると、コートには部長が立っていた。彼の身体からは魔力がほとばしっているのが分かる。

「え゛……?」

「後学のためにも必ず受けてもらうぞ!!」

「ひっ……」

顔が引きつってしまう。血が冷めていくのを感じる。

「あー、やべぇな。フェリシア、行くぞ」

「何となくオチが分かりましたわ。ミズク、必ず生き残りなさい」

「ちょっと待って、あれ止めてくれない!?」

二人は結界の入口へ向かって走っていってしまった。

「さあ!! やるぞ!!」

「ひぃぃ……」

脚を震わせながら、再びコートに立つ。正直、逃げてもいい気がする。でも、あの部長に追いかけ回される未来しか見えないし、逃げ切れる自信もまったくない……。

「そう怖がることはない!! メテオフォールを打てる選手がうちにはいないのでな!! 私に向かって、さっきのを打つがいい!! 行くぞ!!」

こちらの返事を待つこともなく、部長はサーブを放った。身構えていた私は、拍子抜けするほどゆったりとしたボールに驚いてしまった。

(あ、打ち上げやすくしてくれたのかな……?)

ラケットの網に、こっそり種を仕込む。私側のコートでボールが一度跳ね、それを空高く打ち上げた。ラケットの網に仕込んでいた種が、打球の瞬間にボールへ張りつく。 ボールが最も高い位置まで上がったのを確認し、私は魔法を発動させた。種が一気に発芽し、伸びた木がボールを包み込むように絡みついていく。

(さっきよりも大きくできた! これなら……ひぃっ!?)

部長は、落ちてくるボールではなく私を見ていた。 怖すぎる!! ようやくボールを一瞥した、その瞬間。部長の上体が消えた。 いや、消えたように見えるほど、大きく身体を反らしたのだ。

「ふぅんんん!!!!」

ドガァアァン!!

部長がラケットを振り抜く。巨大な木の塊がラケットに激突した瞬間、その場で弾けるように爆発した。

「は? ……ぐぇええーーー!!??」

気を抜いていたうえ、爆発に目を奪われていた私は、とんでもない速度で破片と一緒に飛んでくるボールへ反応できなかった。

ドンッ。

身体に直撃する。たぶん、肩のあたり……。 私はそのまま吹き飛ばされ、結界の壁へ背中から叩きつけられた。 あ、死ぬんだ……私……。

「「ミズクーーー!!?」」

ああ、フェリシア、ダリアス……。私はここまでだよ……。

ガクッ。

私は、そのまま意識を失った。

※

「と、まあこのように!! ラケットの側面で打つことで、ボールの周囲を覆っているものを破壊し、その破片ごと打ち返す!! メテオフォールへの常套手段だ!! 分かったな!!」

「「「はい!!」」」

部長はミズクを吹き飛ばしておきながら、何事もなかったかのように講習を続けていました。 やっぱり狂ってますわ!! ダリアスが部長へ抗議に向かっている間に、私は急いでミズクのもとへ駆け寄ります。

「っ……ひどすぎますわ……」

ミズクは白目をむき、泡を吹いたまま完全に気を失っていました。身体には砕けた木片がいくつか刺さっていて、見るからに痛々しい状態です。 私はまず、刺さっている大きな破片を取り除きます。その後、ミズクの頭を膝の上に乗せます。鞄から、この間もらったミズクお手製のポーションを取り出し、瓶の口を彼女の口へ突っ込みました。 気絶していても、口に入れば分析されて消える可能性があります。少々乱暴ですが、やむを得ませんわ。 すると、肩や破片でできた傷が緑色に光り、みるみる塞がっていきます。

(効果も治癒速度も段違いですわ……! これが量産できれば……ポーション市場のシェアを奪えますわ!!)

不謹慎だとは思いつつも、ニヤニヤが止まりません。

「ダリアス。ミズクを医務室へ運んでくださる? 事後処理はやっておきますわ」

「……はいよ。了解した」

部長と言い争っていたダリアスを呼び止め、ミズクを運んでもらいます。 こうなる可能性は考えていましたが、まさか部長まで出てくるとは想定外でした。 まったく……頭痛がしてきましたわ……。

※

医務室で目を覚ましたあと、念のためしばらく休まされ、寮へ戻った頃にはすっかり夕方になっていた。

「―ということがあってね」

「へぇ、大変だったねー」

ここは女子寮にある、私とヴィヴィの部屋。私はベッドに横になりながら、興味があるんだかないんだか分からない返事をするヴィヴィに、今日あったことを話していた。 ヴィヴィはというと、机に向かって爪に何かを塗っていた。塗り終えた爪は艶があり、光を反射している。

「ヴィヴィもテニヌやるの?」

「ん〜、爪が傷むからやらないなー。あ、でもやったら結構いいとこまでいけると思うよ。ああいうの、得意な気がすんだよねー」

塗り終えた爪にふーっと息を吹きかけているのを眺めていると、ヴィヴィがこちらを向き、目が合った。

「なに? あーしが何してるか気になる?」

「うん、少し」

「これはネイルって言ってねー。爪をきれいに見せる、あーしたちの故郷でやってたおしゃれなんだよねー。どうよ」

そう言いながら、ヴィヴィは少し自信ありげに爪を見せてくれた。彼女の爪は少し長く、先端が尖っていた。黒い塗料が塗られ、その上から透明な液で覆われていて、つやつやと光っている。

「かっこいいね」

「でしょ。ミズクにもやったげよっか?」

「いいの?」

「ルームメイトだから特別。何色がいい? あ、やっぱあーしが選んだげる」

「ありがと……似合うやつで」

そう言って、私はヴィヴィに手を差し出した。

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