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即身仏だった植物魔法使いが魔法学園で自由に生きる話  作者: 木兎梟


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11/15

接ぎ木

目を覚ますと、そこは学園の医務室だった。ベッドの脇では、モナがいつもの姿でこちらへ突っ伏したまま眠っている。そっと頭を撫でてあげると、モナは目を覚ましてしまった。


「んぅ……? あ、アルティ〜……起きたんだ〜。無理しちゃダメだよ〜」


まだ眠たそうにしながらも、のっそりと身体を起こして立ち上がる。


「先生、呼んでくるね〜」


そのまま、ふらふらと部屋を出ていった。少し心配になりながらその背中を見送ったあと、窓の外へ目を向ける。空には月が浮かんでいた。


(今、何日だろう……。私、どれだけ眠ってたんだ……)


その後、医務室の先生にガドル先生、それどころかポート先生までやって来て、私のベッドをぐるりと取り囲んだ。その隙間から、モナが申し訳なさそうな顔でこちらを覗いている。


(あなたも当事者でしょうが! こっち来て、一緒に言い訳考えようよ!)


医務室の先生が、最初に口を開いた。


「アルティさん。あなたは三日前、魔力欠乏症と極度の疲労で意識を失いました。意識を失う直前、何をしていたか覚えていますか?」


(えっ……三日も寝てたの……?)


「あ、はい……覚えて…………やっぱり忘れてます。オボエテマセン……」


「嘘は感心せんなぁ」


「ごめんなさい。全部覚えてます……ごめんなさい」


ガドル先生に低い声で牽制され、私はあっさり白旗を上げた。


「記憶障害がなければ、おおよそ問題ありません。明日の午後には日常生活に戻っても問題ないでしょう。お腹、空いていませんか? 簡単なものなら持ってこさせましょう」


そう言われた途端、お腹まで白旗を上げるように、ぐぅぅ……と鳴り出してしまった。恥ずかしい……。


「オネガイシマス……」


「分かりました。少し待っていてください」


そう言うと、白衣の先生は部屋を出ていった。


「モナ。お前もこっちに来い」


「えぇっ……。はい……」


モナも渋々こちらへやって来て、さっきまで白衣の先生がいた場所に収まった。


「さて、件の事件だが、アルティの援護のおかげで、遭難者も死者もゼロだ。その点については礼を言わねばならん。俺も助けられた。……ありがとう」


「そ、そんな! できることをしたまでで……。誰も死ななくて、本当によかった……」


「それはそれとして、だ!」


「「ひっ」」


モナと一緒に、情けない声が漏れてしまった。


(やっぱり怒られるよね!)


「貴様、アストアやフェリシアに報告もせず出撃したな!! もしものことがあったら、どうするつもりだった!!」


「えっ!? い、いやっ、私はちゃんと――」


「言い訳をするつもりか!!」


「ひぅっ!?」


(あいつら、見てないことにしたな!? 絶対に許さない!!)


モナに至っては、すっかり他人事のような顔でこちらを見ている。


(アルティ、やっちゃったね〜)


とでも書いてありそうな表情だ。


「考えなしに出撃してしまい、申し訳ありませんでした……。反省しています……」


言葉が途切れたところで、ポート先生が会話に割って入った。


「まあ、この件についてはさっき言った通り、全員無事だったことで相殺ってことでいいよな」


「……納得はしておらんがな」


「俺たちが聞きたいのは別のことだ、アルティ。モナと二人で偵察に行ったあの日……いったい何を見た? 何があったんだ」


心臓が、どくんと大きく跳ねた。額にじわりと汗がにじむ。


「現在、あの森から巨大樹は姿を消し、今ではそこに最初からあったかのように普通の木々が生えている。俺たちが遭遇した不気味な魔物も、死体以外は見つかっていない。あの木に一番接近したのは君たちだ。何か知っているのであれば、話してほしい……」


どうしよう……。ここで誤魔化したところで、おそらくガドル先生やポート先生には簡単に見透かされる。二人とも、逃がすつもりはないと言わんばかりの目でこちらを見ていた。先生たちの気持ちも分かる。もし今回の事件が、誰かの悪意によって引き起こされたものだったなら、早急に次の手を打たなければならない。モナもそれが分かっているのか、何も言えずにいる。


ミズクとは、たった一日ほどしか一緒に過ごしていない。それでも、彼女が途方もなく長い時間を土の中で過ごし、ようやく太陽の下を歩けるようになったことは知っている。またどこかに閉じ込められるかもしれないのなら、私は――。


嘘を貫き通そうと口を開きかけた、その時。医務室の扉が開いた。


「私から説明いたしますわ」


「フェリシア!?」


「フェリシア。お前が出てくるということは……ダイヤモンド財団が関わっているのか?」


「ええ、そのとおりですわ」


ダイヤモンド財団。その歴史はガリヴァ王国よりも古く、現在では王国の商業のほぼすべてを担っていると言っても過言ではない。各地に商館や倉庫を持ち、商隊の護衛や輸送、遠隔地への送金、商人同士の仲裁まで請け負っている。それだけでなく、薬学や素材などの研究にも手を広げているらしい。フェリシア・ダイヤモンドは、そんな財団を率いる一族の次女であり、その後継者候補の一人でもある。


「今回の事件は、ダイヤモンド財団とフォレストロア男爵が共同で進めていた、千年前の安定した魔力循環と生態系を取り戻すための計画――『生命の森復活計画』によるものですの」


「生命の森復活計画?」


ここにいる私とモナは、そろって目を丸くしていた。


(なにそれ、聞いてない……)


ガドル先生に至っては、険しい表情でフェリシアを睨んでいる。


「詳しく聞かせてもらおうか。事と次第によっては、グラドリップ魔法学園から正式に抗議せねばならん」


凄みを利かせるガドル先生にも、フェリシアは顔色一つ変えずに答えた。


「もちろんですわ。順を追って説明させていただきます。事の発端は、フォレストロア領で古文書が発見されたことですの。その内容はガリヴァ王国の成立よりも古く、さらに旧帝国の成立以前にまで遡りますわ。発見された時にはすでに原形を留めないほど傷んでおりましたが、判読できる箇所から解読を進めましたの」


「な、なんて書いてあったんだい?」


ポート先生も興味を引かれたのか、前のめりになって尋ねる。


「『生命の森、ユグドラシル、万物を産まん』。そう記されていたそうですわ」


「ユグドラシル……よくお伽噺に出てくる、あれか」


「ええ。およそ千年前、この禁忌の森は『生命の森』と呼ばれ、その中央にはユグドラシルが生えていた。古文書からは、そのように読み取れたそうですの」


「話が読めた。つまり財団は、この森にユグドラシルを復活させ、そこから得られる何かを欲したと」


「そう捉えていただいて構いませんわ。とはいえ、この計画は私の耳にも入っていなかった極秘のもの。詳しいことは、今でもお父様は教えてくださらないのですけれど」


「しかし、どうやって生やした。あれほど巨大な木を。……魔法とでも言うのか」


「ええ。信じられないとは思いますが、あれを生やした魔法使いがフォレストロア領におりますの」


フェリシアは一度言葉を切った。


「名前は、ミズク・オウル・フォレストロア。フォレストロア領主、イグル・ホーク・フォレストロア男爵の腹違いの妹ですわ」


私を含め、全員がフェリシアの話に釘付けだった。モナに至っては、


「ほぇ〜」


「知らなかった〜」


なんて言いながら、完全に信じ込んでいる。


(あれ、一緒にいたよね?)


「とても信じられんな……。どうやって生やした。種はどこから手に入れた?」


ガドル先生は、いまだ疑いを捨てきれないらしい。


「ユグドラシルの種は、フォレストロア家の家宝として代々秘密裏に受け継がれていたそうですわ。そして千年の時を経て、それを復活させる力を持った少女が現れた。なんとも数奇な巡り合わせですわね」


「あの、質問なんだけど」


ポート先生が手を挙げ、会話に割って入る。


「ええ、なんでも聞いていただいて構いませんわ。とはいえ、私も知らされていることは限られておりますので、お手柔らかにお願いいたしますわ」


「千年前に生えていた世界樹はどうなったんだ? あんなデカいもの、どうやったら消える? あの森にはそんな痕跡はないぞ」


「ええ、確かに。ですが、財団の事前調査で、ユグドラシルの枯れ木と思われるものを発見しておりますの。森の中心に、周囲とは明らかに異なる白い小さな枯れ木が一本」


「なる、ほど……」


ポート先生は顎に指を当て、何かを考え込むように黙り込んだ。


「つまり、その後に発生した魔物と、後日判明した森の魔力減少による衰退。そのどちらもユグドラシルが原因だと、財団は考えているのだな。だから、ことが大きくなる前に消した、と。……それも、そのミズクという少女がやったのか?」


「そう聞かされておりますわ」


「……あの場にいたということか。概ね分かった。だが、やはり魔法学園としては、事前に計画について知らせるべきだった。死者が出なかったからよかったものの、我々は実際に危険な状況へ追い込まれた。これに関しては、正式に抗議文を出させてもらうぞ」


「ええ、覚悟しておりますわ。ならびに、財団の娘として、代わって謝罪させていただきます。誠に申し訳ございませんでした」


そう言うと、フェリシアは深々と頭を下げた。


「もういい。頭を上げろ、フェリシア。お前が謝ることではない。行くぞ、ポート。これから報告書作りだ」


「へいへい。アルティ、お大事にね」


私とモナも頭を下げ、二人を見送った。二人が部屋を出ると、フェリシアは頭を上げて私たちを見る。何か言おうと口を開きかけたが、そこへ廊下で待っていたらしい白衣の先生が、食事を載せたお盆を持って入ってきた。


「話が終わるのを待っていましたが、少し冷めてしまいました。ゆっくり、残さず食べてくださいね」


「ありがとうございます」


「それでは、私もこれで失礼しますね」


ようやく三人だけになり、お互いに顔を見合わせた。


「……フェリシア、何が起きてるの?」


「ちょっとお待ちを……」


フェリシアは部屋の外に誰もいないか確認すると、静かに扉を閉めた。それからようやく、ふぅ……と一息ついた。


「あなたが下手な嘘をつく前に、ぎりぎり間に合ってよかったですわ」


「あの……一から説明して?」


「私もさっぱりだよ〜」


「……モナもですの? 一緒に行動していたでしょう?」


「ミズクちゃんに会いに行ったこと?」


「そうだけど、そうじゃありませんわ!」


「ちょっとちょっと! 置いてけぼりにしないで! ちゃんと説明して!」


「さっき先生方に話したことは、ほとんど全部、嘘であり事実なんですの」


「……? どういうこと?」


「『生命の森復活計画』。この計画は、あなたが寝ている間に、本当に存在した計画になりましたわ」


「は?」


「そして、ミズクがイグル男爵の腹違いの妹というのも、戸籍上は事実になりましたの」


「ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って。えっと……え……?」


「嘘というのは、こうやって作るものですわ。よく覚えておきなさいな」


「つまりね〜。フェリシアが全部手回ししてくれて、一件落着ってことだよ〜」


「お父様にはだいぶ不利な契約を飲まされましたが、ミズクという金のなる木を手に入れたんですもの。その後の利益を考えれば、何も問題ありませんわ」


「いやいやいや、もう少し詳しく……お願い!」


あとからゆっくり聞かせてもらった話では、私が寝ている間に、フェリシアは財団本部にいる会長である父親と連絡を取り、この嘘の計画とミズクのことを話して、契約を結ばせたらしい。その結果、存在するはずのない古文書をでっち上げ、『生命の森復活計画』という形だけの計画書まで作成したのだ。


「ミズクの能力については、嘘を交えて伝えてありますので、おそらく今後、彼女の自由に支障はありませんわ」


とフェリシアが言っていたので、その点は安心していいらしい。ミズクの戸籍についても、イグル男爵やミズク本人と直接話したうえで、実在する孤児院にも口裏を合わせてもらったという。


実際、腹違いの妹という話自体、貴族の間ではそれほど珍しくない。今まで存在を知られていなかった子供が、後になって突然出てくることだってある。ましてや辺境の男爵家の家族事情なんて、わざわざ気にする人も少ないだろう。そう考えると、イグルさんが男爵でよかった……と言うべきなのかな。近々、正式にフォレストロア家の一員として認められる予定だとか。


(ダイヤモンド財団、恐るべし……)


「この計画だって、かなり綱渡りでしたのよ? あなたがもっと早く目を覚まして、下手な嘘でもついていたら、すべて水の泡になるところだったのですから」


「……そういえば、私たちのこと、うやむやになったね……」


「計画通りですわ。あとで聞かれても、財団から口止めされていたとでも言っておきなさい」


「まぁ、もしアルティが起きても『また寝かせてあげるから大丈夫だよ〜』って言ってたけどね〜」


「あなたねぇ! 事情聴取されないように、看病の時以外はずっと私が連れ回していたんですのよ! おかげで相当怪しまれてたんですのよ!」


フェリシアが、やれやれといつものように肩を落とした。


「ふふ……」


思わず、笑みがこぼれた。自分でも無意識だったことに気づき、はっとする。そんな私を見て、モナとフェリシアは顔を見合わせた。そして二人とも、つられるように微笑んだ。


「明日は学園に戻ること。いいですわね?」


「アルティが来るの、待ってるから〜」


「うん、分かった。また明日」


そう言って、二人は部屋を出ていった。静かになった医務室で、ようやくお盆の上の食事に手を伸ばす。スープはすっかり冷めていたけれど、野菜は程よく柔らかく、薄味で食べやすい。三日ぶりの食事ということもあって、とてもおいしく感じた。


(ミズクと、また会えるかな……)


そんなことを思いながら、窓の外に浮かぶ月を眺めた。


※


あの騒動から一日が経って、私はモナと再会した。金色の髪をした、知らない女の子を一人連れて。今、その子にすっごい近くから全身くまなく観察されてます。あ、やめて~。口に手を突っ込まないで~。


「あなたがミズクですわね! ふん、ふんふん……まあまあですわね!!」


(なに、この人……!?)


場所は執務室。私たちの様子を、イグルは目を細めながら観察するように眺めていた。モナに至っては、にこやかにこちらを見ている。二人とも、見てないで助けて……。


「モナさん。この方は……」


「あ、この子は〜」


「私はフェリシア・ダイヤモンド。ダイヤモンド財団の次女にして、グラドリップ魔法学園の生徒会長兼参謀補佐ですわ。どうぞお見知りおきを」


そう言って、スカートの裾をつまみ、きれいに一礼した。


「ブッッ!!?」


イグルが紅茶を噴き出した。すぐさま胸元のハンカチを取り出し、口元と机を拭う。


(え、なになに? なんて言ったの?)


私はおろおろしながら、フェリシアと名乗った女の子とイグルを交互に見ることしかできない。


「モナさん……とんでもない人を連れてきたな……」


「えへへ〜。フェリシアがどうしても〜って言うからね〜」


「それで、ダイヤモンド財団のお嬢様がこんな辺境に何の用だ……と言いたいところだが、目的はミズクか」


「ええ。その通りですわ。現在、学園が森の調査を行っているのはご存じかと」


「ああ、知ってる。こちらにも調査協力の要請が来ているからな。騎士を何名か派遣した」


「巨大樹の出現と消失。謎の魔物。森の一時的な衰退。それらすべてが、たった一日ほどの間に起きていますの。ですが、誰も原因をつかめていない。……唯一、すべてを見ていたアルティとモナを除いて」


フェリシアはそこで一度、言葉を切った。


「おそらくアルティのことですから、下手な嘘をついてミズクの存在まで露見させかねませんわ」


「……それで、財団にミズクを預けろと?」


「仮にミズクの存在がバレれば、罪に問われる可能性も大いにありますわ。財団で匿うことも考えましたが、それでは一時しのぎにしかなりませんもの」


「何か考えがあるのか?」


「事実をでっち上げますわ。詳しい話はあとにして、ミズクの戸籍も作らないといけませんの」


「……それについては同意する。このままでは何かと問題が起きる」


「というわけで、腹違いの妹ということにしますわ。すでに孤児院などのバックストーリーも用意してありますの」


「いや、待て待て待て……! 父上を愚弄するつもりか!」


「死人に口なしですわ。申し訳ございませんが、時間がありませんの。アルティが目を覚ます前に、すべて済ませておかなければなりませんから」


イグルがひどく険しい顔をしている。私の胃薬を飲んでからだいぶ調子は戻ってきているはずなのに、また胃が痛そうだ。


「これだから財団は苦手なんだ……。こちらの事情などお構いなしに話を進める……」


「ええ。ですので、イグル様とミズクには、私からできる限りの支援をする手筈を整えておりますわ。どうか、この件は私にお任せくださいませ……」


フェリシアと名乗った少女が、深々と頭を下げた。


「……ミズク、モナ。別の部屋で待っていてもらえるか? ルーカス、二人にお茶の用意を。フェリシア……どのみち、私に選択肢はない。話を聞かせてくれ」


「感謝いたしますわ」


私とモナは、ルーカスに導かれるまま部屋を出た。


私は隣の部屋でモナの膝の上に座り、大きな羽に包まれながらイグルたちを待っていた。お茶はおいしいし、お菓子もおいしい。モナの羽はふかふかで気持ちいいし……最高……。


「ミズクちゃん、とっても軽いね~。ちゃんと食べてる~?」


「わからないけど、たべてる~」


「そっか~」


翼で頬をぐにぐにと揉まれる。


(あ~……だめになる~)


「ごほん」


「モナ……なにをしていますの」


「あ、おはなし終わった~?」


あ、イグルたちだ……。おはなしが終わったみたい。


「あまり厳しいことを言いたくはないが、ここは曲がりなりにも領主の館だからな……?」


「あとできつく言っておきますわ……。モナ、帰りますわよ!」


「は~い。ミズクちゃん、また会おうね~。イグル様もさよなら~」


「それでは、また近いうちに」


そう言うと、二人はすぐに帰っていってしまった。嵐みたいな人だ……。


『ミズク、さっき話したことなんだが、いいか?』


『うん、大丈夫』


イグルはそう言って、私の正面の椅子に腰を下ろした。さっきまでの険しい表情は消え、今はとても優しい顔をしている。


『なんと言えばいいかな……。お前が嫌でなければ、俺と家族になってほしい』


『……番ってこと?』


『ぶっ……。違う……。俺が兄で、お前が妹だ』


『え、イグルは兄じゃないでしょ?』


『ああ、本当の兄妹ではない。だから……なんというか、俺を本当の兄だと思って過ごしてほしい。俺も、お前を本当の妹だと思って過ごす。そうやって、いつか本当の家族になれたらと思ってる』


(イグルを、お兄ちゃんに……)


出会ってから、まだ二日くらい。その短い間にも、いろんな表情を見た気がする。愉快なところもあるし、すごく真面目な人でもある。イグルがお兄ちゃんで、昔の旅を一緒に行ってたらと思うと、きっと楽しかったと思える。ここなら、おいしいご飯も食べれるし。うん。それもいいかも。


『逆に、私が妹でいいの?』


『ああ。同胞ということもあるが、何よりお前にはまだまだ可能性がある。それをふいにしてほしくはない。……まあ、あとなんだ。父上も母上も、俺が幼いころに亡くなってしまった。だから、家族というものに飢えていないと言えば、嘘になるな』


『私と一緒だね』


『ああ。一緒だな』


『うん、いいよ。よろしくね、イグルお兄ちゃん』


『ああ、よろしく頼む。ミズク』


『そしたら、これからのことを話そう。ああ、言葉も教えないとな』


『あっ! 教えてほしい! みんなともっと話したいからね!』


イグルお兄ちゃんの手を握って、部屋を出た。


お父さん、お母さん。

よくわからないけど、お兄ちゃんができたよ。

次は入学準備回。

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