第27話 霧銀鉱?
15層6日目の朝も、拠点の周囲に変化はなかった。
霧が通路を流れていた。昨日と同じ濃さだった。
蛭田が全体を集めたのは準備が終わった直後だった。
「今日は昨日回収したものの状態を確認してから動く。判断はその後で出す」
それだけ言って解散した。
◇
悠真は収納の状態を先に確認した。
変化はなかった。
群生帯5区画、開口部の結晶群2単位。
どちらも収納した時点で止まっている。
鍛冶担当が近くへ来た。
「取り出すときに声をかけてもらえますか。直接見たい」
「わかりました」
◇
拠点の隅に空きスペースを作った。
床置きになるが、他に取り出せる場所がなかった。
「取り出します」
結晶群を1単位、展開した。
形は変わっていなかった。
区画ごと外れた状態のまま、石の境界まで含めて出てきた。
収納中は霧が止まっていたが、取り出した直後から再び染み出し始めた。
鍛冶担当がしゃがんで近くから見た。しばらく黙ったまま見ていた。
「霧が再開している」
「収納中は止まっていました。取り出したらすぐ再開しました。変質があったかどうかは、外からだけでは判断しにくいです」
「色と密度は変わっていない。質感も入れる前と同じに見える」
鍛冶担当がポーチから機材を3点取り出した。
どれも手のひらに収まる大きさだった。
先端が細い1つを結晶の表面に押し当てた。
硬度を計る端末らしく、数値が出た。
次に平たい端末を霧の流れに沿わせながら動かした。
数値よりも表示パターンを確認しているようで、角度を変えながら数回繰り返した。
最後の1点は結晶から少し距離を取って正面に向け、そのまましばらく静止させた。
3点使い終えるまで数分かかった。
◇
「どうですか」と蛭田が聞いた。
鍛冶担当は立ち上がってから答えた。
「硬さと、熱の吸い方が深層系の鉱材に似ています。他のダンジョンの深層記録に、光を飲む性質を持つ鉱石が少数報告されています。研究者が仮の名前で呼んでいたものがある。霧銀鉱、という仮称です。実物を見たのは初めてですが、性質が近いと思います」
「素材としての見立てを聞かせてもらえますか」と蛭田が問いかける。
「採取例が少なくて相場は出ていないですが、加工試験のデータは残っています。硬度は上位の金属系素材に入る可能性があるという話でした。確定には持ち帰って専門の研究者に見せないといけないです」
「可能性として高い方に入りますか」
少し間が空いた。
「入ると思います」
蛭田が悠真を見た。
「2単位あります」と悠真は答えた。
「開口部の内部にまだ残っています。今日追加で取れる量は確認してみないと分からないですが、昨日の手順が使えるなら複数はいけると思います」
「群生帯はどうですか」
「5区画を収納済みです。ただ」と言って少し間を置いた。
「群生帯は通路に育っているものです。通路に育つのは、開口部の内部から霧が供給されているからです。結晶密生空間が先にあって、群生帯はそこから派生したものだと思います。量と素材としての格は、通路側より内部の方が上になります」
「群生帯が副産物で、内部が本命ということですね」
「そう考えた方が一致します」
蛭田が腕を組んだ。
少し考えてから手帳を出して何か書き入れた。
「16層へ進むより、15層の本命を押さえる方が先だな」
誰も異論を出さなかった。
◇
蛭田が手帳を開いて日数を確認する。
「遠征に入って10日が経っています。15層の本命を押さえて戻るまでを逆算すると、ここで使える日数はあと10日前後です。16層の入口を確認するだけなら今日中にできるかもしれないですが、入って何が出るか見えない段階で日数を使うのは得策じゃない。15層で取れるものを押さえて帰ります。16層は今回追わない」
誰もすぐに口を開かなかった。
反論ではなく、そうかという空気だった。
◇
「壁の石を確認したいです。今日中に」と悠真は蛭田に言った。
「何を確認しますか」
「供給源の近くにある石です。霧を引き寄せている性質があります。本命の母岩に近い素材なのか、別の環境要素なのか、小片だけ取って確認したいです」
「本格回収の対象ですか」
「今回は確認採取だけにします。主役は開口部の内部です」
蛭田が頷いた。「終わったら開口部に入ってください」
◇
広い空間の壁際に近づいた。
光源を向けると、石が光を飲む向きに反応した。
通路の石は当てた光が散るが、ここは吸い込まれていく。
手袋越しに押した。硬さは変わらなかった。
壁面から浮き出た欠片が1つあった。
周囲への連結が薄く、単体として境界を認識できた。
収納した。
【石英片(霧吸収型)×1】
【素材分類:登録データなし】
【経過時間:0秒(内部停止)】
崩れなかった。
鍛冶担当が後ろから覗き込んだ。
「取れましたか」
「小片1つです。成分は持ち帰って確認してもらわないと分からないです。霧銀鉱との関係は今日では出ないですが、後で研究者に渡せれば」
「それで十分だと思います」
◇
その後、開口部の内部に入った。
昨日の手順を繰り返した。
外形を頭の中で固めてから収納する。
今日は手順が見えているぶん、確認にかかる時間が短かった。
3単位取れた。どれも崩れなかった。
「今日は3単位いけました」
「昨日の分と合わせて5単位ですね。群生帯の5区画と合わせて、今回の15層の成果になります」
悠真は収納の状態を確認した。
群生帯5区画、結晶群5単位、壁石の小片1点。
どれも収納した時点で止まっている。
これを壊さず地上まで運べれば、今回の遠征で押さえるべきものは押さえた。
◇
拠点に戻ると、蛭田が全体に短く告げた。
「明日から撤収準備に入ります。物資の再確認と帰路の段取りを今日のうちに始めてください」
説明は続かなかった。全体がそれぞれの作業へ散った。
鍛冶担当が悠真の横に立った。
「霧銀鉱、持ち帰れますか」
「今の状態が続けば問題ないです」
「地上で価値が出ることを祈ります」と言って戻っていった。
蛭田が地図に今日の記録を書き入れた。
手帳を閉じて一度だけ通路の方を見た。それから悠真に向いた。
「16層は追わない。15層の成果を持って戻ります」
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