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俺だけ使える【アイテムボックス】がバグってるので、誰も運べないレイド報酬を独占します!  作者: 小狐


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第26話 霧の結晶

 15層5日目の朝も、拠点の周囲に変化はなかった。


 蛭田が全体を集めた。


 「今日は昨日確認した開口部を優先する。群生帯の残りは後回しにする」


 補給担当が悠真に今日分の保存食と回復薬を求めた

 。指定された数を出して渡した。


 「倉橋さん、内部への進入になります。判断は任せます」


 「分かりました」


 それで今日の確認は終わった。蛭田が前を向き、全体に動くよう告げた。



 ◇



 群生帯の前を通過した。

 壁に5箇所の空白が並んでいた。

 回収した区画の跡で、残りの群生は手つかずのままだった。

 今日はここには入らず、そのまま奥へ向かった。


 曲がり角を越えると、霧の流れが変わった。

 中央の流れが奥の一点へ引かれていた。昨日と同じ向きだった。


 傾斜を下りながら20メートルほど進んだ。

 壁の色が通路側より黄みを失い、光源を向けると光を飲む石に変わった。


 右の壁に開口部があった。

 縦2メートル・幅1メートルほどの開口から霧が流れ出ていた。


 悠真は先行より前に出た。



 ◇



 開口部の前で一度立ち止まった。


 昨日、内部は確認していた。

 壁の全面に結晶が育っていて、その隙間から霧が染み出していた。

 光源を向けると結晶が淡い光を返した。


 実際に踏み込むと、昨日より密度が高く見えた。


 壁に結晶が育っているというより、壁そのものが結晶で覆われていた。

 突起が互いの隙間に食い込むように重なっていて、1本1本の境界が外からでは読み取れなかった。


 内部の霧が通路より濃かった。

 外へ流れ出てはいるが、空間の中に留まる量も多く、光源の輪郭がぼやけていた。

 足元の石が霧に隠れていて、踏み込む前に位置を確かめてから体重をかける必要があった。


 3歩入ったところで立った。


 「状況はどうですか」と蛭田が外から聞いた。


 「入れます。ただ、密度が想像より高くて切り分け位置が見えにくい。少し時間をもらいます」


 「急がない」


 開口部の外で、鍛冶担当が光源を手に内部を覗き込んでいた。

 しばらく無言のまま結晶の壁を見ていた。


 「記録にないです。霧を産み出している結晶というのは、今まで見たことがない。成分も構造も、群生帯とは別物です」


 「…類似したものは?」と蛭田が聞いた。


 「思い当たるものがないです。15層より深いところで出る素材の可能性はありますが、それも記録はない。正直、これが何なのかまだ分からないです」


 蛭田が手帳に書き入れた。

 記録を取りながら内部を見たが、何も言わなかった。



 ◇



 右側の壁の低い位置に近づいた。


 他より突起が少なく、隣の結晶群との境界が比較的見えやすい一角があった。

 幅は30センチほどで、周囲と比べて霧の出方が少なかった。


 手袋越しに触れた。硬さは通路の群生帯と変わらなかった。

 ただ、軽く圧をかけると振動が周囲に広がった。

 触れた1本だけでなく、隣の結晶にまで伝わっていた。

 群生帯のときは触れた1本に反応が集まっていたが、ここは別だった。


 手を離した。


 《アイテムボックス》は、認識した範囲を収納する。

 外形が曖昧なままだと、システムが境界を補完しようとするが、その区切りが意図した場所にならない可能性があった。

 群生帯のときは結晶1本を外形として認識できたが、ここは1本の境界が隣の結晶と溶けるように連なっていた。

 頭の中で外形を明確に定めないと、収納は通っても想定と違う範囲で区切れる可能性があった。


 つながった一群として、石の境界まで含めて外形を設定する必要があった。

 群生帯のときより取る範囲を大きく意識して持つ必要があった。


 壁に沿って横に移動しながら、霧の出方を確認した。

 場所によって染み出す量が違った。

 密度が高くて霧が多い部分は隙間が狭く、境界が読みにくかった。

 最初に触れた一角に戻った。


 「取り方が見えました。外形を群生帯のときより大きく取ります。1つ試させてください」


 「お願いします」


 悠真は一歩引いて、取る区画の外形を頭の中で固めた。

 石の境界が見えている部分を下端に、隣の群との接続が薄い側面を区切りとして、収納の範囲を定めた。


 「準備します」と言って、悠真は壁に向き直った。



 ◇



 石の境界が見えている部分を下端に設定した。

 右側の側面は隣の群との接続が薄く、霧の出方が少ない。

 左側は結晶の突起が重なっているが、外側へ張り出した端を境界に取れば、隣を崩さずに切り離せるはずだった。


 群生帯のときは外形を壁の面に沿って設定していた。

 ここは突き出た部分が多く、奥まで含めて収納の範囲を取る必要があった。

 外形を頭の中で確認して、収納した。


 崩れなかった。

 霧の流れもそのまま止まった。

 区画全体が静かに外れた感触だった。


 【結晶群(未分類)×1区画】

 【周辺霧域:収納時点より停止中】

 【対象名称・素材分類:登録データなし】

 【経過時間:0秒(内部停止)】


 「入りました。崩れていません」


 外にいた蛭田が返事をするまでに少し間があった。


 「霧は」


 「収納中に変化は出ていないと思います。状態は取り出してみるまで確認できませんが、群生帯のときと同じ感触です」



 ◇



 1歩外に出た。


 蛭田が開口部の内部を見た。取り出した部分の跡が壁に残っていた。

 石の境界が剥き出しになっていて、周囲の結晶は崩れていなかった。


 「同じ方法で取れましたか」


 「取れます。ただ、群生帯より設定に時間がかかります。1単位あたりの確認が増える感じです」


 「今日はあと何単位いけますか」


 悠真は内部に目を向けた。取り出した跡の隣に、境界が見えやすい一角がもう1箇所あった。


 「もう1つはいけます。その後は確認が増えると思います」


 「1つ追加してください。数は合わせなくていいです」



 ◇



 2単位目に入った。


 前の区画と接続が近かったが、霧の出方が違った。

 前の一角より霧が少なく、結晶の密度がわずかに低かった。

 外形を設定するとき前の区画より少し外側を取る必要があったが、石の境界は同じ手順で見えた。


 収納した。崩れなかった。


 「入りました」


 2回目はそれだけで終わった。

 1回目より確認に時間がかからなかった。


 「今日はここで区切ります」と蛭田が全体に告げた。


 誰も異論を出さなかった。



 ◇



 拠点に戻った後、蛭田が遠征全体の記録を開いた。


 悠真は収納の状態を確認した。

 群生帯5区画と、今日の供給源2単位。

 状態に変化は出ていなかった。


 蛭田が記録を見ながら日数を数えていた。少し間があってから、手帳を閉じた。


 「明日、先へ進むか撤収するか判断します。今日の分で、15層での成果は出たと思っています」


 それだけ言って、蛭田は全体に今日の解散を告げた。


 拠点の外では霧が通路を流れていた。

読んでいただきありがとうございます。

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