第24話 群生帯の先
15層の2日目は、昨日と同じ霧で始まった。
拠点の周囲に変わったところはなく、通路の幅と天井の高さを把握したうえで動けるようになっていた。
蛭田が集合を告げる前に、悠真はサンプルの確認を準備していた。
隊員数名が自然と近くに立った。
「やってみます」
収納から呼び戻した。
区画がそのまま現れた。
30センチ四方の境界が崩れておらず、霧が表面に薄く貼り付いたままだった。
結晶の突起は昨日確認したときと形が変わっていなかった。
淡い黄みがかった色が、拠点の光源を受けて粉状に散らした。
蛭田が正面から黙って見た。
「崩れていないですね」
「今のところ問題なさそうです。ただ、帰着後に改めて確認が必要です。時間が経って変化が出る可能性はあります」
「今日の作業は可能ですか」
「問題ないと思います」
蛭田が一度頷いて、全体に向けた。
「なら量を取れる。群生帯へ向かう」
◇
群生帯に着くと、昨日取り出した区画の跡が残っていた。
壁に1箇所だけ空白があり、境界の石が剥き出しになっていた。
周囲の群生は手つかずのままで、霧がその表面に貼り付いていた。
蛭田と悠真で端から群生帯を確認した。
「1回あたりどの程度取れますか」
「昨日と同じ大きさで切り分けるなら、10回前後は取れると思います。ただ、密度が一様ではないので区画ごとに確認してから進む方がいいです。一気には取らない方が確実です」
「今日の目安は」
「5、6区画を成立させれば十分です。手順を固めながら進むので、最初から数を狙うよりそちらを優先します」
蛭田が全体に指示を出した。
工具担当2名を待機に置き、足場補助を悠真の左右に配置した。
悠真が近づきやすい位置を確保するための配置で、工具は必要が出たときだけ使う判断だった。
実際には工具は使わなかった。
石との境界で削れば崩れが出る。
崩れた断面から霧が抜けていけば、そこから変質が始まる可能性があった。
石と霧の層ごとまとめて収納する方が状態を保てると、昨日の手順で分かっていた。
1区画目を選んだ。
隣の群生と独立していて、周囲の霧が他より薄く、境界が見えやすいものを基準にした。
区画の外形を意識に入れて収納した。崩れなかった。
「入りました」
蛭田が記録を取った。
2区画目、3区画目と進めた。手順は変えなかった。
選ぶ、確認する、収納する。それを繰り返した。
4区画目で一度止まった。
選んだ区画の霧が周囲より厚く、切り分けの境界が見えにくかった。
厚みのある部分を一段外して、霧の薄い側から境界を確かめた。
独立した一群として取れる形が見えてから収納した。
「少し時間がかかりました」
「問題ありましたか」
「霧の厚みで境界が見えにくいものがあります。選ぶ段階での確認が増えます」
「分かりました。無理に数を合わせなくていいです」
5区画目は問題なく終わった。
6区画目に入ったところで蛭田が全体を止めた。
「今日はここで区切ります。手順は成立しています」
道具をまとめる音が静かに続いた。
鍛冶担当が群生帯の残りを一度見渡してから、袋を閉めた。
群生帯はまだ大半が手つかずで、壁に沿って通路の奥まで続いていた。
◇
「曲がり角を確認します」と蛭田が告げる。
全体でゆっくりと進んだ。群生帯が続く中を抜けて、通路が左に曲がる地点まで来た。
先行2名が角を左に曲がった。
少し間があってから声が戻った。
「広いです」
全体が曲がり角を折れた。
通路が終わっていなかった。
正確には、通路の幅が急に広がっていた。
3メートル程度だった幅が、10メートル以上に開いていた。
天井も高く、光源を向けても上端が見えなかった。
床は平らではなく、奥へ向かって緩やかに傾いて下がっていた。
霧が流れていた。通路にいたときと流れる向きが変わっていた。
壁に沿うのではなく、広がった空間の奥へ引かれるように流れていた。
悠真は壁に目を向けた。
通路の石と色が違った。
黄みが薄く、光の散らばり方が少なかった。
吸収が多い種類か、それとも別の成分を含んでいるのか、触れてみないと分からなかった。
手は伸ばさなかった。
蛭田が全体を止めた。
「今日はここまでにします」
誰も異論を言わなかった。
先行の一人が奥を一度見てから、蛭田の方を向いた。
「明日、確認できる分だけ入ります。では一旦拠点まで戻りますのでルートの確認を」
全体が引き返した。
引き返しながら、曲がり角を折れたところで霧の流れが変わることを確かめた。
広い空間では、霧は奥へ向かう。
何かに引かれているのか、それとも奥に出口があるのか。
今日の確認では分からなかった。
ただ、先がある。
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