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俺だけ使える【アイテムボックス】がバグってるので、誰も運べないレイド報酬を独占します!  作者: 小狐


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第23話 最初の回収

 15層の朝は音がなかった。


 拠点から一歩出ると、霧が通路を満たしていた。

 14層の霧とは違う種類で、水気がなく、触れても肌に残らなかった。

 足元の石が白みがかっていて、光を吸わずに散らした。

 壁の黄みがかった石は昨夜と同じ色で、光源の角度によって粉状の表面が反射した。


 蛭田が全体を集めて短く告げた。


 「昨日先行が止まった地点の先を今日確認する。回収できるものがあれば最初の一手だけ試みる。危なければ確認だけで戻す。」


 点呼が終わると補給担当が悠真に今日分の保存食と回復薬を求めた。

 指定された数を出して渡した。

 先行2名が前に出て、蛭田が全体に動き出すよう告げた。



 ◇



 昨日先行が止まった地点まで、拠点から歩いて5分もかからなかった。


 通路に変化があった。広がっているのではなく、両壁から黄みがかった鉱質の塊が張り出していた。

 高さは2メートルほど、奥行きは壁から50センチ前後。

 通路そのものはまだ通れる幅を保っていたが、左右の余裕が失われていた。


 その塊の表面と周囲に、霧を薄くまとった結晶状のものが群生していた。

 指の長さほどの突起が、石の表面から生え出るように並んでいた。

 色は淡い黄みがかったもので、光を当てると粉状の表面が散らばるように反射した。

 群生の密度は一様ではなく、石の割れ目や境界に沿って集まっていた。


 誰も手を伸ばさなかった。


 「今まで見た記録にないですね」


 隊員の声を聞いた蛭田が一歩近づいて、結晶の手前で止まった。

 群生帯を左から右へ一度見渡してから、


 「進めはする。ただ、ここを雑に壊したくない」


 悠真の方を見る。そして悠真は軽く頷く。


 結晶近くまで寄ると、その結晶一本を視野の中心に置いて、状態を確認した。

 表面に細かい割れが走っていた。

 圧をかければ崩れる。

 根元の石との境界が不明瞭で、無理に引き剥がそうとすれば石ごと壊れる可能性があった。


 周囲の霧が結晶の表面に薄く貼り付いていた。

 貼り付いているというより、結晶の外層と霧の境界が溶けているように見えた。

 隣の結晶も同様だった。

 それぞれが独立して生えているようで、霧を介して構造としてつながっている印象だった。


 「これ、このままの状態で晒したまま外に持ち出すと変質するかもしれない」


 蛭田が「どういうことですか」と聞いた。


 「霧ごと成長しています。霧を切り離した状態で持ち出すと、性質が変わる可能性がある。工具で削って持ち帰っても、地上に着く前に別のものになるかもしれない」


 蛭田が結晶の群生帯を見た。しばらく間があった。


 「それでも取れますか」


 「環境ごと切り分けて収納すれば、状態を維持できる可能性があります。ただ今日は確認サンプルとして小さく一部だけにします」



 ◇



 群生帯を見渡して、一区画を選んだ。


 壁から生えているものの中で、隣の群生と独立していて、周囲の石との境界が比較的見えやすいものだった。

 大きさは30センチ四方ほど。

 結晶の本数は10本前後で、その周囲の霧が他の部分と比べて薄く、層として区切れているように見えた。


 工具は使わなかった。


 工具で削れば石との境界で崩れる。

 崩れた断面から乾霧が抜けていけば、そこから変質が始まる可能性があった。

 切り分けるのではなく、石と霧の層ごとまとめて収納する方が状態を保てると判断した。


 その区画全体を、周囲の石と霧の層ごと意識に入れて、収納した。


 崩れなかった。

 霧の層もそのままの状態で収まった。

 石の境界で切れたのではなく、区画の外形がそのまま保存された感触だった。


 「入りました。崩れていません」


 「霧は」


 「収納中の変化は出ていないと思います。取り出して確認するまで確実なことは言えないですが、現状は問題ない状態です」


 蛭田が手帳に記録を取った。

 隊員の一人が結晶のあった場所を見ていた。

 取り出した区画の跡に、境界の石だけが残っていた。


 「残りは」と蛭田が聞いた。


 「取れると思いますが、今日のサンプルが安定していることを確認してからの方がいいと思います。状態が変わっていた場合、方法を変える必要があります」


 蛭田が頷いて、記録を閉じた。



 ◇



 通路の先を確認した。


 群生帯は取り出した区画だけではなかった。

 壁に沿って奥まで続いていた。

 

 見える範囲で20メートル以上は続いていて、その先で通路が左に曲がっていた。

 曲がった先は霧で見えなかったが、通路がまだあるのは空気の流れで分かった。


 蛭田が「今日はここで止めます」と告げた。


 「奥の確認は明日以降にします。今日は初回収を成立させた」


 全体が引き返した。

 拠点に戻るまでの道で、誰も余計なことを言わなかった。

 鍛冶担当が壁の石を軽く触って感触を確かめてから、そのまま前を向いて歩いた。



 ◇



 夜、物資の状態を確認してから、朝倉からメッセージが届いた。


 『廃工場の件、管轄判定が正式に出ました。詳細は帰着後に整理します。帰ったら一度話す機会を作ってください』


 スマホを置いた。


 拠点の外で霧が通路を薄く流れていた。

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