第21話 14層<水域前>
6層拠点の朝は、前衛班の装備確認から始まった。
点呼が終わると蛭田が今日の行程を告げた。
目標は12層まで進んで中間拠点を設置する。
消耗品の残量を確認して、「問題ありません」と返した。
「今日の分の保存食と回復薬を先に出しておいてもらえますか」
補給担当の隊員に言われたので指定された物を取り出した。
それを隊員が受け取って各班に配って回る。
以前の遠征なら1日分を計算して慎重に割り振っていた量が、今回は余裕を持って出せる。
蛭田が頷いて「出発します」と告げた。
◇
7層に入ると魔物の密度が上がった。
前衛が対処して進み、解体が終わると素材回収の声がかかった。
「倉橋さん、こちらも」
解体班の一人が指差した方向には、大型の骨格と外皮のロールが積まれていた。
単体で50キロを超える部位で、これまでの遠征では重量制限の都合で置いていくことが多かった素材だった。
「了解です」
手慣れた手つきで収納する。
解体班が少し間を置いてから作業を続けた。
8層に入って1時間後、装備の破損が出た。
前衛の1人の篭手に亀裂が入って修理の声がかかった。
鍛冶担当が工具を使いたいというので、フルセットを展開した。
補修部品も一緒に出した。
修理に15分程かかるそうで、その間に蛭田が進行確認を続けていた。
修理を待って止まるのではなく、修理している間も周囲を確認しながら隊が動いていた。
鍛冶担当が工具を返しながら「試験遠征のときは道具を絞って来てたんで、今回みたいに全部使えるのは違いますよ」としみじみとした表情を浮かべていた。
「使いたいときに言ってください」
鍛冶担当が頷いて前に戻った。
蛭田の手帳に何かが書き込まれていくのが見えた。
◇
10層を過ぎたあたりで、進行の感触が変わっていることに気づいた。
補給を後ろ向きに考える場面がなかった。
消耗品が減ったら補充する。工具が要れば出す。
素材が出れば回収する。それが止まらずに回り続けていた。
「残量計算しなくていいのは初めてです」
「いつも10層を過ぎたあたりで、ここで拾うかどうかの判断を迫られてたよな」
いつもとは違う遠征の様子に若干戸惑いを見せるものの、概ね順調に進んでおり、皆一様に足取りは力強かった。
12層の広い空間で蛭田が止まった。
「ここで中間拠点を組みます」
設営が終わってから物資の状態を確認した。
食料が55日分。医薬品が出発時の85%。
鍛冶工具は補修部品を一部使ったが全量揃っている。
予備装備は手をつけていない。
蛭田に伝えると、手帳に数字を書いてからしばらく止まった。
「今のペースだと計画より余裕が出ています。14層まで今日中に入ります」
前衛班に向けて指示が出た。隊が動き出した。
◇
14層に入ったのは夕方前だった。
記録資料と同じ構造だった。
天井が高く通路が広い。
空気が湿っていて、霧が薄く漂っていた。
前の層より冷えていた。
蛭田が先頭に立ち、前衛が左右を確認しながら進んだ。
足場は安定していたが、壁の石が濡れていて光を吸っていた。
水域の手前に出たのは、14層に入って1時間後だった。
広い水面が広がっていた。
資料で見ていた幅より実物の方が圧迫感がある。
遠い側の岸は見えたが、渡れる距離ではなかった。
表面は静かで流れているのか止まっているのかが遠目には判断できず、水際の石が濡れていた。
霧が水面から立ち上がっていた。
しばらく見ていた。
容積として《アビスゲート》より小さいとは思う。
ただ流れの有無や水中の構造は、近づいて確認しないと分からない。
機能するかどうかを断言するには、もう一段確認が要る。
「どうですか」と蛭田が言った。
「試せます。ただ、近づいて状態を確認してからの方がいいです」
「明日の朝に確認して、そのまま試行します。先行2名の構成と展開タイミングは昨日確認した手順で動きます。問題ありますか」
「問題ないです」
蛭田が周囲を見渡して、
「今夜は水域手前に拠点を設置します」
と全体に告げた。
◇
夜、拠点の設営が終わってからスマホに朝倉からメッセージが届いた。
『廃工場の件、今週中に管轄の判定が出る見込みです。確定次第、動きを整理します』
スマホを置いた。
拠点の中では隊員が明日の手順を確認していた。
水域の水面は拠点からは見えなかったが、空気の重さが方向を教えていた。
外側の案件は動いている。
ここは14層で、明日が本番だった。
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