第20話 出発の日
三木への返答は、朝倉に任せた。
メッセージの内容を翌朝確認した。
霧域の拡大は先週より進んでいて、今週中に現地確認が取れるなら動きたいという内容だった。
出発まで5日だった。
そこで朝倉に確認を取るべく連絡する。
「三木さんへの対応、遠征優先で伝えてもらえますか。帰着後に改めて確認します」
「分かりました。記録と窓口はこちらで押さえておきます」
廃工場の霧域は動いている。
向こうも今の状況は把握しているはずで、今すぐ動けないと伝えれば了解はもらえる。
ただ、了解しても霧域は待たない。遠征後の対応になりそうだ。
スマホを置いて、出発の準備に戻った。
◇
出発当日は朝6時集合だった。
施設の搬入口に輸送車両が3台並んでいた。
隊員が装備の最終確認をしながら、車両の前後を行き来していた。
蛭田がリストを手に立って、全体を見渡していた。
試験遠征のときと同じ立ち方だった。
「倉橋さん、出発前に照合をお願いできますか」
蛭田の補佐をしている若い隊員が近づいてきた。
手にリストを持っていた。
「医薬品と鍛冶工具の番号を確認したくて」
「ええ、了解です」
医薬品の箱を収納から取り出した。
番号を照合して収納に戻す。
続けて工具のケースも出した。
「早いですね。いつもこれくらいですか」
「まぁこれが普通ですかね。何か問題があれば呼んでください」
隊員がリストに書きながら作業に戻った。
朝倉が来たのは出発10分前だった。
「廃工場の件、三木さんには伝えました」
「了解してもらえましたか」
「了解しています。ただ、現地の状況はもう少し見ておきたいということで。何か動きがあれば連絡が来ます。こちらで記録だけ取っておきます」
「お願いします」
「こちらは外から押さえておくので、向こうだけ考えていてください」
朝倉がスマホを手に持ったまま施設の外へ戻った。
今回の遠征に朝倉は来ない。
蛭田が「出発します」と告げた。
◇
車両が動き出した。
隊員は座席で装備の話や交代の話をしていた。
俺の隣の席は空いていた。
窓の外では都市の外縁が流れていき、建物の密度が落ちた。
一般道から高速に入ったところで、景色が変わった。
試験遠征のときも似たような移動だった。
あのときは7日間の中難度ダンジョン帯同で、物資は今回の4分の1程度。
今回は往復60日の本格遠征で、積んだ物資の規模はあの時の何倍もある。
ただ、車両の荷台に余裕があった。悠真が収納に入れているからだ。
前方の席では2人の隊員が話していた。
「補給の心配がないのは初めてじゃないですか」「そうだな」という声が続いた。
そんな内容の話をしつつ、別の話に変わった。
北関東まで3時間かかった。
◇
施設に着くと、入場の手続きが行われた。
蛭田が書類を受け取り、隊員が順番に通っていった。
「今日は6層まで進んで、簡易拠点を設置します」
蛭田が全体に告げた。
「物資の展開は拠点設置後に行います。今日は拠点確保と初層の状況確認が目的です」
隊員が頷いた。俺も頷いた。
管理ゲートを通ると、下へ続く通路が現れた。
天井が低く、壁の石が湿気を帯びている。
試験遠征の施設より空気が重かった。
照明が点在していて、その間の区間は薄暗い。
前衛が先頭に立ち、隊が通路を進んだ。
1層から4層は既知の構造で、蛭田の記録にも詳細が入っていた。
4層で魔物の群れが出たが、前衛が片付けた。
俺は列の中ほどにいて、声がかかったときだけ動いた。
素材の回収指示が出たので、解体された分をまとめて収納した。
6層の手前に広い空間があって、蛭田が「ここで拠点を組みます」と告げた。
設営シートが広げられ、仕切りが立てられた。
炊事と医療のスペース、各班のエリアが割り振られた。
隊員が慣れた手順で動いていた。
「物資の展開をお願いします」
蛭田の声で、収納から物資を出し始める。
食料のコンテナ、医薬品の箱、鍛冶工具のケース、野営設備のロールとケース、補修資材の束。
指定のスペースへ順に置いていく。
約30分で終わった。
補給担当の隊員が棚に物資を並べながら、「量が全然違う」と隣の隊員に言っていた。
俺に向けた声ではなかったが、量が違うのは事実だった。
試験遠征の物資とは比べ物にならない。
6層の時点でこれだけの量が展開できるなら、14層を越えた先でも補給が続く。
ここにいる全員が、数字ではなく現物として確認できた最初の場面だった。
蛭田が全体を見渡して、「今夜はここで待機します」と告げた。
◇
夜の初めに、スマホに朝倉からメッセージが届いた。
『三木さんから追加の連絡が来ました。霧域が管轄境界を越えた可能性があります。記録は取っておきます。詳細は帰着後に確認をお願いします』
スマホを置いた。
拠点の奥では隊員が話していた。
外側は動き続けている。
ここは6層の地下で、本番はこれからだった。
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