第七十二夜 ―― 黄金の梯子と、夜の秘め事 ――
第七十二夜 ―― 黄金の梯子と、夜の秘め事 ――
王宮の塔。窓からは、月光に照らされた森の海がどこまでも広がっている。
ザルカ王は、自らの剣の柄をなぞり、不機嫌そうに呟いた。
「……サフィア。その子は『カマラ』と名付けられたのだな。魔法使いは、なぜ彼女を入り口のない塔に閉じ込めた? 美しさを誰にも見せたくなかったのか、それとも……」
サフィアは、自らの長い髪を肩から流し、第七十二夜の語りを始めた。
◆ サフィアの語り 第七十二夜 ――「塔の中の歌声と、王子の潜入」
生まれたばかりの赤子は、即座に魔法使いに奪われ、カマラと名付けられました。
彼女が十二歳になった時、魔法使いは森の奥にそびえ立つ、扉も階段もない高い塔に彼女を閉じ込めました。唯一の出入り口は、最上階の小さな窓だけ。
魔法使いが塔へ登る時は、下からこう叫ぶのです。
『カマラ、カマラ、お前の髪を下ろしておくれ!』
するとカマラは、二十メートルもの長さがある黄金の糸のような髪を窓から垂らし、それを梯子代わりに魔法使いを引き上げるのでした。
ある日、森をさ迷っていた一人の王子が、塔から聞こえる美しい歌声に惹きつけられました。彼は魔法使いが登る様子を盗み見て、夜、同じようにして塔の中へと忍び込みました。
初めて出会う「男性」という存在に驚くカマラでしたが、王子の優しさに触れ、二人は瞬く間に恋に落ちました。
夜ごと繰り返される逢瀬。塔の密室で交わされる睦み合いの中で、カマラの腹部には、芽キャベツのような小さな、しかし確かな命が宿り始めたのです




