第七十一夜 ―― 翠の禁断症状と、悪魔の契約 ――
第七十一夜 ―― 翠の禁断症状と、悪魔の契約 ――
王宮の食卓。皿の上には、丁寧にバターでソテーされた「芽キャベツ」が並んでいる。
ザルカ王は、その小さく丸まった緑の粒をフォークで突き、不思議そうに眺めた。
「……サフィア。たかが一粒の野菜のために、まだ見ぬ我が子を差し出す男がいるというのか。飢えは、これほどまでに人の理性を狂わせるものなのか」
サフィアは、瑞々しい緑の葉を一枚千切り、第七十一夜の語りを始めた。
◆ サフィアの語り 第七十一夜 ――「隣人の菜園と、命を懸けた盗み」
あるところに、信心深い農夫とおかみさんの夫婦がおりました。彼らは長年子宝に恵まれませんでしたが、ついに天から授かりものがありました。
しかし、妊娠したおかみさんは、隣に住む恐ろしい魔法使いの庭に植えられた「芽キャベツ」に心を奪われてしまいました。その宝石のように青々と輝く芽キャベツを見つめるうちに、彼女はそれなしでは生きていけぬほどの渇望に襲われたのです。
『……あの芽キャベツをサラダにして食べられなければ、私は死んでしまうわ』
愛する妻がやつれ果てる姿に耐えかねた農夫は、夜陰に乗じて魔法使いの庭へ忍び込み、一握りの芽キャベツを盗み出しました。
それを食べたおかみさんの顔には血色が戻りましたが、一度その味を知ると、欲望は三倍にも膨れ上がりました。
農夫が再び庭へ降り立った時、待ち構えていたのは恐ろしい形相の魔法使いでした。
『……私の宝を盗むとは、死に値する罪だ。だが、お前の事情も分からぬではない。芽キャベツは好きなだけ持っていくがいい。……その代わり、生まれた子供は私がもらう。それが契約だ』
極限の恐怖に屈した農夫は、その呪われた約束を交わしてしまったのです。




