第六十七夜―― 額の赤い斑点と、終わらぬ老い ――
第六十七夜 ―― 額の赤い斑点と、終わらぬ老い ――
王宮の中庭。樹齢数百年の大樹が、月の光を浴びて静かに枝を広げている。
ザルカ王は、その逞しい幹に触れ、溜息をついた。
「……サフィア。魔法使いの島で死者の真実を聞いたワラカ。次なる地ラグナグでは、死ぬことのない人間『ストラルドブラグ』に出会うというのか。それは、神に選ばれし幸福な者たちではないのか。余も、この地を永久に統治できる命があればと願わずにはいられぬ」
サフィアは、地面に落ちた「枯れ葉」を拾い上げ、第六十七夜の語りを始めた。
◆ サフィアの語り 第六十七夜 ――「不老なき不死と、記憶の墓場」
ラグナグ国には、稀に左の眉の上に「赤い斑点」を持って生まれてくる子供がいました。彼らこそが、決して死ぬことのない運命を背負った**ストラルドブラグ(不死人)**です。
ワラカは最初、彼らを「地上の神々」と呼び、羨望の眼差しを向けました。富を蓄え、あらゆる知識を吸収し、世界の変遷をすべて見届けることができる……これ以上の幸福があるだろうかと。
しかし、紹介された不死人たちの姿を見て、ワラカは戦慄しました。
彼らに与えられたのは「不死」であって、「不老」ではなかったのです。三十歳で若さを失い、八十歳で老人の肉体となり、そのまま何百年も、何千年も、老いさらばえた姿のまま生き続けねばならない。
彼らは二百年も経てば、かつて愛した家族の名前も、自分が話していた言葉さえも忘れてしまいます。感情は枯れ果て、羨むことも、悲しむこともできず、ただ「死」という扉が開かない監獄に閉じ込められているのです。
ラグナグの法では、八十歳を超えた不死人は「法的に死んだもの」と見なされ、財産を没収されます。彼らは物乞いのように生き、若者たちから疎まれ、永遠に続く「退屈」という名の地獄を彷徨っていました。
『……おお、神よ。死ぬことができるとは、これほどまでに慈悲深い「贈り物」であったのか』
中性的なワラカは、彼らの虚ろな瞳に自分の姿が映らぬことに、深い悲しみを覚えました。彼は、自分の人生がいつか終わることを、心から感謝したのです。
サフィアは語り終え、拾った枯れ葉を風に逃がした。
「王様。命の美しさは、それがいつか散るという『潔さ』の中にありますの。……永遠に咲き続ける造花よりも、一晩で萎れる真実の花の方が、人の心を打つのはなぜか。それは、限られた時間だからこそ、精一杯に輝こうとするからですわ」
ザルカは、大樹の幹から手を離し、自らの鼓動を確かめるように胸に手を当てた。
「……終わりのない老い、か。サフィア、余は愚かであった。永遠を求めることは、変化を拒み、魂を腐らせることと同じなのだな。……余の代がいずれ終わるからこそ、今、この瞬間を民のために燃やし尽くさねばならぬのだ」
王の瞳には、永劫の権力への執着ではなく、限られた生を全うしようとする、清々しい「覚悟」が宿り始めていた。
「サフィア。ワラカの旅も、いよいよ終着点が見えてきたな。……彼はこの数多の異国での経験を抱え、どこへ帰るというのだ」
サフィアは微笑み、最も気高く、そして最も理解しがたい「理性」を指差した。
「そして最後の渡航先。そこには、服を着て争う人間よりも遥かに高潔な、言葉を持つ『馬』の賢者たちが住んでおりましたわ」
夜の帳が、命の終わりを優しく包むように、静かに、そして暖かく降りてきた。




