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毒杯の晩餐と百の献立  作者: 水前寺鯉太郎


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第六十三夜 ―― 鷲の鉤爪と、大海原への墜落 ――

第六十三夜 ―― 鷲の鉤爪と、大海原への墜落 ――


 王宮の最上階。夜の雲が月を隠し、巨大な翼のような影が地上を覆っている。

 ザルカ王は、手にした「銀の小箱」を高く掲げ、空の深淵を見つめた。

「……サフィア。火薬の知恵を拒まれ、巨人の王に『有害な虫』と断じられたワラカ。彼はあの箱庭のような小部屋で、一生を終えるつもりだったのか。それとも、天はこの小さな賢者に、さらなる残酷な旅を強いるというのか」

 サフィアは、空を横切る一羽の大きな鳥を指差し、第六十三夜の語りを始めた。

◆ サフィアの語り 第六十三夜 ――「天上の誘拐と、波間の浮き箱」

 ワラカは、王宮での暮らしに慣れつつも、常に「自分と同じ大きさの人間」を渇望していました。そんなある日、海辺へ散歩に連れ出された時のことです。

 彼が愛用の「移動式小部屋」の中でまどろんでいると、突如として天地がひっくり返るような衝撃が走りました。

 巨大な鷲が、箱の屋根にある鉄の環をその鉤爪かぎづめで掴み、天高く舞い上がったのです。

 ワラカは、中性的なその身体を箱の隅に縮め、死の恐怖に震えました。窓から見えるのは、かつて自分を見下ろしていた巨人たちが蟻のように小さくなり、やがて雲の中に消えていく光景でした。

『……ああ、神よ。私はナヌ国では山であり、ここでは虫だった。そして今は、ただの「鳥の餌」なのか』

 鷲は他の鳥と争い、その拍子にワラカの入った箱を離してしまいました。

 数マイルの高さから、箱は真っ逆さまに大海原へと墜落しました。激しい水しぶきと共に、箱は沈むことなく、波間に漂う「不思議な浮き」となりました。

 数日後、その奇妙な箱を発見したのは、イギリスの商船でした。

 ワラカが箱から救い出された時、彼は船員たちを見て叫びました。

『……おお、お前たちは何という小ささだ! 踏み潰してしまわぬよう、気をつけねば!』

 巨人国での生活が長すぎたワラカの目は、自分と同じサイズの人間を「あまりに儚く、小さな存在」としてしか捉えられなくなっていたのです。

 サフィアは語り終え、王の掲げた銀の小箱をそっと受け取った。

「王様。ワラカを救ったのは、彼を絶望の淵まで連れ去った『鷲の爪』でした。……時に運命は、残酷な手段を使ってでも、あなたを『あるべき場所』へと引き戻すことがございますの」

 ザルカは、自分の掌を見つめ、指を一本ずつ折って確かめた。

「……あるべき場所、か。サフィア、余もまた、高みへ昇りすぎて、民の大きさを正しく測れなくなっていたのかもしれん。……ワラカが自分のサイズに戻った時、彼は安堵したのか? それとも、あの巨人の世界の『広大さ』を懐かしんだのか」

 王の瞳には、かつての支配欲ではなく、万物をあるがままの大きさで見つめようとする、静かな「中庸ちゅうよう」の精神が宿り始めていた。

「サフィア。二つの異国を巡ったワラカ。だが、彼の旅はまだ終わらぬのだな。……次は、海を離れ、空に浮かぶ『島』の話だと聞いたが?」

 サフィアは微笑み、月明かりに照らされた「浮かぶ雲」を指差した。

「空飛ぶ島**『ラタトゥイユ』**。……そこには、地上を見捨て、数学と音楽の思索に耽る、奇妙な『知識人』たちの傲慢が渦巻いておりますわ」

 夜の帳が、天と地を分かつように、静かに、そして高く降りてきた。

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