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毒杯の晩餐と百の献立  作者: 水前寺鯉太郎


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第四十七夜 ―― 肩に食い込む呪いと、葡萄の雫 ――

第四十七夜 ―― 肩に食い込む呪いと、葡萄の雫 ――


波止場の夜風は、どこか老人の吐息のように重く、湿っている。

 ザルカ王は、自身の肩を回し、鎧の重みを確かめるように眉をひそめた。

「……サフィア。二度の生き埋めを潜り抜けたスィルハールに、今度はどんな執念深い悪霊が憑りつくというのだ。巨鳥や大蛇よりも恐ろしいものが、この世にはまだあるのか」

 サフィアは、熟した葡萄の房を指で潰し、その滴る汁を見つめながら、第四十七夜の語りを始めた。

◆ サフィアの語り 第四十七夜 ――「海の老人の執着と、絞りたての毒」

 五度目の航海。スィルハールの船は、乗り合わせた商人たちが「巨鳥ロックの卵」を壊して食べた報復を受け、親鳥が落とした巨大な岩によって難破してしまいました。

 荒波に揉まれ、彼がたどり着いたのは、果実が実り、清らかな川が流れる美しい島でした。

 そこでスィルハールは、川辺に座る一人の老人に出会いました。老人は足が不自由なようで、身振り手振りで『向こう岸へ渡してほしい』と頼んできました。

 スィルハールは慈悲の心から、老人を自分の肩に乗せ、川を渡り始めました。しかし、対岸に着いて降ろそうとしたその時です。

 老人の細く、枯れ木のような足が、万力まんりきのような力でスィルハールの首を締め上げたのです。

『……ひ、ひっ、もう離さんぞ。お前は私の「乗り物」だ!』

 老人は「海の老人」と呼ばれる魔物でした。一度その肩に乗せれば、寝る時も、用を足す時も、死ぬまで決して降りることはありません。スィルハールは昼夜を問わず、老人の思うままに島中を歩かされ、殴られ、奴隷のように扱われました。

 絶望の中、スィルハールは道端に実る野生の葡萄を見つけました。

 彼は大きなひょうたんの中に葡萄を詰め、それを石で潰して発酵させ、酒を造ったのです。数日後、出来上がった強い酒を自分で飲み、楽しそうに歌うスィルハールを見て、老人は欲しがりました。

『……それを寄こせ! 私にも飲ませろ!』

 老人が酒を煽り、泥酔してその足の力が緩んだ瞬間……。

 スィルハールは渾身の力で老人の足を解き、自分をさいなみ続けた「重荷」を地面に叩きつけました。そして、石を振り下ろし、自分から自由を奪った呪いを永遠に終わらせたのです。

 サフィアは語り終え、潰れた葡萄の汁を火に投げ入れた。

「王様。海の老人は、スィルハールの『善意』を餌にして食らいつきました。……時に王は、情けをかける相手を間違えれば、一生その重みに首を絞められることになるのですわ。酒で酔わせるという『隙』を作らねば、逃れられぬ呪いもございます」

 ザルカは、自分の肩に手を置いた。

「……海の老人、か。サフィア、余の周りにも、余の権威にぶら下がり、離れようとせぬ老臣や甘え腐った親族が山ほどいる。彼らは余の善意を吸い、余を乗り物だと思っているのだな」

 王の瞳には、かつての激情ではなく、不要な重荷を切り捨てるための「冷徹な外科医」のような輝きが宿っていた。

「サフィア。自由を取り戻したスィルハール。だが、この呪いの島から、どうやって大海原へ戻るのだ?」

 サフィアは微笑み、再びランプの芯を整えた。

「海岸に現れた救いの船。……そこでスィルハールは、海の老人の正体を知り、さらなる『交易の知恵』で、過去最高と言われる富を築くことになりますわ」

 夜の風が、解き放たれた魂のように、軽やかに吹き抜けていった。

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