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毒杯の晩餐と百の献立  作者: 水前寺鯉太郎


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第四十六夜 ―― 繰り返される暗闇と、墓所の略奪者 ――

第四十六夜 ―― 繰り返される暗闇と、墓所の略奪者 ――


交易都市の墓地には、冷たい月光が降り注ぎ、大理石の墓石を青白く照らしている。

 ザルカ王は、かつて鬼神編で負った古傷を無意識にさすりながら、深い溜息をついた。

「……サフィア。運命とは、これほどまでに残酷なものか。鞍を教え、国の英雄となり、愛する妻を得た。その絶頂で、再びあの『生き埋めの井戸』に突き落とされるというのか」

 サフィアは、墓守が鳴らす鐘の音を遠くに聞きながら、第四十六夜の語りを始めた。

◆ サフィアの語り 第四十六夜 ――「再度の地獄と、死者の衣を剥ぐ知恵」

 スィルハールの幸せは、長くは続きませんでした。

 彼がこの国で得た最愛の妻が、突然の病に倒れ、息を引き取ったのです。国中の人々が涙しましたが、王は悲痛な面持ちで、かつてスィルハールが耳にしたあの恐ろしい法を告げました。

『……わが友よ。この国の法は曲げられぬ。お前もまた、妻と共に地下の墓所へ入らねばならぬのだ』

 スィルハールは必死に抗議しましたが、役人たちは情け容赦なく彼を捕らえ、わずかな水と七つのパンを持たせ、巨大な井戸の底へと吊り降ろしました。

 そこは、数えきれぬほどの死体と、その伴侶たちが絶望の中で果てていった「生きた墓場」でした。

 しかし、今のスィルハールは、かつての何も持たぬ若者ではありませんでした。

 彼は暗闇に目が慣れるのを待ち、新たに投げ込まれてくる「生きた伴侶」たちが持ってきた食料を、迷わず、そして冷徹に奪い取りました。彼は知っていたのです。ここで生き延びるためには、慈悲を捨て、獣にならねばならないことを。

 ある日、骨の山の中で、何かが動く気配がしました。

『……また、あの時の獣か?』

 スィルハールは、死肉を食いに来た野獣の影を見つけ、その足跡を必死に追いました。岩の裂け目を潜り、泥を這い、たどり着いた先……。

 そこには、かつてと同じように、潮騒が聞こえる海岸へと続く、一条の「出口」があったのです。

 スィルハールは、井戸の中に転がっていた死者たちの貴金属や、王宮から持ち込まれた豪華な副葬品を、死者の衣を剥ぐようにしてかき集めました。

 彼はそれらを大きな包みにまとめると、通りかかった船に手を振り、再び「死んだはずの男」として、莫大な富と共に都へと舞い戻ったのです。

 サフィアは語り終え、足元に落ちていた枯れ枝を折った。

「王様。スィルハールを救ったのは、奇跡ではありません。一度目の地獄で学んだ『生き延びるための作法』でした。……同じ苦しみが二度訪れた時、人はそれを『試練』ではなく、ただの『手続き』として処理できるほどに強くなるのですわ」

 ザルカは、折られた枝を拾い上げ、焚き火に投げ入れた。

「……二度目の地獄は、手続き、か。サフィア、余もまた、かつての敗北や裏切りを恐れてばかりいた。だが、それらを経験として血肉にしていれば、次に闇が訪れても、出口を指し示す『獣の目』を見つけることができるのだな」

 王の瞳には、繰り返される運命への恐怖ではなく、それらを乗りこなす「老練な覇気」が宿っていた。

「サフィア。二度の生き埋めを潜り抜けた男の魂は、もう折れることはないだろう。……だが、海はまだ、彼に『五度目』の牙を剥くというのか?」

 サフィアは微笑み、再び荒れ狂う波間に目を向けた。

「次なる『第五の航海』。……そこには、巨鳥ロックの親たちの復讐と、一度捕まれば二度と降りられぬ、執拗な『海の老人』が待っておりますわ」

 夜の海が、逃げ出したスィルハールを追うように、激しく波打っていた。

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