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毒杯の晩餐と百の献立  作者: 水前寺鯉太郎


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第四十四夜 ―― 板切れの檻と、再会する白帆 ――

第四十四夜 ―― 板切れの檻と、再会する白帆 ――


入江の焚き火が爆ぜ、パチパチという音が闇に吸い込まれていく。

 ザルカ王は、波打ち際に流れ着いた一本の「流木」を拾い上げ、その表面を指でなぞった。

「……サフィア。大猿の串刺しを逃れたスィルハールだが、海には安息などないのか。筏で逃げた先には、またもや命を啜る怪物が潜んでいるというのか」

 サフィアは、蛇が這うような細い線を砂に描き、語り始めた。

◆ サフィアの語り 第四十四夜 ――「大蛇の抱擁と、奇跡の商船」

 大猿の投げつける岩を逃れ、筏で辛うじて新たな島に漂着したスィルハールと二人の仲間。

 しかし、その島には、大猿よりも音もなく、冷酷な捕食者が住んでいました。夜のとばりが下りると同時に、深い茂みから巨木のような「大蛇」が現れ、まず一人の仲間を一飲みにしました。

 翌晩、生き残った二人は木の上に逃れましたが、大蛇は幹を這い上がり、もう一人の仲間をも飲み込んでしまったのです。

 最後の一人となったスィルハールは、狂気じみた知恵を絞り出しました。

 彼は海岸に打ち捨てられていた「板切れ」をかき集め、自分の体の周りに鎧のように縛り付けました。頭の上、足の下、そして左右に……。彼はまるで「木箱の中の標本」のような姿で、砂浜に横たわったのです。

 現れた大蛇は、スィルハールを飲み込もうとしましたが、四方に突き出た板切れが口に引っかかり、どうしても飲み込むことができません。大蛇は一晩中、彼の周りをのた打ち回り、締め上げようとしましたが、板の檻が彼を守り抜きました。

 夜が明け、大蛇が諦めて森へ消えた時、水平線に一つの白い帆が現れました。

 スィルハールが狂ったように手を振って助けを求めると、その船はかつて、彼がダイヤモンドの谷で「自分を肉に縛り付けて脱出した時」に乗せてくれた、あの恩人たちの船だったのです!

『……ああ、スィルハール! またお前なのか! お前は何度死んで、何度生き返るのだ!』

 船長は驚愕し、彼がかつて船に預けたままになっていた財産を、再び彼の手へと返しました。スィルハールは第三の航海で失った以上の富を抱え、再び英雄として都の土を踏んだのです。

 サフィアは語り終え、王の持つ流木を指差した。

「王様。スィルハールを救ったのは、立派な盾ではなく、その場にあった『板切れ』でした。……絶望の淵では、王の権威も黄金の鎧も役に立ちません。ただ、生きようとする執念が形になった『板切れ』こそが、最強の守りとなるのですわ」

 ザルカは、手の中の流木を強く握りしめた。

「……板切れの檻、か。サフィア、余ももしすべてを失い、一人で闇に放り出されたら、その板切れを拾い集める強かさを持っているだろうか。……スィルハールという男、死ぬたびに『以前の自分』に助けられているのが、何とも皮肉で、そして美しいな」

 王の言葉には、自らの過去と現在を繋ぐ「因果」への畏怖が宿っていた。

「さて、サフィア。三度の地獄を越えた男だ。これで大人しく隠居すれば、誰も彼を責めはせまい。……だが、彼の魂は、まだなぎを許さぬのだろう?」

 サフィアは微笑み、再び荒れ狂う沖合の方へと目を向けた。

「第四十五夜。次なる『第四の航海』。……そこには、理性を奪う『食人の毒』と、文化なき民に『鞍』を教える知恵、そして、最初に出会ったあの『死の悪習』が再び待ち構えておりますわ」

 夜の海が、不敵に笑うように白く泡立っていた。

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