第四十二夜 ―― 鷲の巣の分配と、眩い帰還 ――
交易都市の夜は、持ち込まれたダイヤモンドの輝きのように、どこか冷たく、刺すような野心を秘めている。
ザルカ王は、サフィアが差し出した「一欠片の干し肉」を噛み締め、その塩辛さに目を細めた。
「……サフィア。肉に身を縛り、鷲に運ばせたスィルハール。だが、降り立った先には、宝石を狙う腹を空かせた商人たちが待っているはずだ。彼らは、獲物を横取りした異邦人を歓迎したのか?」
サフィアは、宝石の粉を撒くように、夜空に指を走らせて第四十二夜の語りを始めた。
◆ サフィアの語り 第四十二夜 ――「谷を越えた友情と、第二の航海の完結」
鷲が肉を掴んで高い絶壁の巣へと舞い戻ると、そこには肉にへばりついたスィルハールが、死んだふりをして横たわっていました。
そこへ、大声を上げて鷲を追い払い、肉を回収しにきた商人たちが駆け寄りました。彼らは肉に宝石がついていないのを見て嘆きましたが、動くはずのない肉の中からスィルハールが起き上がったのを見て、腰を抜かさんばかりに驚きました。
『……お前は幽霊か? それとも、谷の悪魔か!』
スィルハールは落ち着いて立ち上がり、懐から、谷底で拾い集めた一握りの「最高級のダイヤモンド」を取り出しました。
『私はただの遭難者です。ですが、私の命を救ってくれたあなた方に、この輝きを分け合いましょう。私の袋には、あなた方が一生かけて集めるよりも多くの宝石が入っているのですから』
スィルハールは惜しみなく、命の恩人となった商人たちに大粒の宝石を分け与えました。
欲深い商人たちも、そのあまりの気風の良さと、彼の壮絶な冒険談に心を打たれ、彼を自分たちの船へと招き入れました。
スィルハールは彼らと共に、寄港する島々で宝石を珍しい品々と交換し、都へと戻った時には、第一の航海をも上回る、目も眩むような富を築き上げていたのです。
サフィアは語り終え、焚き火の灰の中に、小さな光る石を置いた。
「王様。スィルハールが救われたのは、宝石を持っていたからではありません。それを『分かち合う心』を持っていたからですわ。……奪い合う谷で、与える手を持つ者こそが、真の勝者となるのです」
ザルカは、灰の中の石をじっと見つめた。
「……分かち合う心、か。サフィア、余は今まで、奪うことでしか力を示せぬと思っていた。だが、スィルハールのように、敵を味方に変える『富の使い方』があるのだな」
王の言葉には、力の本質を捉え直した者の静かな響きがあった。
「さて、サフィア。二度の奇跡を成し遂げたスィルハール。だが、彼の物語はまだ、その七分の一を語り終えたに過ぎぬのだろう?」
サフィアは微笑み、再び海風の吹く方向へと目を向けた。
「休む間もなく、彼は『第三の航海』へと漕ぎ出します。……しかし、次に待っているのは、宝石の輝きではなく、血に飢えた『小猿の群れ』と、巨人の如き『大猿』の咆哮にございますわ」
夜の帳の向こうから、野獣の叫びのような風が吹き抜けていった。




