第四十一夜 ―― 巨鳥の足枷(あしかせ)と、宝石の這う谷 ――
都の夜は、かつての第一の航海で得た富によって、かつてないほど華やかに彩られていた。
ザルカ王は、スィルハールが持ち帰ったとされる「アブダビ王の香木」を焚き、その煙の中に立ち上がる幻影を見つめていた。
「……サフィア。一度の死線を越え、巨万の富を得て、王にまで重用された。これ以上の何を望むというのだ。スィルハールという男、もしや欲に憑かれた亡者なのではないか」
サフィアは、鳥の羽を一枚、風に逃がしながら、語りを始めた。
◆ サフィアの語り 第四十一夜 ――「第二の航海と、峻険なるダイヤモンドの谷」
都での安らぎも、スィルハールの胸に燃える「未知への渇望」を消すことはできませんでした。
『……私の魂は、揺れる甲板の上でしか息ができぬのだ!』
彼は再び商品を集め、第二の航海へと漕ぎ出しました。しかし、立ち寄った無人島で、運命の悪戯が彼を襲います。緑の木陰でうたた寝をしている間に、仲間を乗せた船が彼を置き去りにして出航してしまったのです。
絶望に暮れるスィルハールの目に、島の中心に鎮座する「巨大な白いドーム」が映りました。
それは、周囲五十歩もある巨大な卵。空がにわかに暗くなり、太陽が隠れたかと思うと、翼を広げれば雲を裂くほどの巨鳥「ロック」が舞い降りてきたのです。
スィルハールは、この巨鳥こそが唯一の「脱出の翼」であると悟りました。
彼は自分のターバンを解き、それで自らの体を巨鳥の太い足に固く結びつけたのです。
『……神よ、私を運んでくれ。この地獄の島から、どこでもいい、命のある場所へ!』
翌朝、ロック鳥はスィルハールをぶら下げたまま天高く舞い上がり、深い、深い谷底へと降り立ちました。
そこは、足元に転がる石のすべてが「ダイヤモンド」という輝きの谷。しかし、同時にそこは、象をも飲み込む巨大な大蛇たちがうごめく、呪われた牢獄でもありました。
スィルハールは、谷の絶壁の上から「生肉」が降ってくるのを目撃しました。
それは、賢い商人たちが、肉に食い込んだ宝石を大鷲に運ばせて採取するための仕掛け。
彼は迷わず、落ちていた最大のダイヤモンドを懐に詰め込むと、大きな羊の肉を自分の背中に縛り付け、仰向けになって大鷲が降りてくるのを待ったのです。
サフィアは語り終え、王の足元に転がる小石を指差した。
「王様。スィルハールは、自分を『餌』にしました。命を賭けた博打を打たねば、あの峻険な谷から脱け出す道はなかったのですわ。……宝石を掴む手は、血に汚れていなければならないこともございます」
ザルカは、自分の掌を握りしめた。
「……自らを巨鳥に縛り、自らを大蛇の餌にするか。サフィア、王としての決断もまた、時にはそのような『狂気』を孕むべきなのかもしれん。守るべきものが大きければ大きいほど、投じるチップもまた、自らの命となる」
王の瞳には、困難を「翼」に変えるための、冷徹で熱い覚悟が宿っていた。
「サフィア。ダイヤモンドを抱えたスィルハールは、無事に商人たちの元へ届いたのか? それとも、肉と共に鷲の腹に収まったのか」
サフィアは微笑み、ランプの火を小さく絞った。
「鷲の巣で出会った商人たちとの交渉。……そして、スィルハールは『富』だけでなく、海を越える『友情』をも手に入れることになりますわ」
夜空を、ロック鳥の羽撃きのような風が吹き抜けていった。




