表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒杯の晩餐と百の献立  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/100

第三十四夜 ―― 暁の宮殿と、古びた真実の罠 ――

第三十四夜 ―― 暁の宮殿と、古びた真実の罠 ――


東方の都の夜明け。砂漠の地平線から太陽が昇ると同時に、昨日まで空き地だった場所に、目が眩むほどの光を放つ宮殿が姿を現した。

 ザルカ王はその異様な光景を、宿の窓から黙って見つめていた。

「……サフィア。人の手によらぬ奇跡は、美しくもどこか寒気がするな。一晩で国を創り替えるほどの力、それは果たして祝福と言えるのだろうか」

 サフィアは、露に濡れた「白百合の花」を花瓶に挿しながら、第三十四夜の語りを始めた。

◆ サフィアの語り 第三十四夜 ――「一晩の奇跡と、古いランプを売る声」

 魔神の力により、アラディンは一夜にして、世界中のどんな王も見たことのない壮麗な宮殿を築き上げました。

 壁には真珠が埋め込まれ、柱は純金。アラディンは最高の礼装を纏い、何千もの奴隷を従えて王宮へ向かい、ついに美しい姫君バドル・アル・バドゥールを妻として迎え入れたのです。

 かつての貧しい少年は、今や誰もがひざまずく「奇跡の王子」となりました。

 しかし、その繁栄の影に、復讐に燃えるあの魔術師が忍び寄っていました。

 彼はアラディンが不在の隙を突き、ボロ布を纏った「ランプ売り」に変装して宮殿の周りを歩き回りました。

『さあ、古いランプを新しいランプに交換しますよ! 古いものを新しく、得をしたいお方はおらんか!』

 宮殿の人々は笑いました。『古いランプを新品に替えてくれるなんて、なんて馬鹿な老人だ』と。

 その声を聞いた姫君は、アラディンが大切に隠していた、あのすすだらけの古いランプのことを思い出しました。

『あんな汚いランプ、殿様には相応しくないわ。新しい綺麗なランプに替えて、驚かせてあげましょう』

 姫君は、そのランプに世界の運命が宿っているとも知らず、笑顔で魔術師にそれを差し出したのです。

 ランプを掴み取った魔術師の口角が、醜く吊り上がりました。

 次の瞬間、宮殿は、姫君は、そして魔法で得たすべての栄光は、轟音と共に異国の空へと消え去り、後に残されたのは、かつてと同じ「ただの砂埃」だけだったのです。

 サフィアは語り終え、花瓶の水をそっと入れ替えた。

「王様。姫君が手放したのは、ただの古い道具ではありません。アラディンの『魂の拠り所』でした。目に見える新しさに目を奪われ、古びた本質を捨てる時、国は一瞬で崩壊いたしますわ」

 ザルカは、窓枠を強く握りしめた。

「……新しいランプと、古いランプの交換、か。耳に心地よい新しい法律や、輝かしい未来の約束……それらが、先代から続く『統治の重み』を奪い去る罠であったなら。余の国にも、その老魔術師のような『改革』の声が届いている」

 王の瞳には、かつての鬼神編で負った傷とは別の、鋭い警戒の色が宿っていた。

「サフィア。すべてを失ったアラディンは、再びあの暗い地下へ戻るのか? それとも、己の足で姫を、そして失った魔法を取り戻しに行くのか」

 サフィアは微笑み、王の肩にそっと手を置いた。

「魔法を奪われた少年は、今度は自らの『知恵』と『勇気』だけで、海を越え、大陸を渡ります。……真の王者は、すべてを失った時から創られるのですわ」

 ザルカは、空っぽになった宮殿の跡地を睨みつけた。

 魔法の終わりは、人間アラディンの、そして王ザルカの「真の戦い」の始まりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ