声の主の正体
パーティの中へと足を踏み入れた私とメグルは、とりあえず適当なご飯をお皿に盛りつけ、それを口に運んで空腹感を満たす。昼間の一件以来、何も口にしていなかったので腹ペコだ。バクバクと食べて、お皿のご飯がどんどん減っていく。
一方で、メグルは遠慮気味だ。食べていない訳ではないけど、ご飯の進みは遅い。
「メグル。こっちのも、美味しいよ。あーん」
「……あー」
それでも、私がフォークに刺したミートボールを差し出すと、素直に口を開いて食べてくれる。食欲がない訳ではない。
「お、お姉さまの、あーん……」
「ん。シグレも、あーん」
「あーん!」
顔を赤くし、妬ましそうに見ていたシグレにも同じようにしてあげた。こちらはミートボールを食べるだけではなく、私のフォークにむしゃぶりつき、舌でベロベロと舐めて来たのでフォークは新しい物に交換した。
シグレは相変わらず酔っ払っているようで、普段とだいぶ様子が違う。なんていうか……普段よりも、素直だ。欲に忠実というか……いやそれが酔っ払いか。
本当に、飲んでないんだよね。ちょっと疑わしい。
「お前の妹、面白いな」
「うん。あと、可愛いんだよ。普段はおっとりして心配な所もあるけど、いざという時は頼りになるんだ。あと、私をお姉さまって呼んで慕ってくれて、それもイイ」
「んー。シティはどっちかというと、妹って感じだからオレから見ると違和感があるぜ」
「いやいや、私昔から、お姉ちゃんだったから」
「昔って、オレと過ごしてた時か?ないない。いっつもオレの後ろにくっついて、男から守ってやってたオレから言わせてもらうと、絶対ない。お前は妹だ」
「は、はぁ?メグルの暴走を止めてあげてたのは、私なんですけど。色んな事を計画したりしてたのも、私。私の方が、お姉さんだったし」
「ねぇよ」
「ある!」
「ない!」
「私の前でイチャつかないでください!」
「イチャついてねぇよ!?」
私とメグルの言い合いを、シグレが止めに入った。いや、そういうつもりで話に入って来たのかは分からないけど、とりあえず止まったのでそういう事にしておこう。
「お姉さまはぁ、私のお姉さまだから独り占めはダメです。私はずーっと、お姉さまと一緒にいるんですから……」
シグレはそう言うと、イスに座る私の前の床に座り込み、上半身を膝の上に乗せて来た。私はそんなシグレの頭を撫でながら、ご飯を口に運ぶ。
うん、美味しい。
「ずっと一緒に、か」
「うん。シグレはもう、私にとってメグルと同じくらい大切な存在だから。だから、この先もずっと一緒にいて、一緒に大人になっていく事になると思う」
「……そういやまだ、謝ってなかったよな。傷つけて、ごめんな。えっと……シグレ」
「ぐー」
「寝てやがる……」
せっかくメグルが言葉を振り絞って謝罪の言葉を口にしたのに、シグレは私の膝の上で寝てしまっていた。
でも無理もない。普段ならもう、寝ている時間だ。こんな時間まで起きていてくれたことが、そもそも奇跡的である。
「空腹は少しは紛れたかな?」
「先生」
そこに、先生がフラフラと歩いて近づいて来た。あまりにもフラフラしているので、メグルがイスから立ち上がって先生にその席を譲った。
フラフラしているのはいつもの事だから、大丈夫だと思うんだけどね。
「えーっと、何か聞きたい事があるんでしたっけ?」
「そうだよー」
「私からも、聞きたい事があるんです」
「じゃ、まずは私から。君は一体、何者だ?」
「まぁ、そうですよねぇ……」
メグルを巡って争ったあの一件を目の当たりにしたら、誰もが気になる事だろう。八大賢でもなんでもない、ただの可愛い女の子であるこの私が、カルマに操られていたメグルを倒せた理由。一時的にとはいえ、この町から全ての魔法を消し去る事ができた理由。
そろそろ、説明しなくてはいけないだろう。その説明を経らなければ、私が先生に対して聞きたい事も聞く事ができない。
「えーっと、エリシュさんにも聞いてほしいんだけど……」
「……」
エリシュさんに視線を向けてそうお願いすると、エリシュさんは黙ってうなずいた。そして周囲のメイドさん達に視線を送ると、察したメイドさん達が一斉に部屋を後にする。
華やかなパーティは一瞬にしてお開きとなり、若干の罪悪感が生まれる。でもこれから私が話す事は、たぶん出来るだけ聞く人が少ない方がいいだろうと思う。
「エリシュしゃま、可愛いですぅ。ちゅっちゅ」
この場には、私とメグルとシグレに加え、エリシュさんとエフテニーリャ先生とルナさんの6人となる。うち2名は酔っ払って寝てるか、好きな人に絡みついてキスしてるだけだけど、これから私の話を聞いてもらう事になる。
「えっとね。実は……私の中には私じゃない魂が、とある事情で二つあるんだ。それは私が、この世界に生まれた時からあって、ずっと一緒だった。といっても、声が聞こえ始めたのは最近だけど」
「ほう。魂が、二つ。たまに君があり得ない技術を私達に披露する事ができるのは、その声の導きに従ってといったところか?」
「そ、その通りです」
「君のその異常と言えるような力も、その魂による物なのか?」
「たぶんそうです。全部が混じり合った結果、私は今の力を手に入れました」
「シティの中に、別の魂が……。なんで、そんな事になってんだ?」
「それにはね、複雑な事情があるんだよ……」
正直言って、その部分については私もあまり理解が及んでいない。ふんわりとは分かっているけど、私としてもけっこう突飛な話で、全部をちゃんと伝えられるか不安だ。だから転生者と言うくだりは省いて話しているのだ。
「その話は、置いておこう。興味がない訳じゃあないけど、それよりも確かめたい事がある」
私の心情を察した訳ではないだろうけど、先生がメグルの質問を切り上げてくれた。
「その二つの魂の正体は、誰だ」
そして食い気味に、私に向かってそう尋ねて来る。
「それは私も、知らない。だけどこう言ってました。先生に聞けば、分かるって。私が先生に聞きたいって言った事は、その事です」
「……二人の特徴は?」
「ベールで顔を隠してたから、顔は見れませんでした。でも、一人は真っ黒な服を着ていて、もう一人は真っ白な服を着ていました。白い人は透き通った声で、基本無口な人です。黒い人の声は、まるで少年みたいな声でした。あと、興奮すると一人称が私からボクになったりします。あと、先生に伝えて欲しいって言われてる事があって……昔、先生の分のタルトを食べたのは氷じゃなくて、黒だって」
「ああ……」
先生は、私から聞いた2人の特徴で当てはまる人物がいるのか、目を見開いて頭を抱えた。
その様子が、少しおかしい。身体は震えだし、目にはうっすらと涙を浮かべて今にも泣きだしてしまいそう。
「エフテニーリャ」
「……大丈夫だよー。はは、まいったね。まさかと思っていたけど、本当にそのまさかのようだ」
「誰なんだ?シティの中にいる、その二人って」
「白賢と、黒賢だ。両者間違いなく世界最強の魔術師であり、その二人が君の魂に宿っている人物の正体だよ」
「……」
先生が明かした、私の魂に宿っている2人の正体を聞き、場は静まり返った。
どう反応したらいいのか分からない。でも私も、なんとなくそうではないのかとは思っていた。だけど、本当にそうだったんだね。
「えーっと……つまりシティって、もしかしてオレなんか比べ物にならないくらいヤバイ奴だったのか?」
「まぁそうなるねー。なんと言っても、最強の魔術師の魂を二つも宿してるんだから。その存在は、世界にとって本当に危うい。特にその二人は、かつて世界を破滅に追いやろうとした人物だし。いや本当に、ランドグリースの娘という肩書がしょぼく見えて来た」
「……」
確かに先生の言う通り、私という存在はとても危険という事になる。ただでさえ、八大賢が子供を産んだだけで兵器だなんだのと大騒ぎとなったのに、今度は八大賢の力そのものを手に入れた子供の登場である。それも2人分。
問題ない訳がない。私はこの世界の平和と秩序を壊すかもしれない存在だ。もしかしたら、この場にいる人たちに嫌われてしまう可能性だってある。でも私は、全てを受け入れるつもりだ。その覚悟で、話している。
「すっげぇな、シティ!」
「うむ。さすが、サラが産んだ子だ」
ところが、メグルとエリシュさんは私を嫌うどころか、褒めて来た。
うん。信じてはいた。皆が、そんな事で私を嫌う訳がない、と。でもそう反応されるまでは、ちょっとだけ不安だった。そしてやっぱり嫌うそぶりも見せなかった事に対し、安堵して思わず笑ってしまう。
「いや、そんな喜んだり褒めたりする事じゃないんだけどねー……でも、周囲にそう言わせる事が出来る君だからこそ、救いようがある。コレがカルマみたいな男だったら、最悪だ」
「エリシュしゃまぁー」
先生も、呆れ気味だけどとりあえず私を嫌ったりはしないようだ。
そしてルナさんは依然として、エリシュさんに絡みついてキスをしている。




