歓迎パーティ
一緒に泣きわめいた事で、私とメグルは改めて再会を果たした。
それから、メグルと手を繋ぎながら、私はメグルがいなくなってしまった間の出来事を話した。シグレという妹が出来たり、学校で友達が出来たりした事。ディシアと決闘する事になったり、エリシュさんやルナさんから、色々な事を学んだ事を。
メグルはあの頃のように笑顔で話を聞いてくれて、その距離が急激に縮まった気がする。
「ところで、メグルは村にいた時、どこに住んでたの?」
「森の奥にある、立派だけど古い屋敷だ。けっこう古い建物なんだけど、たぶん魔力で維持管理されてんだと思う。外はともかく中は割とキレイで、快適だったよ」
「そんな家、あの村にあったんだ……」
「ああ。結界かなんかで、外から簡単に入れないようになってたからな。村の連中も、一部しかその屋敷の存在は知らなかったはずだ」
メグルが住んでた家、ちょっとだけ興味がある。それに、メグルが閉じ込められていたと言う町も、ちょっと気になる。
メグルにとっては辛い時期を過ごした町だ。行ってみたいなんて言ったら、不謹慎に思われるだろう。でも、ちょっと見てみたい。
「秘密だから、私に家の場所を教えてくれなかったんだ」
「そうだよ。カルマに家の場所をバラさないように釘を刺されてたからな。ちなみに、シティのために本を持ち出した事があるだろ」
「あったね」
一時期魔法の本に飢えていた私に、メグルが本を持って来てくれた事があった。その本はとても古くて、だけど書いてある事はためになり、おかげで魔法に関する知識を得る事ができた。
「あの本を持ち出したの、けっこうヤバかったみたいだ。なんか重要な本だったらしくて、カルマに怒られちまった」
「そ、そうだったんだ。ごめんね、無茶言って……」
「別にいいって。オレが勝手にした事だからな。でもあの家には、何かある気がする。よく分かんねぇけど……シティの匂いがしたんだよな」
「いや、私メグルの家に行った事ないし、そんなお屋敷がある事も知らなかったし」
「だから、分かんねぇけど、でもしたんだよ。……ところでこの部屋、シティの匂いでいっぱいですげぇ良い匂いだ」
「う、うん?」
突然私の匂いがどうのこうの言い出したメグルに、私は若干戸惑った。
そのメグルが、私から手を離すと私とシグレのベッドの方にふらふらと歩いて行き、そしてそこに飛び込んだ。
「うへへー。シティの匂い、良い匂いだぁ」
「……」
あのメグルが、ベッドに飛び込んだと思ったら枕に顔を擦りつけ、幸せそうにしている。私は今、一体何を見ているんだろう。いや、幸せそうなメグルを見るのは全然良い。嬉しいよ。だけど、その幸せを生んでいるのが……私の匂い?自分じゃよく分からないけど、私ってそんな匂いを発してるの?
「急にどうしたの……?」
「ひ、久々のシティの匂いで、我慢できなくなっちまっただけだ」
「私の匂い、そんなに良い匂い?」
「すげぇ良い匂いだ!オレはこれ以上に良い匂いを嗅いだことがない!」
「そ、そうなんだ……」
力説するメグルに、私は若干引いた。
メグルってもしかして、匂いフェチなんだろうか。別にそれが悪い事だとは思わないけど、でも私の匂いで喜ぶ女の子を目の前で見るのは、ちょっと複雑だ。特にそれが大切な家族だと、尚更にね……。
でも、メグルの元気が出たみたいで良かった。今はその事が嬉しくて、他の事は霞んで見える。
「……でもさ、ここにその匂いの発生源がいるんだよ?ベッドとかじゃなくて……メグルが望むなら、私の匂いを直接嗅いでも……良いよ」
「シティ……」
メグルは私の提案を聞き、ベッドから私の方へと移動してきた。
自分で言っておいて、一体なんて恥ずかしい台詞を吐いたんだと思う。だって要約すれば、自分の匂いを嗅げと言っている変態だ。
メグルはふらふらと私の前まで歩いて来ると、私をぎゅっと抱きしめて来た。私より少し背の高いメグルが、私の髪に顔を押し付けて深呼吸する音が聞こえてくる。
「っ……!」
なんだろう、コレ。凄く恥ずかしい。
いや、メグルは家族だ。家族に抱きしめられるのは自然な事だし、何もおかしくない。
「……ありがとな、シティ。本当に良い匂いで、オレはこの匂いが世界で一番好きだ。ずっとこうしてたいくらいだぜ」
「それは……ちょっと困るかな」
「だよな。……でも、本当にありがとう。シティのおかげで、ちょっと元気が出た。それから……せっかく助けに来てくれたのに、怒ってごめん」
「もう、いいよ。メグルが無事でいてくれて、本当に良かった。改めて、おかえり、メグル」
「ああ。ただいま、シティ」
恥ずかしいけど、メグルの抱擁が嬉しい。帰ってきてくれた事が、とにかく嬉しい。仲直りができて、嬉しい。
もう二度と、この温もりを手放さない。私はこの先、メグルと共に人生を歩んでいく。心にそう誓った。
私とシグレの部屋での密会のおかげで、メグルと仲直りが出来た。夜も更けて、けっこう遅い時間になってしまったけど、私とメグルは部屋を出て皆の下へと向かう。
2人きりにさせてもらった訳だし、一応、報告をしておかないといけないからね。それに、メグルに私の家族をちゃんと紹介しておきたい。妹のシグレや、祖母のエリシュさんに、エリシュさんの彼女のルナさん。屋敷のメイドさんたち。皆良い人ばかりで、メグルもきっとすぐに仲良くなれる人しかいない。
「こっちだよ。皆、まだ起きてるかなー」
「お、おう……」
私はメグルの手を引いて廊下を歩き、メグルはそんな私に付いてくる。でもなんか、メグルが少し緊張気味だ。どこか表情が硬い。何に緊張してるんだろう。まぁいっか。
向かっているのはリビングとして使用している大部屋で、たぶんそこに誰かしらいるはずだ。
シグレも、部屋を占有させてもらっちゃったからね。あの子、寝てるとしたらどこで寝てるんだろう。ちょっと心配。
確認する意味でも、そこへ向かう。
そしてその部屋に辿り着くと、私は意気揚々と扉を開け放った。
「ひやあああぁぁ!?」
そして私達を出迎えた顔に、私は驚いて声をあげた。
扉を開けてすぐそこにいたのは、シグレだ。まるで私達を待ち構えていたかのように、扉のすぐそこにいた。その顔は目の下にクマを作った上で瞳孔が開いていて、正気の人間とは思えないような酷い顔だ。
「お姉さま……メグルさんとは、仲直りができましたか?」
「う、うん……おかげさまで……」
シグレの変貌っぷりに戸惑う私を気にする素振りも見せず、シグレが沈んだ声で尋ねて来た。しどろもどろになりながら答えたら、ニヤリと笑って応えたシグレが怖い。
「やっと来たか。中に入りたまえ」
「え、エリシュさん。コレは……」
シグレの奥の部屋の中では、ちょっとしたパーティが開かれていた。机の上に並ぶ、オードブルの食事。飲み物。華やかな飾りつけ。屋敷に住み込みで働いているメイドさんや、住み込みじゃないメイドさんたちも勢ぞろいで、食事を運んだりしながら自らも食べて飲んで、パーティを楽しんでいる。
中にはエリシュさんもいて、ソファにだらしなく寝そべるように座りながら、グラスを口に運んでいる。その顔は少し赤くなっていて、飲んでいる物がお酒だとすぐに分かった。
「君が家族を取り戻したお祝いだ。ちなみにシグレは、シェスティアとメグルを二人きりにさせて仲直りをさせる事により、自分の妹という地位が揺るがされないかと心配し過ぎて、そうなってしまった。取り乱すシグレは、中々に愉快だったよ」
「笑いごとではないです!もしこのままお姉さまがメグルさんとくっついてしまったら、妹の私という存在はお邪魔になってしまいます……!お姉さまの幸せを願う私ですが、そうなったら私はどうやって生きていけばいいのか分かりません!どうしたらいいですか、お姉さま!」
「は、はい?」
闇シグレに詰め寄られたけど、言ってることが支離滅裂だ。私とメグルが、くっつく?妹が邪魔になる?訳が分からない。
というかよくみたら、シグレの顔もエリシュさんと同じように赤くなっている。もしかして……そう思いながらエリシュさんの方を見ると、エリシュさんはグラスのお酒を一気に飲み干してから、私の視線の意味を理解して口を開く。
「酒は飲んでいない。だが、場の雰囲気と臭いでやられたようだ」
「まったく!なんにものんれないのに、よわよわでしゅねシグレお嬢様はぁ。ねー、エリシュしゃまぁ。しゅきー」
「ふ。こっちは、たんまりと飲んでいる。むしろ、呑まれている」
エリシュさんに絡みつきながら、ろれつの回っていない声で言ったのはルナさんだ。彼女の顔は尖った耳の先まで真っ赤になっていて、明らかに酔っ払いと化して文字通りエリシュさんに絡んでいる。
あのルナさんが、皆の前でエリシュさんに身体を擦り付けながら、その頬にキスを連発したり頬ずりをしてるんだから、相当できあがっているようだ。
何も言わずに受け入れるエリシュさんも、どうかと思う。
「ま、とりあえず中に入りなよー。シェスティア君には、個人的に聞きたい事もあるんだ」
別のイスには、エフテニーリャ先生も座っていた。だらしなく、深くイスに腰かけながら、こちらもお酒を口に運んでいる。傍にはご飯が山盛りに積まれたお皿もあって、先生の口からはお肉の骨が飛び出してそれをしゃぶっている。やせ型で、いつも体調不良気味の先生が食べられる量には見えないけど、先生のだよね。食べられるの?
先生の言葉に促されたように、メイドさん達が私とメグルが座れるイスを用意してくれて、そこに座るように促して来た。まぁ、何にしても入らせてもらうけど。お腹も減ったしね。
私とメグルは、そうして導かれるがままにパーティの中へと足を踏み入れた。




