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再会


 サベルさんの事は、気づいてあげられなかった事に対して自分に腹が立つ。でも大本はこの男だ。ラミーヤもそうだったけど、全部この男のせい。

 責任をとって、全部返して欲しい。でも失われた物は、もう返ってこない。


「それで、シェスティアと同じような幼い子供を手に入れた貴様は、世界を征服しようと企んでいると言う訳だ。その気持ちの悪い呪術と、八大賢の子供。確かに素晴らしい力だよ」

「そうでしょう?そうだ。よろしければ貴女も私に協力しませんか?」

「断る。私はクズの下につくつもりはない」

「──黙って聞いていれば、(わたくし)のご主人様の悪口をペラペラと。ご主人様。コイツ等を燃えカスにする許可をください」


 突然、部屋に響いた声。声は、男が座っていたイスの奥にある、扉の向こうから聞こえた。

 私はその声に、聞き覚えがある。忘れもしない。忘れられない。私の大切な、家族の声だ。


「おいで、リーシャ。でもまだ、手を出したらダメだよ。彼女達にも、ボクの支配を受け入れてもらってボクの下僕となってもらうんだからね」


 男に呼ばれ、リーシャと呼ばれた人物がその姿を現わした。彼女は、赤い髪の持ち主だ。私が覚えている姿より、少し背が伸びている。女の子らしくなった。胸も少し成長していて、美しい姿だ。


「メグル……!」


 私はその姿を見て、その名を呼んだ。いくら探しても、どこにもいなかった。でもここにいたんだね。涙が溢れ、前がぼやける。でも私が見間違う訳がない。いくら少し姿が変わったとしても、彼女はメグルだ。


「紹介しよう。ボクの婚約者の、リーシャだ」


 男の声に合わせ、男の隣に並んだメグルが身に着けている赤いドレスのスカートを摘まみ上げ、ペコリとお辞儀をした。でもその目は鋭く、私達全員に対する憎悪を隠せていない。

 いや、それよりも今男がいった言葉だ。婚約者?メグルが?というか、リーシャて何。


「ご紹介に預かりました、リーシャです。ご主人様とは、婚姻を結んだ仲。どうぞ、よろしくお願いします。ゴミども」


 メグルは、自分の事をリーシャと自己紹介した。その所作は、私の知るメグルではない。一つ一つが女の子らしく、上品で美しい。私の知るメグルではない。でも、間違いなくメグルだ。あのメグルが、丁寧な言葉遣いで女物のドレスを着て、女の子らしく振舞っている。


「──ぷっ。あははははは!メグルが、メグルが女の子らしい!あはははは!」


 我慢できず、私は笑ってしまった。再会できた喜びよりも、あのメグルが女の子らしい事をしているという衝撃が、私の喜びを上回ってしまったのだ。

 私はこの世界に来て、いや、前の人生も含めて一番笑ったね。それくらい面白い光景を前にしている。ツボに入った。笑い死んでしまいそう。涙も止まらない。再会が嬉しくて涙が出ているのか、面白すぎて涙が出ているのか、分からなくなってしまった。


「落ち着いてください、お嬢様。少し、下品です」


 私を抱きかかえているルナさんにそう言われるも、我慢できないんだよ。面白すぎて。


「ご主人様。この者、私をバカにしていますわ。どうか私に、燃えカスにする許可をください」

「わたくしって!メグルがわたくし!冗談じゃないよ!あはははは!」

「っ!」

「落ち着きなさい、リーシャ」


 男に落ち着くように言われ、メグルは私に対し、眉を寄せて怒りの表情を向けているけど、襲い掛かっては来れない。

 別に私は、バカにしてる訳じゃないんだよ。ただ、面白くて笑ってるだけなんだ。だからそんなに怒らないで欲しい。

 でも、いてくれてよかった。本当に、良かった。探したんだよ。いなくなってしまった家族の姿を見れた事が、本当に嬉しい。だから今少しだけ、笑わせて。


「はぁー、スッキリしたぁ」


 私はひとしきり笑い終え、ようやく満足する事が出来た。


「凄い笑いっぷりだったねー。そんなに面白いの?」

「いや、面白いどころじゃないですよ。だって本当のメグルは、自分の事をオレオレいう子だったから。こんなキャラじゃないんです」

「なるほどねー。つまり、精神を操られて、その性格すら歪まされていると言う訳だ。そのいかにもお嬢様って感じの性格は、君の趣味かな?」

「……」


 だとしたら、本気で気持ちが悪い。私は先生と一緒に引いた目で男の方を見た。

 だって、メグルの年は私と変わらないんだよ。そんな少女にドレスを着させ、お嬢様口調で喋らせたうえでご主人様と呼ばせて近くに侍らせる。相当な変態だ。


「ま、まさか……メグルに変な事はしてないよね!?」

「ボクは好き者の変態ではありません。子ができる身体になるまでは、手を出すつもりはないのでご安心を。ただ、子ができるようなれば手を出します」

「やっぱり変態だ!」


 ダメだこの男。早くメグルを取り返さなければ、メグルの身体が危ない。


「まぁカルマの趣味はどうでもいい。その子はシェスティアのかけがえのない家族なんだ。返してくれ」

「ダメに決まっているじゃないですか。この子はボクと共にこの世界を手中に収め、その中で魔力の強い子孫を残すための道具となっていただくんです。そのために、ボクの全魔力を注いで魂を完全に掌握したのですから……それを渡す訳がないでしょう」


 そう言うと、男はメグルの頬を叩いた。その行動に意味があるとは思えない。でもメグルは何の文句も言わず、それが当然のように立ち尽くす。


()()()。今、殴られたんだよ?その男に、怒っても良いんだよ?」

「怒る?何故私が怒るのですか?私はご主人様の道具。何をされても文句はありません」


 メグルは当然のように、そう言い放った。


「凄いでしょう?この子は完全に、ボクの道具。意のままに動く、お人形さんです。ああ、そうだ。ここで面白い事を教えてあげます。この子は自分をボクに差し出す条件として、貴女に家族を作るように要求したんですよ。それで送ったのが、そこにいる汚い子供です。いやぁ、随分と憔悴してたんですよ、この子。自分のせいで村が焼けた。人が死んだ。大切な人の家族を奪った、て言ってね。考えてくださいよ。貴女に家族を作れとか、訳が分からない要求だと思いませんか?でも、ボクは叶えてあげた。優しいでしょ?」


 何が、叶えてあげただ。あんな呪術をかられて私の下に送られてきたシグレは、下手をしたら死んでいたんだよ。この男は、その約束を守るつもりなんてなかった。それでいて、メグルの身体と心を手に入れた。

 全ての黒幕を前にして、どんどん怒りが湧いて来る。でも、不思議と心は冷静になっていくのを感じる。


「ルナさん。離しても大丈夫。私はもう、突っ走ったりしないから」

「……」


 私の訴えを聞き、ルナさんは私を床に降ろしてくれた。ようやく、息苦しいのから解放されたよ。


「えっとさ。なんか色々と暗躍してたみたいだけど、とりあえず私とシグレを会わせてくれて、ありがとう。私はシグレと出会えて、良かった。そこに後悔はない」

「どういたしまして。ですが、自分の両親の死を経て得たものを、後悔がない?随分と薄情な娘さんだ。ご両親が報われませんね」

「あ、勘違いしてるみたいだけど、実際は感謝なんて微塵もしてないから」


 私は男の挑発を、冷静にかわした。冷静じゃなかったら、再び食いついてルナさんに抱きしめられる事になっていただろう。でも、大丈夫。私はメグルのおかげで、冷静だ。


「ところで、メグルが完全に貴方の手中にあるって言った?」

「そうですよ。メグルという少女は、もうここにはいない。リーシャは完全にボクのリーシャだ。貴女の言葉は、もう届きません。諦めてください」

「ふーん。じゃあどうして、メグルは私がメグルと呼んで、それに答えてくれたの?メグルはもういないんでしょう?おかしくない?」

「……それは貴方が、リーシャをみてメグルと呼ぶからでしょう。状況的にそう呼ばれ、答えただけです。希望的な観測はよしてもらえますか?」

「ふふ」

「……何を笑っている?リーシャ」


 突然柔らかく笑ったメグルに、男が目を向けた。


「分かりません。でも、おかしくて」


 やっぱり、メグルにかけられた魔法は完全ではない。私の事をちゃんと覚えているから、だから笑ってくれたんだ。

 それだけ分かれば、もういい。後はこの男をぶっとばして、メグルを取り返すだけである。


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