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想定外な事


 偽メグルの件は、エリシュさんにも伝えた。エリシュさんがくれた情報の人物だから、報告しておけばまたメグルを探してくれるはずである。

 そこで1つ疑問に思ったけど、メグルがいないと分かった今、学校に通う必要ってあるのだろうか。メグルがいないなら、他の場所へメグルを探しに行く必要がある。学校という場所に囚われていたら、その行動の妨げになってしまうじゃないか。


「──ちなみに君にはこれからも、ゴールデウス魔術学園に通ってもらう。いい機会だから、教養を身に着けておくんだ。人探しはこちらでなんとかする。だからくれぐれも、変な気はおこさないように。いいね?」


 そんな私の疑問は、口に出す前にエリシュさんに杭を打たれて引っ込んだ。

 この人はたまに、平気で私の内心を見透かしてくる。それだけ鋭いって事なんだろうけど、見透かされるこちら側としてはあまりいい気分ではない。

 ちなみに現在の場所は、エリシュさんの屋敷の中の一室で、エリシュさんの書斎である。そこでイスに座るエリシュさんと、机を挟んで立っている私が対話している。


「それはまぁ……分かった。約束、だもんね。この家に置いてもらう代わりに、勉強をするって」

「その通りだ。君も少しは、大人になってきたじゃないか。偉いぞ」


 そう褒められるのが子供扱いで、私の癪に障る。だけどここでいちいち突っかかる程、私も暇ではない。それにある程度は放置しておかないと、エリシュさんは煽るようにして続けてくるからね。だから私は、気に入らないけどスルーする。だって私、大人だし。


「それからその……今の話に出た、ルラという少女」

「偽物?」

「そうだ。それとはもう、関わるな」

「どうして?」

「実は、君に話すのを忘れていたのだが、私が君にもたらした情報の人物が、君の探し人でない事を結構前から知っていた。そしてそれの正体も知っている。彼女には関わるべきではない。なるべく遠ざけ、これからはいざこざも避けるんだ」

「……はあぁ」


 いつも、大事な事をこちらか聞くまで口に出してくれないのが、この家の人たちだ。ルナさんもそうだけど、エリシュさんも隠しすぎ。私は呆れて、つい大きなため息を吐いてしまった。


「随分と大きなため息だ。何をそんなに呆れている?」

「お願いだから、そういう情報は忘れない内に報告してくれないかな?そうしてくれれば、そもそも彼女と私は関わる事もなかった訳で、エリシュさんの言う通り遠ざける事が出来てたと思うんだよ」

「確かにそうだが。しかし私も、まさか君が彼女に喧嘩を売るとは思っていなくてね。想定外だった言わざるを得ない状況なんだ」

「エリシュさんにも、想定外な事があるんだね」


 私は嫌味っぽく言い放つと、エリシュさんは柔らかく笑いかけて来る。


「子育ては、想定外な事ばかりだよ」


 この時ふと思ったけど、最近エリシュさんが口に咥えている煙管から、煙が出ていない。煙管はよく口に咥えているんだけど、煙の魔女の異名を持つ彼女のトレードマークである、煙がないのだ。

 理由を考えて至ったのは、シグレだ。シグレは少し、煙草の煙が苦手そうな仕草を見せていた。もしかしたらそれを見て、私達の前で吸うのを止めたのかもしれない。別に私は平気なんだけど、彼女なりのポリシーでそう決めたのだろう。


「それで、ルラさんの正体って何なの?」

「その名は偽名だ。彼女の本当の名は、ディシア・ゴーン・ウォルフメルツ。ここで問題だが、とある国の君主が、ウォルフメルツの名を持っている。その国の名は?」

「え。んとー……」


 不意を突かれたエリシュさんの出題に、私は一瞬頭の中が真っ白になる。だけど、冷静に考えなおしてすぐに思い出せた。この世界の社会問題は、ルナさんに嫌という程叩き込まれたからね。簡単な問題だ。


「……ギュストラム帝国」

「正解。通称奴隷国家ギュストラム。世界中から奴隷をかき集め、奴隷を人と思わない連中の集まり。道を歩けば鎖で拘束され、まるで家畜のように扱われる人間の姿を見る事ができる。そんな国だ。皇帝の名は、バッシュム・デル・ウォルフメルツ。君が喧嘩を売ったルラという少女は、その彼の娘だよ」

「えぇー……」


 ギュストラム帝国って、確か凄い大国だ。軍事的にも、経済的にも、この世界で最強と言われている。それもこれも、国が国民を奴隷という恐怖で縛りつけ、好き放題にやっているからである。

 奴隷の取引なんてこの世界では割と当たり前だけど、あの国は異常だ。話に聞いただけで見た事はないけど、皇帝に歯向かった者や、ちょっとした犯罪を犯した者までもが奴隷に落とされ、死ぬまで嬲られる。奴隷になった人間の人生は、筆舌に尽くしがたい。

 その国の、皇帝の娘?彼女が?そんなのに私は喧嘩を売ってしまったという訳だ。そう考えると、彼女の傲慢な態度と、要求された謝罪を受け入れる条件にも、納得がいく。彼女の置かれた環境が、そういう要求をさせた訳だ。

 幸いにも、学園内では外の権力は及ばない。だけど果たして、帝国という超巨大国家にまでそのルールは通用するのだろうか。


「事の重大さが分かったようだね。彼女が本気になったら、本当に君を奴隷に落とすために画策してくるかもしれない。そうならないためにも、今後は関わるな。シグレにも注意を払うんだ」

「わ、分かった……」


 コレは、私だけの問題ではない。下手をしたら、妹であるシグレまで巻き込むことになる。クラスの、貴族の男の子とは格が違う。だからエリシュさんは、わざわざ私にそう警告したのだ。

 その事を重々承知して、この先は慎重に行動しよう。


 そう心に誓った、次の日の出来事である。


 朝。私はシグレと共に登校してきて、席に座って始業の鐘がなるのを待っている。次々に登校してきて、賑わい始めるクラス。そんな中で友達も登校してきて、私は彼女達に笑顔を向けた。


「おはよう、ラミーヤ。ラピス」

「……」


 あれ?登校してきた2人が、挨拶をした私を無視して自分の席に座った。

 席は近いので、そんな2人を目で追ってじっとみつめる。ラミーヤは、全く反応を示してくれない。おとなしく前を向き、完全にこちらを意に介していないと言う様子だ。

 しかしラピスの方はチラチラとこちらに目を向けていて、無視をしきれていない。目が合うと申し訳なさそうに目を伏せて、そわそわとし、落ち着かない様子だ。

 ラミーヤとラピスだけではない。よく見れば他のクラスメイト達も、なんだか私との距離が遠い気がする。

 この、腫れものに近づかないようとする周囲の反応が、懐かしく感じる。前世で無視なんてされたらブチ切れてる所だけど、この世界ではそういう訳にはいかない。こんな時、どういう反応をとるのが正しいのだろうか。


「お姉さま。皆さんの様子が、少しおかしいです」


 その様子を察知したシグレが、隣の席から立ち上がって私に耳打ちをしてきた。

 シグレも私と同じで、周囲から無視されているからね。おどおどとしながらも、朝の挨拶をしたうちの可愛い妹を無視するとは、良い度胸である。


「うん。分かってる」


 だけどそんな反応をされる理由が分からない。特に、ラミーヤとラピスとは友達と言える関係になれたと思っていたのに、まさかその次の日に無視されるだなんて思いもしなかったよ。ちょっとショックだ。

 そしてその原因が分からないまま、その日の授業が始まった。授業が始まった後も、私は周囲から除け者にされ続け、クラス全体の空気はとても重い。先生は普通に接してくれるんだけどね。とにかく、何故私が無視されているのか、その謎を解く必要がある。


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