密会
昼休みになると、私はシグレと共にとある人物の後をつける事にした。私達が無視されている原因を探るためである。
対象の人物だけど、ラミーヤはなんとなくそういう所は徹底していそうだから却下。ラピスは粗がありそうだけど、ラミーヤと行動を共にしているので却下。サリエル君は男だからダメ。
そういった事情を鑑みて対象に選んだのは、委員長だ。
黒髪三つ編みの、地味で真面目そうな生徒である。委員長というのは私がつけたあだ名で、最初は別に委員長ではなかった。だけど結局、このクラスの委員長に選ばれたからあだ名という訳でもなくなったんだけどね。
彼女もまた私を無視しているけど、ちゃんと話せばきっと話してくれると言う、謎の信頼感がある。だから私は彼女を選んだのだ。
「どこに行くんでしょうか」
「お弁当を持ってるから……どこか、景色の良い所で食べるつもりなんじゃない?」
彼女の手には、きんちゃく袋が吊り下げられている。どこかで食べるつもりなのは間違いないけど、誰か他の人と食べるつもりでもなさそう。
一定の距離を保ったままついていくと、彼女はトイレに入って行った。食べる前に、用をたそうというわけだ。でもなぜわざわざこんなに人気のないトイレを選んだのだろう。不思議に思ったけど、外で彼女が出てくるのを待つ事にした。でも中々出てこない。いくらなんでも、長すぎる。
「シャフアさん、どうしたんでしょうか」
「……まさか」
噂に聞いた事がある。ぼっちをこじらせすぎたぼっちは、トイレの個室で誰にも見られず、一人寂しくお弁当を食べると。
ちなみにシグレが呟いたシャフアさんとは、委員長の事だ。シャフア・グレン。それが彼女の名前だ。
「行くよ、シグレ」
「な、中にですか?しかし、用をたしている所にお邪魔するのは、良くないんじゃ……」
「いいから、ついてきて」
用をたしている所に襲撃するのを嫌うシグレだけど、彼女はたぶん用をたしている訳ではない。だから私はシグレを連れて、トイレの中へと突入した。
トイレの個室は、4つ。扉が閉まっているのは、1番奥の個室だ。そこに委員長がいる。
「あ、あの、お姉さま。えと……ちょっと、まっ」
私はその様子を見るや否や、その閉じられた扉の前へずかずかと歩み寄る。そしてドアノブに手をかけて、扉を開け放とうとした。でもしっかりと鍵がかかってくる。
特にこそこそしている訳ではないので、中にいるはずの委員長も私達の気配には気づいていたはずである。でもまさか、いきなりドアノブをガチャガチャと回そうとしてくるとは、思わなかったのだろう。
「ひっ……!?」
驚いて、中から可愛らしい悲鳴が聞こえて来たよ。
「委員長、聞きたい事があるの。鍵を開けて」
「その呼び方……シェスティア・タラクティアさん……!?ひ、人がトイレに入ってる時に、ちょっとデリカシーに欠けすぎじゃない!?」
「いいから、開けて。開けてくれないなら、扉を魔法で吹き飛ばすから。三秒だけ待つよ。いーち──」
「待って、分かったから!」
慌てた声が扉の向こうから聞こえて来て、直後に扉の鍵が解かれた。その瞬間に、私は扉を開け放つ。遠慮の欠片もない。
そして扉を開いたそこには、便器に座る委員長の姿があった。その膝の上にはお弁当箱が置かれていて、彼女はここで用をたしていた訳ではなく、ご飯を食べていたのだと言う事が分かる。
「……一体、何の用」
委員長が眉間にシワを寄せ、めっちゃ睨みつけて来た。
その気持ちはよく理解できるけど、私を無視する皆が悪いんだよ。
「どうして、皆が私を無視するの?」
「逆に、どうして私に聞いてくるのかが疑問なんですけど。しかも、こんな人気のないトイレにまで追いかけて来て……あまり良い趣味とは言えないわね。だから無視されるんじゃないの?」
「はぐらかさないで。別に私と貴女は敵同士という訳でもない。周りには誰もいないんだし、それくらい教えてくれてもいいでしょう?教えてくれないと……委員長がこんな所で、一人でお弁当食べてるって、皆に言っちゃおうかなぁ」
「くっ……。いいわよ。別に隠すほどの事でもないし、教えてあげる。実は昨夜、家に手紙が届いたのよ。内容は、この学校に偽名を使った帝国のお姫様が通学していて、そのお姫様と貴女が不仲で、お姫様は貴女を奴隷にするために動いている、て感じだったわ。そんな貴女と、周りが付き合いたいと思う?」
「なるほどねぇ……」
どうやらコレは、偽メグルの仕業のようだ。私に直接来る前に、精神的に攻める手に出たという訳だ。私をこの学校から追い出して、外で何かしようとしてるのかな。なんてやらしい攻撃だ。
というかあの偽メグル、確か偽名でこの学校に所属してるんだよね。そんな情報を流して、自身に不利に働いたりはしないのだろうか。いやまぁ、あの態度とか見てると隠すつもりなんてこれっぽちもなさそうだけど。
それにしても、その手紙の情報が確かな物なのかどうかにも関わらず、帝国と聞いただけで皆こんな風になっちゃうんだね。この世界において、帝国という存在がいかに大きく、恐れられているかがよく分かる。
「……確かめる前に無視しおいて今聞くのもなんだけど、本当なの?」
「本当だよ。昨日色々あって、喧嘩を売る形になっちゃったんだよねぇ。勿論相手が帝国のお姫様だなんて知らなかったし、でも偉そうな態度だったから、少しムキになっちゃったかも。ただ人探ししてただけなのに、どうしてこうなっちゃうのかなぁ……」
「お気を確かに。私はいつでもどこでも、お姉さまのお味方ですからね」
「ありがとう、シグレ。頼もしくて可愛い妹がいて、私は幸せだよ」
シグレが可愛いので、私はシグレの頭を撫でた。シグレは嬉しそうに私に頭を差し出してくれて、私も嬉しくなる。
「貴女達の姉妹愛は分かったけど、でも帝国を敵にするなんてバカげた事はやめるべきよ。全てのプライドを投げうってでも謝罪して、許しを請いなさい。帝国に狙われるという事は、家族も危険に晒すと言う意味にもなるのよ。妹のためを思うなら、悪い事は言わないから今すぐ行動をおこしなさい」
「まぁ、そうだよねぇ……」
エリシュさんには、もう二度と関わらないようにするように言われている。だけど向こうは昨日の事を根に持っていて、私の外堀を埋めにかかって来たのだ。こうなると、関わらないようにするのは困難である。
そんなつまらない事、やめさせる必要があるからね。私1人が狙われるならまだしも、周りを巻き込んで仕掛けられるのは我慢できないよ。特に、せっかく仲良くなれたラミーヤとラピスに無視されるのはキツイ。
でも私のプライド如きで丸く収まるなら、それでよし。委員長がくれた助言通り、謝りにいくかぁ。
「はぁ……」
人間関係って、めんどくさい。特に、無駄に偉くて生意気で気に入らない物をすぐに目の敵にするような人間は。
「……でもどうして帝国のお姫様が、この学校にいるんだろう」
「どうしてって?」
「魔法に関する技術は、帝国の方が進んでるはずなのよ。それに遠く離れたこの国の学校に来なくても、自国に名門校がある。わざわざ王国の学校にまで留学をしにくる意味が分からない。それ以前に、帝国という大国の要人を、普通こんな所に送り出すかな。本当に帝国のお姫様がこの学校にいるの?」
「本当だとは思う。会えば、あの偉そうな態度で信じられると思うよ」
私の場合、それだけで核心を得られた訳じゃなく、エリシュさんからもたされた情報を信じてるだけなんだけどね。
でも昨日の今日で、もう彼女と私が不仲となった話を広められるという事は、やっぱり本物だ。相当な人数をこの学園の外で動かす事が出来るだけの権力を、彼女は持っている。仮に本物じゃなかったとしても、相当な権力者だよ。
「冗談言わないで。絶対に関わりたくない。話が終わったなら、出て行ってくれる?私も貴女と関わりたくないの。巻き込まれたくはないからね」
「ああ、うん。話してくれて、ありがとう。今度一緒にお昼食べようね。こんな所でじゃなくて、外で」
「私の話、聞いていた?貴女とつるんでるの見られたら、私もヤバイの。私を巻き込まないで」
委員長はそう言うと、私とシグレを狭い個室から追い出し、扉を閉めてしまった。
とりあえず、私が無視される理由は分かった。委員長がこんな所でお昼を食べているのも、分かった。
さて。それじゃあ頑張って、許しを請いに行きますか。




