けじめ
自分は合格したけど、シグレはまだだ。浮かれるのも程々にシグレの番を待ち、だけどシグレはあっさりと合格して帰って来た。そして本当に喜び合い、私たちのゴールデウス魔術学園への入学が決定したのだった。
全員の試験が終わると、次の場所へと移動になった。移動する人数……つまりは、合格できたのは最初に部屋に集められた人数の半分程だ。もう半分は、この学校に入学出来る程の魔法の才能がないという事で不合格になった事になる。
彼らは私達とは別の場所へと連れていかれ、恐らく帰る事になるんだと思う。その中には下を見続ける人や、泣き出してしまっている人もいる。残念だけど、コレが試験だから仕方ない。
でも入学のその日に合否関わる大切な試験をするのは、やっぱりどうかと思うよ。彼らの今後の進路とかにも響くだろうに。
と思ったけど、その辺は前の世界とは違う。この世界に入学の時期などといった概念はなく、それぞれの学校によって違うのだ。だから、ここで落ちた人は別の学校に入る準備をすればいい。また、学校に入る年齢も関係ない。実際一緒に試験を受けにやってきた人たちの年齢もバラバラで、私達より幼そうな子は見当たらなかったけど、上は15歳前後くらいの子がいたりする。上限があるのかは知らないけど、決まった年齢で決まった時期に学校に入ると言う決まりが、この世界にはないのだ。
「あー、そうだ。保護者の方は、ここまでという事でお願いします」
私たちを引き連れ、ふらふらとした足つきで先導していた先生が、突然そう言って立ち止まった。
不合格の人たちとは別々に歩き出し、少し経った所だ。場所は私たちが校舎の中へ入って来た時に使った、昇降口の前の廊下あたり。
「……では、私は外で待っています」
「いやいや、別に帰っていいよ。まだ時間かかりそうだし」
「そう言う訳にはいきません。放っておいて、お嬢様がまた家出をしたら私の責任になってしまいますから。というか探すのも面倒なので、待っています」
この人、絶対にあの時の事を根に持ってるよね。ことあるごとに、あの時の事をこうしてちくちくと言ってくるんだ。
もう家出なんてしないって。するにしても、その時はちゃんと言ってからするよ。だから安心してほしい。
「あ、ありがとうございます、ルナさん。私たちのためにお時間をとらせ、申し訳ないですがお願いします」
「いいんですよ、シグレお嬢様。……ところで、お二人とも少し寄って立っていただけますか?」
「……?」
「こう?」
私はルナさんに言われた通り、シグレに少し寄り添って立った。
そこに、ルナさんが膝を折って私達と背を合わせ、2人まとめて抱きしめられた。突然の事に、私もシグレも驚いて反応が一歩遅れる。でも、ルナさんの抱擁が強すぎてすぐに私は声上げた。
「いだっ、いだだ、いだ!いだい!」
「失礼。少し強くしすぎました。シェスティアお嬢様だけ」
絶対にわざとである。シグレは全く反応していないので、本当に私の方だけ強く抱きしめたのだ。
改めて力を緩められた状態で抱きしめられて、ルナさんはそのまま固まってしまった。
「……お二人とも、よく頑張りましたね。コレで私の授業は卒業ですが、これからはこの学校でたくさんの事を学び、成長してください]
突然、卑怯すぎる。不意打ちすぎて、ルナさんにこれまで教えてもらって来た授業風景が脳裏に浮かび、涙が溢れ出しそうになる。私とシグレがこの学校に合格できたのは、間違いなくルナさんのおかげだ。思えば彼女からは色々な事を教えてもらってきて、その上で身の回りの事もしてもらっているんだから、お世話になりっぱなしだ。たまに子供っぽい所もあるけど、彼女はやっぱり頼りになるお姉さんであり、同時にお母さん的な存在でもある。
「はい、ではここからは自分の力で頑張ってくださいね」
私が感動しながら、お涙頂戴の感動的な言葉を贈ろうかと考えていたんだけど、ルナさんはすぐに離れてしまった。
呆気ない。だけど、それがルナさんぽいなと思った。
「言われなくても、頑張るよ。今まで、お世話になりました。これからもよろしくお願いします」
「お、お願いします!」
別に家を出る訳じゃない。これからも家に帰ればルナさんはそこにいて、今までと変わらない。でもけじめとして、私は彼女に対してお礼を言った。シグレも私に合わせ、ルナさんに頭を下げてお礼を言う。
そんな私たちを前に、ルナさんは僅かに口角をあげて優しく微笑み、それを返事とした。彼女にしては珍しい笑顔を、この時は見せてくれたのだ。
そしてルナさんは唐突に私たちに背を向けると、歩き出して行ってしまった。他のグループの保護者も、子供と軽く挨拶を済ますと同じ方向に歩いて行く。
ルナさんたちが向かった先には、黄色の腕章をつけた案内人がいる。保護者達はスタッフについていき、私たちは先生について再び歩き出す。
廊下を歩き、階段をのぼり、そしてまた廊下を歩いて行く。
この、学校独特の静まり返った廊下、前世を思い出す。長い廊下に、教室の前後についたスライド式のドア。廊下との間には窓があったりと、作りも似ているので余計にかぶる。
「はい、到着。入って入って」
廊下に立ち並ぶ教室の中の一室の前で、先生は止まった。入り口の上に掲げられているプレートには、1-Aと書かれている。
先生に促されるままに教室の中に入ると、そこには机が等間隔に並べられており、前には黒板がある、普通のイメージ通りの教室の姿があった。教室の作りまで前世の世界と同じで、本当に違和感がない。ただ、こっちは少し広いかな。
私はシグレを引き連れて窓際前方の席へ陣取り、シグレは私の隣に座った。他の合格者たちも各々の席に座り終わり、改めて教室の中を見てみたけど空席が目立つ。
「あー……改めて、合格おめでとう。諸君はこれから、このゴールデウス魔術学園の生徒です」
教壇の前に置かれたイスに座り、先生がそんな祝福の言葉を投げかけてくれた。
「……」
「……」
そして、沈黙が流れた。皆先生の次の言葉を待ってるんだけど、先生は何も言ってくれない。
「……あの、先生。質問、よろしいでしょうか」
沈黙を打ち破ったのは、生徒の中の1人だ。私の後ろの席の子だね。眼鏡をかけ、黒髪のロングヘアを三つ編みに編んだ、いかにも委員長って感じの子。年は私達よりも少し上の、お姉さんかな。
「いいよー」
「では。私たちはこれから、どうすればよろしいのでしょうか」
「ここにいていい」
「何か、説明等はないのでしょうか。例えば、私たちは明日から通う事になる教室はどこなのか、とか」
「ここが君たちの教室であり、これから毎日ここに通ってもらう。教科書等は後ろのロッカーに入っているので各々それを教材として自由に使ってね。それから、制服の方も後で手配する。これからは制服で登校するようにー」
「……このまま私たちがこの教室を使う事になるということは、クラス分けはないのですか?」
「ない。このクラスが君たちの物であり、一年後に進級するまでクラスは変わらない」
わりと大切な事を質問されるまで説明してくれないとか、ちょっとどうなの。そして勇気を出して声を出し、質問してくれたこの委員長さんには拍手を送りたい。おかげで少し、状況が分かったからね。
私はてっきり、近親者とはクラスが別にされるとばかり思っていたけど、それはないらしい。シグレとは一緒に合格しただけではなく、クラスまで一緒というなんとも嬉しい展開だ。
「……ちなみに、担任の先生は?エフテニーリャ先生、がしてくれるのですか?」
そう尋ねる委員長だけど、ちょっと嫌そう感が隠せていない。
気持ちは分かるよ。この先生に、不安を感じない生徒はいないと思う。
「あー、そうだよ。私がこのクラスの担任です。校長との兼任だから、他の先生に任せる事もあるかもしれないからよろしくー」
「こっ、校長!?貴女が!?」
「……」
叫ぶ委員長と共に、クラス全員がこの時こう思った。
この学校、大丈夫かな。




