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ようこそ


 シグレと部屋の隅っこで男を避けながら会話をしながら、しばらく経った。何人目だろうか。トボトボと、試験会場である奥の部屋へと続く扉から人が出てきて、ガクリと項垂れた。

 扉から出て来た人の顔を見れば、その人の合否が分かってしまう。どちらか分からない人もいるけど、大抵の人は顔に出てしまっている。この人は、落ちたね。

 かわいそうだとは思うけど、試験だから仕方がない。


「次。シェスティア・タラクティ」


 開け放たれたままの扉の奥から声が聞こえてきて、私の名前が呼ばれた。

 ついに、私の番が来たのだ。

 いつかは来ると分かっていたけど、いざ本当に来ると心臓が跳ね上がる。緊張してきた。


「お姉さま。頑張ってください」

「いってらっしゃいませ、お嬢様。いつも通りにすれば、大丈夫ですよ」

「う、うん。行ってくる、ね」


 立ち上がった私に対し、2人がそう声を掛けてくれたおかげで、少しだけ緊張がほぐれた。私は声をかけてくれた2人に対し、お礼の意味もこめて胸の前で拳を作って気合を入れる仕草を見せてから、試験会場のある扉の奥の部屋へと向かう。

 やっぱりこの扉、どう考えても魔法がかけられてるね。近くで見ると細かな魔法の光が溢れ出しているのがよく見えて、全く隠せていないのが分かる。でも魔力の気配は……感じないから、普通なら気づく事がないように工夫がされているようだ。

 そんな扉に警戒していると、私気づいていますとアピールするようになってしまうので、なるべく自然に扉をくぐって中へと入る。


「し、失礼します」

「んー」


 緊張しながら中に入ると、先生はそこにいた。

 不思議な空間だ。白い壁と白い床に白い天井。全てが白く、私たちが集められているこの部屋の外よりも明るい。そして魔力の光で溢れかえっている。……のだけど、私が扉を閉じたその瞬間に、光が一斉に消え去った。キレイサッパリと。

 その現象に呆然とする私だけど、もう1つ呆然とする光景がある。それは先生が、床に寝そべって私を迎え入れたという光景だ。

 やる気がないのは、声だけにして欲しい。行動までそんなやる気のない所を見せられたら、こちらまで力がなくなってしまう。


「すまないねー。少し疲れてしまって、だらしのない格好だけど気にしないでほしい」

「は、はぁ。イス、持ってきましょうか?」

「いや、いいよ。この方が楽だからー」


 楽なのはけっこうだけど、体裁としてはどうなんだろう。これから試験を行うのに、見てくれる人がこれじゃあ色々と整わない。


「それじゃ早速、君の魔力を見せてくれ。実際魔法を使ってくれても構わない。ちなみにこの空間は外に魔力が漏れないように出来ているので、思う存分に力を発してくれて構わないよ」

「……分かりました。それじゃあ、魔力を解放します」


 いくつかの選択肢が与えられたけど、私はせっかく練習して出来るようになった事だし、魔力のコントロールを披露する事にした。

 集中し、魔力を解放。私を中心として大きな魔力の塊が出来上がり、だけど先生の言う通り、部屋の外に溢れ出る事はない。行き場を失った魔力の塊は、普段は円状に出来るんだけど、部屋の四角に合わせて少し窮屈そうな形に変化した。

 形が変化したとしても、問題はない。部屋中いっぱいに私の魔力の光が溢れかえり、私はこの部屋の中でならどこでも魔法を発動させる事ができる。


「……」


 でも、先生がリアクションをしてくれない。やる気の無さそうな目で私をみつめていて、何も喋らない。まるで、次に何かおこるのを期待しているかのようだ。

 もしかして私が見せたコレ、しょぼい?私の脳裏に、失格の二文字が思い浮かぶ。


「っ!」


 慌てた私は、魔力を強めた。自分の魂の底から溢れ出す魔力を更に呼び起こし、解放。でも元々部屋中にいっぱいだった私の魔力がそれ以上膨らむ事はなく、ただただ光が溢れてキレイなだけ。これじゃあダメだ。更に……更に、更に魔力を求め、解放し続ける。

 やがて、どこかで何かがきしむ音が聞こえて来た。そして部屋全体が揺れだし、何かが壊れようとしている。


「そこまでにしてくれ。この部屋が壊れてしまったら、試験に差支えが出てしまう。それに報告書も書かなくてはいけなくなるので、非常に面倒な事になる」


 先生がそう言うので、私は魔力の解放をやめた。


「……」

「……」


 そこまでにしてくれと言うのでやめたけど、先生は何も言ってくれない。互いに見つめ合い、嫌な沈黙の時間が流れる。

 結局私は、どうなの?合格なのか、失格なのか。それをハッキリして欲しい。じゃないと不安で不安でたまらなくなり、また魔力を解放してしまいそう。


「……あー……驚いた。君の魔力量は、素晴らしい。あの煙の魔女が、この学校への入学を推薦するだけの事はある」


 時間をたっぷりおき、人を散々不安にさせておいてから口を開くと、そう言って褒められた。


「つまり、どうなんですか?私はその……合格なんですか?」

「文句なしの合格だ。まだ未熟な部分も垣間見えるが、それはこの学校で学んで成長すればいいだけの事」

「……やたっ」


 私は大げさにならないよう、小さくガッツポーズを作って喜びを露にする。

 合格なら、最初からそう言ってくれればいいのに。もったいぶらされた分、喜びが大きくなってしまったよ。

 そんな私を見ていた先生が、徐に立ち上がってふらふらと私に歩み寄って来た。

 この先生、座ったり床に寝そべっている姿ばかりで気づかなかったけど、こうして相対してみるとけっこう背が大きい。高い位置から見下ろされて、そう感じた。


「さて、シェスティア・タラクティ。合否は決まったので、コレは個人的な質問となる。君は先ほど、サリエル君を庇って声をあげました。他の者は、彼がどうするのかを面白がって眺めている中、君の行動は異質だった。どうして、あの男を庇おうと思った?君は彼の、友達でもなんでもない。むしろ気持ちの悪い奴だと思っていたのに、何故?」

「な、何故?ううーん……」


 まさか、前世で私も彼と同じような態度を周囲にとっていて、そうなってしまった時の気持ちが分かるからですとは言えない。

 ここは何かそれっぽい事を言って、それで満足してもらっておこう。


「誰かを庇うのに、理由なんていりません、よ」

「いや、そう言うのはいい。私は君の本心を知りたい」

「……」


 自分では、カッコイイ事を言ったつもりだった。しかしあっさりと流されてしまい、挙句にそれが私の本心でない事を見破られてしまった。

 恥ずかしくなり、自分の顔が僅かに赤くなっているのが分かる。


「……私も昔、彼のようなクソガキだった時期がありまして。それでその時同じような状況に陥った時、友達じゃないと思っていた人に助けられた事があるんです。その時の事を思い出して、黙っていられなかったというだけです。これでいいですか?」


 私は前世の自分と、メグルに助けられた時の事を重ねて先生に話した。全て、嘘ではない。これが私の本心であり、彼を助けた理由である。


「なるほど」


 先生はそれだけ言うと、再び床に寝そべった。

 本当にこの人、大丈夫なのかな。ちょっと心配になってしまう。


「シェスティア・タラクティ。君は合格です。ようこそ、ゴールデウス魔術学園へ」


 先生がそういうと、床に無造作に置かれていた掌サイズの長方形の物体が宙に浮かび上がった。よく見ればそれはハンコで、先生から放たれている魔力の光と繋がっており、操っているのが先生だと言う事が分かる。

 ハンコはそのまま寝そべっている先生の前に置かれた書類の上に着地。判を押して再び床に置かれた。

 判の押された書類に先生の魔力が伸びると、紙が浮かび上がって私の方に飛んできた。慌ててそれを受け取って内容を見てみると、私の名前が書かれた上で、合格の場所に判が押されている。この判も特別な仕掛けがあるようで、魔力を帯びて光り、キレイだ。


「その書類が、君の合格の証だ。全員の試験が終わるまで、なくさず持っているように。では、次の人を呼ぶから出て行ってくれ」

「……ありがとうございましたっ」


 私は合格の証を胸に抱きしめ、先生に向かって深々と頭を下げて部屋を出た。

 部屋を出ると、早速シグレが駆け寄ってきてくれて、心配そうに合否を聞いて来る。そんなシグレに、私は笑顔でこう答えた。


「合格したよ」


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