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新たな一歩


 私の掌から、魔力が溢れ出した。光輝く魔力は、ふわふわと空中を漂い、周囲を明るく照らす。

 手加減しているので、空に飛んでいって雨をやませたりはしない。そもそも今日は一面青空なので、やませる雨がないけどね。


「素晴らしい魔力だ。昨夜も思ったが、君の魔力は本当に凄い。しかし、これで本気という訳ではないだろう?」


 エリシュさんに煽られるけど、私は本気を出す事なく、魔力の放出を止めた。


「……どうしてやめる」


 私の魔力を見て、興奮気味に喜んでいたエリシュさんだけど、私が期待に添わずに魔力の放出を止めた事で、やや不機嫌そうになって私をつまらなそうに見て来た。


「……まだ魔力の制御が出来ない時、私が放った魔力が空に飛んで行って、雨をやませた。どうしてそうなったのか分からないけど、たぶん私が全力で魔力を放つと、騒ぎになる」

「ふむ」


 エリシュさんはまだ不満げだけど、私の説明を聞いてそう呟き、教本を閉じた。それから私に向かって歩み寄ってくると、私の目の前で立ち止まって私を見下ろして来る。

 何事かとエリシュさんを見上げていたら、徐にエリシュさんに頭を掴まれた。


「んなっ」

「もう一度、魔力を解放してみてくれ。全力でなくていい」

「……」


 まるで子供扱いだけど、エリシュさんにそのつもりはなさそうだ。仕方ないのでそのまま言われた通り、先ほどと同じように魔力を解放してみる。

 けど、私の魔力が外に溢れ出す事はなかった。代わりに、私の頭に触れているエリシュさんの手をつたい、エリシュさんに流れ込んでいく。

 それがなんだか、ちょっと気持ち悪い。私の魂を覗かれた上で、その魂を吸い上げられているような感覚だ。吐き気を催したりはしないけど、本当に気持ち悪くて魂を掻きむしりたくなるような衝動にかられる。

 エリシュさんはそんな私に気づいているのかいないのか、作業を続けた。私の魂は、エリシュさんによってその全貌を見抜かれようとしている。こうして私の魔力量を測るつもりなのだ。

 拒否しようと思えば、できる気がする。簡単だ。物理的に、私の頭の上に乗っているこの手を跳ね除ければそれでいい。そうしなくとも、私の魔力が彼女を拒否すればこの行為を止めさせることができるだろう。

 でも私は、なんとなくこの行為を受け入れて我慢する事にした。


『──覗かれるのは趣味じゃない』


 突然、どこからともなくそんな声が聞こえた気がした。

 その瞬間、エリシュさんが勢いよく私から手を離し、数歩後ずさるという行動に出た。


「今のは何だ……?」

「?」


 私に向かい、そう尋ねて来るエリシュさんに対し、私は首を傾げるしかない。

 今のが何の事か分からないけど、もしかしたら声の事を言ってるの?でもあの声は、聞こえたと言うより頭に響いたと言う方が正しいかもしれない。誰の声でもないし……いや、だけど聞いた事がある声だ。でもどこで聞いた事があるのか、肝心な事が思い出せない。


「自覚はなし、か。まぁいい。君の魔力についてだが、邪魔が入ってしまったので全てを見る事はできなかった。しかし、素晴らしい魔力量が眠っている。天候に作用したというそれは、実際に目にしてみなければ分からないが、この魔力を全力で解放して騒ぎになるという意見は私も賛成だ。見てみたいが、やめておこう」

「いいの?」

「今は、いい。それで君の魔力を見て分かった事だが、君の魔力がどの属性に属するのかが分からない」

「属性って?」

「魔法は八つの属性に分かれる。炎、氷、風、土、雷、水、闇、光。人の魔力はこの中のいずれか一つに属し、その属性の魔法しか使えない。大抵は魔力を直接感じ取れば、その者がどの程度魔力を有していて、どの属性の魔法を使う事ができるのかなどがすぐに分かる。だけど、君は分からない。魔力量も、属性もだ。こんな事は初めてだよ」


 そんな事を言われても、そんな事を言われたのも初めてだ。今までは誰も私に魔法を教えようとはしてくれなかったからね。

 属性についても今初めて聞いて知った事で、私は自分がメグルの前で、普通ではない事を披露してしまっていた事に気が付かされたところである。


「ちなみに、闇へ引き込む悪魔の手<メギドメルド>は、どの属性の魔法なの……?」

「闇だ」


 そんな気がしてたけど、そうだった。つまり私の魔力は、普通なら闇属性以外の魔法が使えない事になってしまっている訳だ。

 闇系の魔法って、なんか嫌だな。陰気臭いと言うか、ちょっと不気味なイメージだよね。私はママが使っていた魔法みたいに、キレイな光の魔法を使いたいんだよ。せっかく魔法を習える事になったのに、不気味な黒い手を生み出すみたいな魔法ばかりを習う事になってしまうのは、嫌だ。


「しかし闇属性の魔法が使える魔力だけは、特別だ。それだけ何故か、他の属性の魔法を使用する事ができる。だから君も恐らくは、闇以外の魔法を使えるのではないか?」

「そ、そうなの!?」


 私は付け加えられたその言葉を聞いて、安心した。そう言う事は、最初に言って欲しい。


「それで、どうだ。君は、他の属性の魔法も使えるのか?」

「ああ、うん。使えるよ」


 私は証拠を示すようにして、魔力を解放。軽く指先で炎を起こしたり、掌の上で風をおこしたりしてみせた。コレは簡単な魔法なので、メラヴィス語を口に出す必要はない。これくらいなら、自分の魔力だけで完結できるのだ。

 ママとパパには内緒で、親友と密かに練習したおかげでこれくらいは自由に使う事ができる。もっとも、私の魔法の一件以来、家から魔法関連の本が処分されてしまったので、メラヴィス語を用いての魔法を練習する事は叶わなかったんだけど。


「……」


 そんな私の事を、エリシュさんが信じられない物を見るような目で見ていた。

 え、なにこの反応。まるで、本当にできちゃったよコイツ。みたいなリアクションだ。


「闇属性の魔法を使える者だけ、他の属性の魔法が使えると言う話。あれはウソだ」

「んなっ」


 ハメられた。そう気づいた時は、もう遅い。言葉だけならまだいいよ。ごまかしようが、まだある。でも私はエリシュさんの前で証拠まで示してしまい、もう言い逃れのしようがない。


「人間の魔力は、魂によって定められた一種類の魔力しか扱えない。複数の属性の魔法を使うには、魔法具の手助けがなければ不可能。しかし君は魔法具を用いずに、複数の属性の魔法を使ってしまった」

「さすがです、お姉さま。お姉さまは人知を超えた力をお持ちなのですね!」

「その通り。それは、人知を超えた力だ。だからこそ、困る」


 私に尊敬の眼差しを向けて来るシグレと、頭を抱えるエリシュさんは対照的だ。


「君のその力の事は、誰が知っている?」

「……知ってるのは、ここにいる人と、私の親友だけだよ。目の事も、ね」


 目の事は知っていたけど、パパとママすらも、私の魔法の事は知らない。2人に隠れて魔法の練習をしてたからね。


「ではこれからは、こうしろ。君の魔法適正は、氷。それ以外の属性の魔法は、使う事ができない。もしこの事を口外した場合、私は君を庇う事ができなくなる。絶対に守るんだ」

「秘密にする事、ばっかりだね……」

「人はだれしも、秘密を持って生きている。特に、美しい女はたくさん、ね。だから気にする事はなにもない」


 ──美しい女は、たくさんの秘密を持って生きている。

 確かにそうだ。私は美しい。だったら、秘密が多くても仕方がない。納得した。


「君に関しては、まぁそんな所だ。絶対に秘密は守る事。いいね?」

「約束する」

「では次は、シグレだ。待たせて悪かったね」

「は、はい。よろしくお願いします」


 そこからは、シグレの番となった。シグレは魔力の解放の仕方が分からないという事で、まずはそこからとなったんだけど、結局魔力を解放する事は出来なかった。

 私にしたのと同じように、シグレの頭の上に手を乗せたエリシュさん曰く、本当に魔力はあるらしい。あとはコツを掴むだけで、それは慌てなくてもいいという事で結論づいた。

 シグレの魔力解放にそこそこ時間をとりつつ、今日は魔法に関しての座学が主となり、思い返せば外でやる意味あったのかと思う。それでも魔法の授業は楽しくて、あっという間だったよ。

 こうして私は、魔法使いとしての新たな一歩を踏み出した。


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