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子供扱い


 私は、エリシュさんとルナさんの前で、魔力が光として見る事ができる事を話した。私がこの事を話すのは、ママ以外で初めてだ。パパにはママから伝わっているかもしれないけど、直接話した事はないのでノーカンだ。

 他の誰にも話さないと言う、ママとの約束を破る事になるかもしれない。だけどこの人に隠し通すのは無理そうなので、勘弁してほしい。


「──なるほど。魔力を見る事が出来る、か。それであの子──シグレにかかっていた呪術にも気づけたという訳だ。あの呪術で魔力を察知するのはほぼ不可能だからね。目で見る事ができたという事なら、納得できる。それから、私が展開していた魔力を、ピンポイントで私に気づかれずに打ち消していたあの技術も、君のその目の力で成せた業という訳だ。納得だ」


 エリシュさんは私が打ち明けた秘密に、とても満足げだ。


「魔力を、目に映す……。そんな事が本当にできるのでしょうか」

「確かに信じがたいが、この子はもう私に証明している。疑う余地はないよ。そしてサラが、何故あの村に君を残さず、私に預けたかったのかも分かった。おかげでスッキリしたよ。話してくれて、ありがとう」

「ひ、一人で納得しないで。ママが私をエリシュさんに預けた理由って、何?」

「あの村に君を残していたら、君は確実に、あの村の戦士として育てられる事となっていただろう。君のその特性を活かさない理由は、あの村の連中にはない。サラは、それが嫌だったんだ」

「……私が生まれたあの村は、一体なんなの?」


 私の当然ともいえる質問に、エリシュさんは煙管を口に咥えて間を置いた。

 煙管に火はついていない。ただ考え事をしているような仕草で、どうやら私に話してもいいものなのかどうかを思案しているようだ。


「近いうちに、話そう。今はその時ではない」

「……近いうちって、いつ?大人はいっつも、大きくなったらとか、もうちょっとしたらとかいって、誤魔化す。確かに知るのは怖いよ。真実は私が望んだ物とは限らない。知って後悔する事もたくさんある。でも、子供扱いはもうやめて。私はパパとママの事を、もっと知りたい」


 またもや村の秘密を打ち明けようとしない大人に対し、少し感情的になってしまった。

 今とあの時とでは事情が違うので、怖がってなんていられない。あまり良い事が聞けなそうだけど、それも覚悟の上だ。

 それにね、私は自分の秘密を打ち明けた訳だし、そのお返しという訳じゃないけど、話す義務みたいな物がエリシュさんにはあると思うんだ。狙って話した訳ではないので声には出さないけど、目でそう訴えかける。


「……」


 静寂が訪れた。

 ややあってから、静寂を打ち破ったのはこの部屋にいる3人の誰かではない。部屋の扉がノックされ、それが静寂を打ち破ったのだ。

 せっかく大切な話をしているというのに、このタイミングの悪い人は一体誰なんだ。私は思わずノックされた部屋の扉を睨みつけてしまう。


「入れ」

「失礼します」


 エリシュさんが答えると、入って来たのはシグレだった。シグレなんだけど、その格好はルナさん達このお屋敷のメイドさんと同じ服装になっていて、とても可愛らしい。


「し、シグレ?どうしたの、そのかっこう」

「昨晩の罰として、メイドとして働いているんです。と言っても、お洗濯や掃除などの雑用ばかりですが……でも個人的には、落ち着きます」


 何故か嬉しそうに言うシグレだけど、シグレにも罰が与えられていたのは知らなかった。シグレは私が巻き込んでしまっただけなのに、とても申し訳のない気持ちになる。


「ごめんね、シグレ。私のせいで……」

「お、お姉さまのせいではありません!私がしたかった事でこうなっただけなので、気にしないでください!それに私、やっぱり雑務が好きで、働いていた方が落ち着くので何の問題もありません!だから、お姉さまが気にやむ事なんて、これっぽちもないんですっ」

「あ、う、うん。ありがとう」


 一生懸命な様子で、勢いよく言って来たシグレに私は圧倒され、ついお礼を言ってしまった。


「シグレには、この家を抜け出した事ではなく、この家から金を盗み出した事について、罰を与えている。だからシェスティアとは関係がないといえば関係ない。金を盗んだのは、シグレの意思だ。よって、シグレにのみ、この罰は与えられている」

「……大丈夫、シグレ?ご主人様から、変な事されてない?もしされてるなら、正直に言ってね。しかるべきところに訴えて、貴女を保護するから」

「い、いえ。されていません。ずっと、お仕事していましたから……」

「それなら、よかった」

「人聞きの悪い事は言わないでくれ。さすがに私だって、君たちのような幼い子供に手は出さない……つもりだ」

「そうだよね。さすがに──ちょっと待って。最後に何か付け加えなかった?」


 というか、実際昨日手を出されかけてたんですけど。それは未遂で終わったけど、あれはけっこう本気だった気がする。


「さて!昨晩色々とあった訳だが、その事に関する罰はもう終わりだ。今からこれからについて、話しておきたいと思う」


 エリシュさんは強制的に話を変え、付け加えた言葉について触れる事はなかった。


「君たちには子供らしく、勉強をしてもらう。朝から夕方まで、座学に運動。それから、魔法についても学んでもらう事になるだろう」

「魔法!教えてくれるの!?」

「わ、私も、ですか?」


 パパとママは、大人になるまで教えてくれないと言っていた事を、この人は教えてくれると言う。私はそこに食いついた。

 シグレは自分も同じように教わる事になるのが、信じられないようだ。


「当然、二人ともだ。君たちには魔法の才能があると思う。だから魔法に関しては、私が教える。そしてある程度のレベルに達したら、魔術学校に入学してもらう」

「それが、私たちに課せられた仕事っていう訳だね」

「そう言う事だ。良いね?」

「……私は、不満ない。むしろ魔法を自由に使えるようになりたいから、願ってもないよ」


 あんな、気持ち悪い黒い手を生み出す魔法とか、天気を晴れにするだけの魔法とかはもういい。私はもっと、ママみたいにキレイな魔法を使ってみたいんだ。

 魔法を習えると聞いて、わくわくしてきちゃったよ。一体どんな事を教えてくれるのかな。


「わ、私は不満です!」


 内心喜ぶ私とは違い、シグレはそう言い放って教育を拒否した。


「理由は?」

「だって、私のような者が教育を受ける権利なんて、ありません!ましてや魔法なんて使った事がありませんし、私には魔法の才能があるとは思えません!きっとエリシュ様の期待に沿う事ができず、落胆させる事になるだけです!」

「教育を受ける権利など、そんなくだらない事を考える必要はない。魔法に関しては、この私が保証する。君にはちゃんと、魔力が宿っているよ。どれくらいの才能が眠っているかは現状で判断がつかないが、そこは君の才能に合わせた教育をしていくので問題ない。だから落胆する事もないので安心するといい。以上だが、問題なさそうだな」


 エリシュさんは早口気味に、シグレの教育を拒否する理由を論破し、話を打ち切った。

 私としては、コレについてはエリシュさんの味方だ。教育を受ける権利なんてそんなの誰にでもあると思うし、他人の期待に沿うとかも考えなくていい。ある程度自分に合ったレベルで頑張り、残りは自分の好きなようにすればいいのだ。

 コレが、前世で親の期待に応えるため、勉強漬けで大切な物を見落としていた私なりの答えでもある。


「で、ですが──」

「シグレ!一緒に頑張ろう!」


 私は教育を受ける事を渋るシグレの手を取り、そう訴えかけた。

 1人ではなく、2人なら色々と心強い。それに、私はシグレと一緒に学びたい。

 私に付いて、家を抜け出すなどというバカげた事を、一緒にしてくれようとしたこの子と一緒に。私の事を、お姉さまと呼んでくれるこの子と一緒に。そしたら、楽しくなる気がする。


「は、はい!私、お姉さまと一緒に頑張ります!」


 私が言うと、シグレは素直にそう言ってくれた。


「決まりだな。では君たち二人には早速今日から勉学を開始してもらう。忙しくなるので、覚悟しておけ。それから──」


 エリシュさんはそこで一旦言葉を区切ると、私の方へと近づいてきて、私の頭の上に手をのせてきた。撫でる訳ではない。ただ乗せただけだ。


「君を子供扱いしている訳ではない。本当に近いうちに、しっかりと話す。だからもう、家を抜け出そうなどと考えるな」


 それだけ言って、エリシュさんは部屋を出て行ってしまった。

 うん。まぁ、子供扱いしている訳ではないと言ってくれた事は、嬉しい。だけど頭の上に手を乗せると言う行為がもう子供扱いな訳で、凄く複雑な気分に陥ったよ。


「こほん。ではエリシュ様が仰ったとおり、貴女方お二人にはこれより、勉学を習っていただきます。スパルタでいくので、お覚悟を」


 部屋に残ったルナさんが、どこからともなく取り出した眼鏡を装着しながら、私達2人を睨みつけて来る。

 眼鏡って、つけるだけでだいぶ印象が変わるよね。眼鏡をかけたルナさんは、本当にスパルタ教師みたいでちょっと怖くなってきた。


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