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──初めての魔法


 その日私は、自室に籠もって魔法の本を読んでいた。

 外は昼間だと言うのに薄暗く、激しく雨が降り注いで騒音をたてている。こういう日は家に籠もっておとなしく読書をするに限るよね。

 今読んでいる本に書かれているのは、失われた古代魔法に関しての記述で、失われたと書かれている通り、現代においてその魔法を使える人間はいないらしい。なんでも、魔法を発動させる言葉が分からないとかで、一応は文字として存在はするものの、読むことが出来ないので発動させる手立てがないのだとか。

 でも読者の私に必要なのは、古代魔法とか言う物に関してではない。この本には、少しだけ魔法の使い方について記載されており、それが重要なのだ。

 所々で私がまだ習っていない、知らない文字が出て来るのでそこは飛ばし飛ばしとなりながらも読み進めながら、私は魔法に関しての情報を収集していた。でもこの家に置いてある魔法関連の本は、たぶん全てが上級者向けで、初心者に全然優しくない。言葉遣いもそうだけど、出て来る単語も知らない物ばかりで、半分くらい理解する事ができないから困ったもんだ。

 それでも私は頑張った。苦戦しながらも読んで魔法に関する情報を集め、どうやったら魔法が使えるのかを独自に研究し続けた結果が、今日試されようとしている。


「えと……魔法は、古代メラヴィス語によって表記。一定以上の魔力量が必要な魔法は、言葉による自然界におけるエネルギー。魔気の収束も必要となる。だからー……つまり強力な魔法を使うには、メラヴィス語を唱えなければいけないって事だよね。まぁ今日はそんなに強い魔法を使うつもりはないから、いいとして……」


 問題は、魔法をどうやって発動させるか。

 魔法は、人の魂と結びつけられた魔力という物を使う。コレを呼び起こして身体の外に放出する事で魔法が使用可能となる。のだけど、そのやり方が分からない。やり方が分からないので、試しに魔法を発動させようとしても何も起こらず、恥ずかしくなるだけだった。まるで、前世で中二病と呼ばれる病気にり患したかのような気分に陥ったよ。

 勿論、パパとママには魔法の使い方について聞いてみた。資料がないので、頼るべきは先人の知恵だからね。だけどパパとママは、シティにはまだ早いと言って魔法の使い方については一切教えてくれないのだ。

 まぁ本を読む限り、人の命を簡単に奪えそうな程危険な魔法がいっぱいある。そんな魔法を子供に覚えさせるのはどうかと思うから、2人の気持ちは分かる。でも私は使いたい。だって、魔法だよ。せっかく魔法のある世界に来たというのに、魔法を使わずにはいられない。私はその想いを抑える事ができなかった。

 上級者向けの本に記載されている、細々とした初心者向けの情報を収集しながら、そして今日この日、この本に魔力の解放のやり方が書いてあることを発見したのだ。


「魔力の解放に関して──まずは深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。すー……はー……。そして目を閉じ、自らの魂の奥底にあるエネルギーを感じ取り、それを引き出して解放させる事により、魔力を解放できる、か。なるほど。全く分からない」


 私は適当な説明を表記している本を、怒りの気持ちをを籠めて強く閉じた。

 なんなのこの、これくらいは説明するまでもなく感覚でできるでしょみたいな説明は。バカにしてる?バカにしてるよね。


「はぁ……」


 私はため息を吐きながら、目を閉じた。

 そして一応は、説明に書いてあった通りに自分の魂とやらを感じ取ってみる。


 ──それは、すぐに見つける事ができた。


 暗闇の中。輝く命の灯の中の奥底に眠る、太陽のように大きなエネルギー。熱く、強い。強すぎて、もしコレを解放したら、世界が灼熱に飲み込まれてしまうのではないだろうかという、そんな不安にかられる。

 一瞬迷ったものの、好奇心には勝てない。私は不安を振り払い、そのエネルギーを欲した。


「はっ!?」


 目を開くと、私の身体から魔力があふれ出ていた。輝く白い光が溢れ出し、行き場のない魔力は部屋中を明るく染めて、窓から外へと飛んでいく。

 コレが、魔法?私はその美しい光景に目を奪われ、溢れ出る魔力をもっと欲する。するとどんどん光は強くなっていき、風まで巻き起こり始めて私の部屋を荒らし始めた。


「シティ!」


 さすがにこれ以上はマズイ。そう思い始めた時、部屋の扉を勢いよく開いてママがやってきた。コレだけ輝き、しかも巻き起こった風によって大きな音が響いているから、1階にいるママが気づかないはずがない。


「コレは……!」


 風の中心にいる私を見たママは目を見張った。ママも、この光景を見てキレイだと思っているのかな。


「シティ!魔力の解放を止めて!」

「っ!」


 ママの怒鳴り声が響き、驚いた私は自分の魔力に対する集中を切らした。

 その瞬間に、私から溢れ出ていた魔力は途切れ、魔力は瞬く間に霧散。風も収まり、静まり返った。


「……」

「……」


 静まり返った部屋の中で、私とママは黙って見つめ合う。

 ママは何も言わないまま、風によって滅茶苦茶になった部屋の中や、私が読んでいた本に目を向けると、やがて私に歩み寄って来て私を抱き締めた。


「魔法を、使おうとしたのね?」

「……うん」

「……」


 私の返答を聞くと、ママは一旦抱きしめるのをやめ、私の額を小突いて来た。痛くはない。でも、ママが私に対してこんな事をしてくるのは、初めての事だ。


「魔法は、大きくなってからって言ったよね?どうして勝手に使おうとしたの?」

「……ごめんなさい」


 ママは、怒っている。いつもの優し気な顔は……残ってて、凄く可愛らしい表情で、全く怒り切れてはいないんだけど、怒っている。


「魔法は使い方を間違えると、とても危険な物になるの。だから、もうちょっと我慢してね」


 怒っているはずなのに、とても優し気な口調でママはそう言って、また私を抱き締めてくれた。

 どうやら、赦してくれたらしい。私が言うのもなんだけど、こんなに簡単に赦してくれていいのかな。


「……?雨が、止んだ?」


 私を抱き締めたままのママがそう呟き、顔を窓の外へと向けた。窓は先ほどの私の魔力によって引き起こされた風が原因で、開かれたままとなっている。本当なら、激しく降る雨が部屋の中を濡らすはずだ。でもそうはならず、むしろ日の光が入り込んでいる。

 それもそのはずで、外はいつの間にか晴れ渡っていた。先ほどまで空を覆っていた黒い雲はどこかへと消え去り、代わりに空を青が覆いつくし、暖かな日の光が煌々と大地を照らしている。

 あれだけの大雨が、一瞬で晴れる事などあり得ない。何が原因でそうさせたかというと、空で輝く私の魔力の光がその答えを教えてくれた。

 私の魔力が空へ干渉し、天気を晴れにした……?

 別に、天気を晴れにする魔法を使った訳ではない。私はただ、魔力を解放しただけだ。でも空で輝く私の魔力が天候に作用したのは、状況的に確実だと思われる。


「コレは……。シティ、良い?これからは、人前でむやみに魔法を使ったらダメ。魔力を解放するのも、ダメ。約束出来る?」

「う、うん。約束するよ。それでね、ママ。私の魔力の光、どうだった?キレイだった?」

「魔力の……光?」

「そうだよ?光って、キレイだったでしょ?」

「……」


 部屋に入って来たママが、あの光を見逃す訳がない。だけど、ママは首を傾げるばかりで私の話が通じていない様子だ。

 私はただ、あの光の美しさを共有したかっただけなのに、何故か話が通じない。


「シティはもしかして、魔力が見えるの……?」

「う、うん」


 私は当たり前のように答えたけど、もしかしてそれっておかしい事なの?だとしたら、黙っていた方が良かったのではないか。何も考えずに即答してしまってから、そんな事を思った。


「その事も、絶対に他の人に言ったらダメ!ママと約束して!」

「わ、分かった」


 先程よりも必死な様子のママに、私は狼狽えながらも黙っておくことを約束した。

 それから、なんだか忙しそうな村人が馬で家を訪れたりして、ちょっとした騒ぎとなった。応対したママとの会話を盗み聞きすると、彼らはどうやら強力な魔力の発生源を探しているようで、ママはその発生源は家だと普通に答えて対応している。

 ただし、魔力を放ったのは私ではなく、ママという事で話は進んで行った。ママが何故私を庇い、自らが魔力の発生源だと嘘をついたのか、私にその真意は分からない。

 でも、その様子を見て約束は絶対に守ろうと思った。


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