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 妹とは、後から生まれた女の子の事を言う。血の繋がりがあったりなかったりする妹はいるかもしれないけど、今は細かい事は省いておこう。

 私は一人っ娘だし、妹はいない。それに準ずる存在はいたけど、今は行方不明だ。そもそもエリシュさんの指す妹が、何を意味するのかが分からない。

 単純な質問なのに、私は色々と考えてその返答に迷ってしまう。


「難しい事は考えなくていい。妹がいるのか、いないかという単純な質問だ。ちなみに私は君に妹がいるなど、聞いた事もない」


 私もそんなの、聞いた事もないよ。だから答えは、決まっている。


「──いないよ、そんなの」

「そうだよね。そうだろうな。だけどね、君の妹だと名乗る人物がこの家にいるみたいなんだ。不思議な事に、私たちがこの家に帰ってくるその前にやってきて、君の妹だと名乗ったらしい。まるで、君がこの家にやってくる事を知っていたかのように」

「……?」


 意味が分からなくて、首を傾げるばかりだ。

 でもそこで、もしかしたらという可能性に気が付いた。その妹とはもしかしたら、私の良く知るあの人物ではないだろう。行方が分からなくなったと思ったら、私に会うために妹と名乗ってこの家を訪れ、待っていたと。


「では、この話はおしまい──」

「待って!その子に、会わせて」

「だが君に妹はいないのだろう?」

「でも、会わせて」

「……君の望む人物では決してない。会っても無駄だよ」

「でも、会いたいの」

「……分かったよ。ここに連れて来てくれ」


 何故か、ここで妹と名乗る人物と会わなければ、後悔するような気がした。それがメグルであるという可能性は限りなく低い事は分かっている。例えメグルではなくとも、会っておかなければいけない。そんな気がするんだ。

 それがメグルであるという可能性を、確実に排除しておきたいだけだけどね。

 エリシュさんの指示を受けてメイドさんが部屋を去っていくと、しばらくして戻ってきた。扉をノックして静かにゆっくりと開かれ、現れたのは先ほどのメイドさんと、メグル──……ではなく、見た事のない少女だった。


「お連れしました」

「ありがとう」

「っ……」


 少女を見てまず思ったのは、汚い。まるでぼろ雑巾のような布を身体にまとい、髪はごわごわで身体も汚れ放題でお風呂に入っていない様子が伺える。髪の毛は伸び放題で、前髪が彼女の顔の半分以上を髪の毛が隠してしまっている。髪の色は、黒。

 次に思ったのは、彼女は何かに怯えているようだった。震えながら現れた彼女は顔を上げようともせず、言葉も出せない程に緊張した様子が伺える。まさか、この人たちに何かされたのだろうかと思ったけど……そんな事をするような人たちには見えない。いや、よく考えたらエリシュさんとルナさんは、子供の前であんな事をするような人たちだ。何か変な事をされたりは、あるかもしれない……。

 けど、そんな感じでもないか。彼女の怯えは、もっと何か別のものに見える。


「……」


 エリシュさんが、私に視線を送って判断を求めてきている。私は、彼女を知らない。それが答えだ。

 僅かながらに抱いた期待は裏切られ、むなしさを感じた。


「……知らな──」

「わ、私は!シェスティア・タラクティの妹、ですっ!」


 彼女が妹だという事を、否定しようとした時だった。少女が突然叫ぶようにそう宣言し、驚かされてしまった。

 そんなに大きな声を出すようなタイプには見えなので、尚更驚いたよ。


「出鱈目を言うのはよしたまえ。君が何の理由があってシェスティア・タラクティの妹を名乗るのかは知らないが、その発言はとても不快だ」

「で、でも私は……妹なんですっ。シェスティア・タラクティの、妹なんです。だから、助けてください!」

「まだ言うか……。では問うが、妹だと言うのなら、姉の顔くらい分かるだろう?どうして君は先ほどから、姉を見て何も言わないんだ?」

「っ!?」


 エリシュさんが私に視線を向けて言うと、少女が凄い勢いで私の方を見て来た。完全にスルーしていた私の存在を認めた彼女は、更に震えだした身体に耐えられず、立っていられなくなって床に座り込んでしまった。


「わ、私は……妹です。貴女の、妹です」


 私がシェスティア・タラクティだと悟った少女が、私に向かってそう言って来た。座り込んだ少女の声は、とてもか細く自信のない声となっている。

 よく見れば、彼女の両手首に赤い痕が出来ている。首にも同様に痕があり、それが手錠や首輪を着けられていた痕跡だと言うのは、なんとなく分かった。

 こんな年端もいかない少女に、なんて物をつけるんだ。まさか、ここにいる人たちが彼女を?一瞬そう考えたけど、でも彼女はここを訪れたと言っていた。という事は、その前に出来た痕と考えられる。

 彼女がどういう経緯でここへやってきて、どうして私の妹を名乗るのか、その理由は分からない。とはいえ、私にはこの少女を妹と呼ぶ理由がなく、やはりそれを否定する事に変わりはない。


「……?」


 変わりはないのだけど、ふと気づいた。少女の首筋の辺りに、魔力の光がある。魔力は一切感じる事ができない。目で見なければ、気づく要素が全くない程の僅かな魔力だ。

 その魔力の光は、とても汚い黒色だった。


「ひっ」

「ちょっとだけ、じっとしてて」


 私がソファから立ち上がった事に、少女が驚いて可愛く悲鳴を漏らした。安心させるために優しく声をかけ、少女に近寄った私はその魔力の光に手を伸ばす。

 これが、何の魔法かは分からない。だけど、とても汚いので今すぐにでも取り除くべきだ。そう思った私は指先から自分の魔力を送り出し、その僅かな魔力を打ち消した。

 特には何も起きない。謎の汚い魔力は消え去り、一安心。


「ほう」


 そんな私の行動を見ていたエリシュさんが、感心したように呟いた。彼女はもしかしたら、魔力の事に気づいていたのかもしれない。あんなに凄い魔法の戦いを繰り広げるような魔術師なんだから、あり得る。


「……?」

「……なんでもないよ」


 事情が分かっていない少女が、私に向かって首を傾げてきた。自分の首筋で、何かよく分からない事をする人物がいたら、不思議に思うのも当然だ。

 でもこの事を彼女に伝える必要はない。例えるなら、気持ちの悪い虫が首筋を這っていて、本人が気づいていない内にその虫を排除する事に成功したとする。そしたらわざわざ虫がいたよ、なんて、伝えないよね。そう言う事だ。


「この子は、私の妹じゃない」

「っ!」


 私が妹だと宣言した少女の言葉を否定すると、少女はガクリと項垂れてしまった。そして、静かに涙を流し始める。


「うぇえぇ!?ど、どうしたの?私、嘘言ってないよね?ど、どういう事情があるのか知らないけど、そうだよね?ね?」


 涙を見て、私は慌てた。

 私って、もしかしたら女の涙に弱いのかもしれない。ママに対してもそうだったから、そう思った。


「……はい。私は妹ではありません。嘘を吐きました」


 少女は開き直ったかのように、本当の事を話してくれた。分かっていた事だけど、私はそれを聞いて安心したよ。もしかしたら、パパかママが浮気して出来た子なのかもとかも、少しだけだよ?少しだけ、考えちゃったから。


「では続いて教えてくれ。一体誰の差し金だ?誰が君を、シェスティア・タラクティの妹として君を差し向けた?」

「それは教えられません。ご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」


 少女はそう言って私たちに謝罪の言葉を口にすると、俯いて黙り込んでしまった。凄く追い詰めた様子の少女は、普通ではない。


「……」


 黙り込んでしまった少女をしばらく見ていると、少女が何やら慌てだした。というより、戸惑っている?自分の身体をしきりに手で触ったり、掌を握ったり開いたりして、何かを確かめている。

 やがて、顔をあげた少女が私たちの方を見て来た。そして、首を傾げてくる。私も同じだ。首を傾げる。


「私、死にませんでした」


 そしてようやく口を開いたかというと、そんな物騒な事を呟いた。


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