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そのままで


 詰所の前には、人が寝かされていた。地面の上に整列させられて寝かされたその人たちは、身動き1つする様子も見せず、胸の上で手を組んだ状態で目を閉じたまま空を見上げている。

 普通なら、こんな硬い地面の上に寝るのは嫌なはずだ。でもこの人たちは、文句を何も言わずに寝続けている。それは彼らが、文句を言える状態ではないからだ。


「……みんな、死んじゃってるの?」


 そこに寝かされているのは、死体だった。

 血まみれの人や、ぱっと見では傷が見えない人もいる。けれど皆肌が青白くなっていて、血が流れている様子が見る事ができない。


「ああ。突然襲われて、容赦なく殺されてしまった人たちだ」


 私は死体を前にして、地面に膝から崩れ落ちた。ママも一緒に膝をつくと、私を抱き締めながら震えだしている。

 この人たちは、村の人だ。野盗の手によって殺され、ここに寝かされている。数は10人程で、さほど多くはないように見える。だけど数は問題ではない。村人が殺されてしまった事が問題だ。


「あ……あぁ……!」


 その死体を1つ1つ見ていく中で、私は発見して思わず声を出してしまった。

 並べられた死体の中に、私達よりも一回り年上の少年がいる。金髪の目つきの悪い少年で、男の人が苦手な私をよくからかってくる少年だった。生きている時は、こんな安らかな顔を見た事もない。今は目を閉じ、静かに眠っていてまるで天使のようだ。

 この少年の名前は、ディルエ。やんちゃで村の問題児であり、サベルさんの息子だ。

 更にその隣には、女の人もいる。ジゼルさんと言って、家のママ程じゃないけどサベルさんにはもったいないくらいの美人さんだ。基本的に温厚で優しく良い人なんだけど、自分の子供であるディルエには厳しい人だったな。あのディルエが、お母さんであるジゼルさんにだけは平服してた程である。

 そんな2人が、地面に寝かされているのだ。息もせず、静かに横たわるその姿を見て、私は心臓を誰かに握られているかのような感覚に陥り、苦しくなる。


「まだ防衛体制が整う前、ディルエは村人を守るために戦った。まだ子供なのに、勇敢な奴だ。けど無茶だった。敵は多く、オレ達が駆けつけた時にはもう殺されていたんだ。ジゼルさんも、ディルエが殺されたその後に……」


 パパは言葉を詰まらせながらも、私に事の顛末を教えてくれた。

 サベルさんが、何故あんなに平気な顔をして野盗たちを殺したのか、その理由は凄くよく分かった。サベルさんは、悲しんでいたんだ。憎んでもいた。村を襲撃し、大切な家族を奪った野盗に対し、彼は冷徹だった。もしかしたら、かつて私を殺した使用人と同じように、家族を失った事で壊れてしまったのかもしれない。

 パパを初めとして、村人たちもサベルさんがそんな状態にある事を、知っていた。だから殺すなと言った私に対し、皆冷ややかだったんだ。


「ぱ、パパは……もし私が野盗に殺されたら、サベルさんみたいに無抵抗になった彼らを殺してた?」

「そんなの、想像もしたくないっ。だけどそんな想像もしたくない目に、サベルはあってしまった。オレだったら、とてもじゃないけど耐えられない。この世界の全部が悪に見えて、誰の言葉にも耳を傾けない化け物になってしまうかもしれない」

「ママも同じ。シティちゃんを失うなんて、耐えられない……!」


 ママはそう言いながら、泣いていた。それは、亡くなった人たちに対してと、私を失う事を想像した物が混じった涙だと思う。

 サベルさんの気持ちは、よく分かった。彼が無抵抗の野盗を殺さずにいられなかった理由は、理解できる。

 だけど私には私の考え方があって、上辺で理解できても気持ちを曲げる事はできない。


「私だったら、私がいなくなった後でもパパとママには笑っていて欲しいよ……!」


 復讐なんて、バカな事をしなくてもいい。憎悪に包まれ、人を殺さなくても良い。無抵抗の人を虐殺するなんて、もってのほかだ。ただ、元気で健やかにいてほしい。それだけだ。


「そんな事、出来る訳がないだろう……。シティを失ったら、オレはそんな事をした奴らを絶対に赦さない」

「それでも、もし私がいなくなった時は、誰も殺したりなんかしなくていい。私は、残された人には幸せになってもらいたいっ」


 前の世界では、たぶん私の死を悼んでくれる人なんいなかった。お父様は私の事を放ったらかしで、愛してくれていたかどうか分からない。私が死んだ後の世界の事は全く分からないから、その答えは永遠に謎に包まれたままだ。でもそんな事はどうでもいい。私がいなくなった後も、お父様には幸せでいてもらいたい。

 もしかしたら私が死んだ後も何事もなく、いつも通りの日常を送っているかもしれないけど……。むしろ、平和になってたりして。それならそれで、別に構わない。私を殺した人を恨まなくたっていい。普通に、幸せに暮らしてくれれば私も幸せだ。

 この世界で、私を愛してくれている人たちに対しては、尚更そう思う。


「シティ……ああ……もしかしたらシティは、そのままでもいいのかもしれない。正直に言うとパパは、サベルの行動が間違っているとは思えない。シティにはこの現場を見せて、奴らは殺されても仕方のない人間だと、そう伝えたかったんだ。家族を失った奴の気持ちを考えれば、当然の報いだとな。でもそれは何も正解ではなくて、シティにはシティの想いがあって、それがシティなんだ。上手く伝えられないけど、シティはとにかくそのままでよかったんだ」

「私も、シティちゃんはこのままでいいと思う。でもサベルさんの気持ちは理解できてしまう。家族を失った彼の気持ちを考えれば、彼を責める事は誰にもできないし、許されない事だと思う」

「そうだな。サベルを責める事はできない。でも奴らを殺した所で解決にもならない。悲しむサベルをみて、思考が停止していた。いや、言い訳だな。ただそれが、当たり前だと思ってしまっていたんだ。自分勝手な考えを子供に押し付けようとするなんて、バカな親だ」


 急にしおらしくなったパパが、地面に座り込んで頭を抱えてしまった。

 でも、それは違うよ。自分勝手な想いを押し付けていたのは、私の方だ。私はこの世界に生まれて、色々な事を教えてくれたパパとママを尊敬している。間違った事を間違っている事だと教えてくれ、私の歪んだ性格を直してくれた2人が、間違った事をするはずがない。その思い込みが私の背中を押して、パパ達の行動を止めに入った。本当に、暴れてまでパパを止めようとしていた。

 結局は、何が正しい事かなんて分からない。正解はどこにもなく、それぞれの人がそれぞれの想いで行動し、その結果で世界は動いているだけに過ぎないんだ。そしてその想いのすれ違いが、時として争いを生んでしまう。


「パパは、バカじゃない。私はもしあの場にパパがいなかったら、止めになんて入らなかったと思う。私はあそこにパパがいたから、止めたかっただけ。パパにはなんというか……カッコイイままのパパでいてもらいたいんだと思う……」


 私が座り込んだパパに向かってそう訴えかけると、パパは突然、スッと立ち上がった。


「シティ。顔を伏せていてくれ」

「あ……う、うん」


 私はパパに言われて、慌てて顔を伏せた。それからパパが歩み寄って来て、私の前で止まる。男の人が目の前にいる事に緊張しつつ、パパの足を見ながらパパが何をしようとするのか身構えていると、私の頭に優しく手が乗せられた。


「カッコ悪い所を見せて、すまなかった。でもこれからは、シティが誇れるようなカッコイイパパになる事を約束する。だから、シティには大人になるまで、パパを見ていてほしい」

「……うん。見てる」

「頑張ってね、グラちゃん」

「おう!」


 ママにも応援されて、パパは元気よく答えた。

 私のパパは、やっぱりカッコイイ。


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