虐殺
野盗を包囲していた村人の1人。サベルさんが、突如として拘束されていた彼らを殺し始めた。1人1人を腕で首の骨を折ったり、両手で抱きしめて絞め殺したり、顔面を殴りつけたり……魔力によって強化された筋力により、無抵抗の彼らを様々な方法で虐殺していく。
それは、あっという間の出来事だった。野盗たちは抵抗もできず、ただ殺されるだけ。やがて残った最後の1人も、両手で頭を挟まれ、その手の中で頭が潰れて死んだ。
「……なんで」
目の前で起きた出来事を、私はただただ見守るだけしかできなかった。『なんで』とは、自分が動けなかった事に対してと、サベルさんの行為に向けられた問いである。
あれほど止めようとしていたのに、いざという時には全く何もする事ができなかった自分が情けない。自分が納得できる理由を探すなら、それがよく知る人物による行為だったからかもしれない。それにまさか、いつもニコニコとしているサベルさんがそんな事をするなんて、想像もできなかった。それは他の皆にも当てはまる事だけど、でもまさかサベルさんが……何を考えたって、もう遅い。
自分の中で、この村に対しての勝手なイメージがガラガラと崩れていくのを感じる。
「敵は、殺す。情けを見せれば、大切な物を失ってしまうから。だからコレは、正当防衛だよ。何も悪い事じゃないし、止められる理由はない。分かったかい?シェスティアちゃん」
いつも通りの、ニコニコとした顔でサベルさんは私に言って来た。
どうしてそんなにニコニコしながら人を殺せるの?
その表情が、前世で私を殺した人物と被る。声も似ているし、だから私は村人の中でも、特段彼の事が苦手だった。今回は私ではなかったから良いけど、その殺人の欲求がいつか自分に向くのではないか。そんな気がしてたまらない。別人だと分かっていても、彼は怖いよ。
「ふん。サベルの言う通りだ。分かったら、子供は家でおとなしくしてな。……と、その家も大体が焼かれているんだったな。このクソ野郎どものせいで」
サベルさんの行為は、スキンヘッドのおじさんとパパとの衝突を避ける事になった。結果として良かったけど、その代償として出来上がった大勢の死体を見ると胸が痛む。抵抗もできず、彼らは殺されてしまった。
そうされなくてはいけなかった理由は、一体なんだと言うの。家を焼かれたくらいじゃ、まだまだ足りないよ。
「……サベル。シティはただ、何も知らないだけなんだ。それに、優しくてとてもいい子なんだよ。だから分かってくれ」
「……」
パパに声をかけられるも、サベルさんは黙って背を向けると、歩いて市場の方へと行ってしまった。
パパの言い方だと、止めた私が何も知らない悪で、サベルさんが正義みたいだ。そう言われると腹が立つけど、抗議はしないでおいた。
「はっ。優しいのなんて、聞いてりゃオレにも分かる。だがオレらには、その優しさに応える訳にはいかないだけの理由がある。これ以上お互い苦しみたくなけりゃ、嬢ちゃんを詰所に連れて行って、見せてやるといい。そうすりゃ嬢ちゃんも、納得するだろう」
「詰所……?」
そこに一体、何があるというのだろう。私は首を傾げるも、おじさんはそれだけ言い残してサベルさんと同じように去って行ってしまった。他の村人たちも、サベルさんが殺した襲撃者の死体を乱暴に担いで去っていくと、その場に残ったのは私とパパとママだけになる。
私は目の前でおきた惨状を前にして、呆然とした。今目の前でおきた出来事は、もしかしたら夢なのではないか。そう思いたいけど、背中から私を抱き締める母の温もりが、現実だと物語っている。
そうしていると、遅れてアグネスタさんもやってきた。
「グラ。村の制圧は終わったかい?」
「ああ、終わってる。数は多かったが、全て片付けた。そっちはどうだ?」
「こっちも、家を焼きながら移動してた連中は片付けたよ。取りこぼしもないはずだ。という事で、戦いは終わったという事でいいのかね」
「そのはずだ。しかし、隠密部隊にしては数が多すぎる。何か裏がありそうだ」
「裏、ねぇ……。もしこの国の中で手引きしてた奴がいるなら、そいつにも挨拶をしにいかないといけないねぇ。こりゃ忙しくなりそうだ」
パパとアグネスタさんは、私とママには構わずにお互い情報を出し合った。その会話の中から、もう戦いはないという事にとりあえずは安心する。他にも気になる所はあるけど、尋ねた所でパパはきっと答えてはくれないだろう。
それにしてもこの2人、随分と仲が良さそうだね。浮気とかそういう事じゃなく、まるで友達みたいに会話をする2人に私は驚いた。ママとアグネスタさんが仲が良いのは知っていたけど、まさかパパまで仲がいいとは知らなかったからね。
「……それについては、追って村長から呼び出しがかかるはずだ」
「ああ。楽しみだねぇ。あたしもサベル程じゃないけど、イラついてるんだよ。連中のやり方、汚すぎて気に入らない。その時は、思い切り暴れさせてもらうよ」
そういうアグネスタさんの目には、確かに憎悪の炎がやどっていた。
「グラちゃん。とりあえず、シティちゃんをゆっくり休める場所に……」
私を抱き締めていたママが、そんな2人の会話を遮るようにそう言った。
たぶん、私の前ですべきではない会話を前にして、ママはやめさせたかったんだと思う。
「いや。シティには、見てもらいたい物がある」
どうやらパパはスキンヘッドのおじさんに言われた通り、私を詰所に連れて行くようだ。私も気になっていたので、見てやろうという気持ちだったので丁度良い。それで納得できれば、それでいい。納得できなければ、文句を言いに行ってやろうと思う。
「……何を、見せるつもりなの?」
一方でママは心配そうに、パパに対して尋ねた。
「見れば分かる事だ。こうなった以上、シティには見てもらいたい」
「……分かった。でも、私も一緒に行く」
ママは決意を表明しながら、私をぎゅっと抱きしめてきた。私も、ママが一緒なら心強い。だから私を抱き締めてくれるその手を私も受け入れて、抱きしめ返す。
「ああ、頼む。シティもその方が心強いだろうからな」
「んじゃ、あたしは少し眠らせてもらうよ。ずっと走り回って、疲れてるからね」
「休むなら、郵便局の方に行くといい。テントが張られているから、休めるぞ。それから、サラとシティを連れて来てくれて、ありがとう」
「ん」
アグネスタさんは最後に私の頭を撫で、あくびをしながら背を見せて歩き出した。
本当にちょっと眠たそうだね。もしかして、夕べから一睡もしてないのかな。でもそれを言ったらパパとママもだよね。パパは家を飛び出してから寝ていなそうだし、ママは隠し部屋で魔法を使い続けていたので眠れていない。私1人だけ寝てしまって、申し訳ない気持ちになる。
「あ、アグネスタさん!ありがとう!」
「ありがとうございました」
私とママが口々にその背中に向かってお礼を言うと、アグネスタさんはこちらを振り返ることなく、背を向けたまま手を振ってそれを答えとした。
アグネスタさんと別れた私達家族は、市場に入ると真っすぐ詰所の方へと向かった。道中の建物はやっぱり燃えて崩れている物が多く、崩れていなくとも焦げていて無事で済んでいる建物は皆無だ。すれ違う村人は皆意気消沈していて、住む家を失ったショックからか、全く動かず座り込んだままの人もいる。
中には勿論男の人もいて、思わずママに抱き着きながら通り過ぎていく訳だけど、いつも程は怖くはない。それはたぶん、皆覇気がないからだね。
怖がりながら進む市場は嫌だけど……でも、今の市場の方が私は嫌だ。やっぱり市場は賑わっていて、皆笑顔でいてもらいたいよ。
「あ……」
先導するパパについてやがて詰所が見えてくると、私はその光景に息を呑んだ。辿り着く前に、私はなんとなくパパが私に見せたかった物を察してしまった。




