睨み合い
目を塞がれながらも、私にはこの先に訪れようとしている光景が分かる。あの魔力によって使用されようとしているのは、炎の魔法だ。その魔法により、拘束されている黒装束の襲撃者達は焼かれ、パパ達の手によって殺されてしまう。そんなの私は嫌だよ。
「……パパを、止めないと」
この村の本当の姿だかなんだか知らないけど、無抵抗の人を殺すのは絶対に間違っている。
私はこの村が好きだから。パパも好きだから、そんな間違った事をして欲しくない。
「シティちゃん!?」
私は私の目を塞いでいたママの手を振り切ると、パパたちの下へと猛然と駆けだした。
走りながら手を伸ばすと、自分の魔力を手から飛ばした。魔力は帯状の光となり、一瞬にして彼らの下へと届く事になる。そして、魔法を使おうとしている村人たちの魔力に流れ込むと、彼らの魔力を上書き。魔法を打ち消す事に成功した。
私が飛ばした魔力には、魔法の不活性化を促す魔力が籠められいたからね。ちょっとした魔法なら、この方法で打ち消す事ができるのを、私は知っている。もう他に存在しているかもしれないけど、自己流で生み出した業である。
魔法が打ち消された事に、驚く村人たち。その視線は私から飛ばされた魔力を辿るようにしてこちらを向き、走って向かってくる私に気が付いた。
「パパ!やめて!」
「シティ!」
私が必死に叫んで止めるように訴えると、パパも私に気づいた。腕を広げ、私を迎え入れようとしているけど私は段々と足を遅め、割と広めの距離を取った所で立ち止まる。
パパだけなら、まだいいよ。もうちょっと近づける。でも他に村の男の人たちもいるから、これ以上近づきたくないんだ。
特に、魔法を止められたのが気に入らないんだと思う。中には私を思いきり睨みつけている人もいる。それを見て、怖くて身体が震え、汗が全身から湧き出てきた。
「……グラディスの所の娘か。分かっているとは思うが、コイツ今、オレ達にマジックキャンセラーをかけてきたぞ」
マジックキャンセラー……。そんな技名なんだね。私は自分で開発して覚えた技だけど、もう既に存在しているようだ。少し残念。
「オレ達の魔法を、打ち消した。しかも、あの距離で放って来たんだ。普通じゃないぞ……」
「ああ。さすがは、グラディスとサラさんの間に生まれた子だ。良い戦士になる」
私を見た村人たちは、口々に勝手な事を言い出している。私が普通じゃないとか、いい戦士になるとか、そんな事ばかりだ。そんなの私の知らない話で、今は関係ない。今はとにかく、無抵抗な人たちを殺そうとする行為を、止める事だ。
「……パパ。その人たち、どうするの?」
怖いけど、言わなければいけない。勇気を振り絞り、私は男の人たちに見守られながらも、パパを真っすぐに見据えてそう問いかけた。
声は震え、小さいし聞き取りにくかったと思う。でもパパは、そんな私の声をずっと拾い続けて来てくれた。だからたぶん、届いたはずだ。
「シティ……」
やっぱり私の声は、届いたようだ。でも私の問いかけに、パパは視線を逸らすと返事を渋ってしまった。
殺そうとしていた事は、分かっている。なのにあえて聞いたのは、少し意地悪だったかもしれない。それでも私は、答えを欲した。答えを本人の口から聞かないと、納得できないからだ。
「オレ達はこれから、大人としての責務を果たさないといけねぇんだ。子供は向こうに行ってろ。ほら、かーちゃんも来たぞ」
村の年長者であるおじさんが、パパを匿うようにして代わりに答えた。スキンヘッドの、強面のおじさんだ。確か村長さんの息子さんだったかな。村長さん自体がかなり年のいったおじいさんなので、息子であるこのおじさんの年齢もけっこう上だ。
そんなスキンヘッドのおじさんの受け答えは、私の問いに対する答えになっていない。そもそも私はパパに聞いているのだ。パパの口から答えを聞かないと、納得できないよ。
「シティちゃん!」
おじさんが言った通り、ママが追いついてきて後ろから私を抱き締めてきた。
私はそんなママの事を気にもかけず、パパを見据え続ける。
「サラ。無事だったんだな。良かった……」
パパはママの姿も前にして、安心したように息を吐いたけど話は終わっていない。
「パパ答えて。その人たち、どうするの?」
今度は先ほどよりも、大きな声で言えた。ママに抱きしめられているから、力を貰えたのかもしれない。ちょっと情けないけど、虎の威を借りた気分だ。
「シティちゃん……。ここはパパ達に任せて、行きましょう?」
「パパが答えてくれないと、嫌!答えてくれるまでここにいる!」
なだめるように言ってくるママの言葉も、私の心には届かなかった。何を言われようと、私は答えを聞くまで絶対にここを動かない。力づくで動かそうものなら、魔法を行使してまで抵抗させてもらう。まるで駄々をこねる子供のようだけど、子供だから仕方がない。
「嬢ちゃん、良い子だからママの言う事をちゃんと聞いて、あっちへいきな」
「嫌!私はパパに聞いてるの!だからおじさんは黙ってて!」
さっきから、スキンヘッドのおじさんが遮って来て五月蠅い。私はママに抱かれて守られている事を良い事に、調子に乗って彼を睨みつけながら叫んだ。
邪魔をしてくるおじさんに対する怒りで、若干我を忘れているんだと思う。男の人に対して叫ぶとか、この世界に生まれて初めての事だ。でも、叫んでからやっぱり身体が震えだした。汗も止まらないし、脈もどんどん速くなっていく。
怖い。でも、邪魔はしないでほしい。
「聞き分けのない悪い子は、怒られるぞ。それでもいいのか?」
「別に良い。怒られようがなんだろうが、私は無抵抗の人たちを拘束して虐めたうえで、パパが何をしようとしているのか知りたいの」
「ほう。では知ってどうする。知ったうえで、傍観するのか。それとも父がしようとしている行為を止めるか?どちらにしろ、賢い事じゃない。子供はおとなしく、言う事を聞いて向こうにいっておけばそれでいい。それで、誰も傷つかずに済む事を学ぶんだ」
おじさんは、まるで子供を諭すような口調で言って来た。分かっている。私は子供だ。自分でも分かっているからこそ、私は今まで目を瞑って知ろうしなかった。いつか話してくれれば、それでいいと諦めたのだ。だけど今の出来事を前にして、黙ってはいられない。
私は……この世界に生まれて、私に正しい事とそうでない事を教えてくれたパパとママに、凄く感謝しているし憧れている。私にその事を教えてくれたパパが、目の前で私にもハッキリわかるくらいいけない事をしているのを、見過ごせるわけがないよ。
「偉そうな事を……言わないで。何が傷つかずに済むだ。ここで黙って見過ごした方が、よっぽど傷つくよ。そんな事も分からないような大人が、私の邪魔をするなっ!」
「……このクソガキ、オレに啖呵切りやがった。死にてぇのか?」
言う事をきかない私にイラ立ったのか、スキンヘッドのおじさんが額に血管を浮き上がらせ、私を思い切り睨みつけてきた。その目を見て、私は自分の身の危険を感じた。それに加え、黒く禍々しい魔力がおじさんの身体から溢れ出し、それが周囲を覆いつくしていく。
たぶんコレが、俗にいう殺気というヤツなんだね。前世で死ぬ間際に感じた事がある物と、同じ物を今感じている。あれ?という事は私、殺されちゃうの?せっかくこの世界で少しはまともになれたと思うのに、もう終わりなの?
ママが私を抱き締める力が、強くなった気がした。ママならきっと、私を守ってくれるだろう。でも巻き込みたくはない。
「──お前こそ、オレの家族に向かって舐めた事してんじゃねぇよ。殺すぞ?」
「ああ?」
私を睨みつけるスキンヘッドのおじさんとの間に入ったのは、パパだった。パパも魔力を放ち、おじさんとの睨み合いが始まる。今にも2人の殺し合いが始まってしまいそうな、ただならぬ雰囲気が流れ始めてしまった。
私はただ、無抵抗な人を殺すと言う行為を止めたかっただけだ。それが何故か、村人同士の戦いに発展しようとしている。そんな事を、私は望んだ訳ではない。
狼狽える私をよそに、とある人物の行為が戦い止めるキッカケとなった。それもまた、私が望んだ形ではない。




