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 死んでしまったのは、村人だけではない。襲撃者の死体は市場の郊外に集められ、それが燃やされると大きな煙がたった。一体どれだけの人が死んだのだろう。煙はとてつもなく大きく、それを市場から眺めているとなんともいえない喪失感が市場を包み込んだ。

 でも、喪失感に浸っている場合ではない。村人の中には怪我人も大勢いて、詰所の中に集められていたんだ。

 ママはそんな彼らを見て、手伝いを名乗り出た。ママは回復系の魔法が使えるので、皆に歓迎されていってしまった。パパもそんなママを手伝いに行ってしまい、私は取り残される事となる。

 たった1人で、男の人が蔓延るこの市場に取り残されるなんて、中々ハードな事をしてくれるなと思うよ。でもあんなにたくさんの怪我人を前にして、我儘を言っていられない。2人には郵便局の方にあるテントで休ませてもらうように言われたけど……男がいるような場所では休まらないよ。だから私は、トボトボと1人歩いて安寧の地を目指した。

 それにしても……恥ずかしい事をパパに訴えてしまった。私って、こんな事言うような子だったんだね。ビックリだ。何だよ、残された人には幸せになってもらいたいって。昔の私が聞いたら、鼻で笑ってツバを吐き、足で踏まれるよ。

 道中で1人思い出し、赤面しながら辿り着いたのは、宝石屋さんだ。安寧の地とは、この事である。

 でもそこには建物がなく、焼けて崩れた建物があるだけだった。宝石屋さんも火事の被害を免れる事ができなかったようで、酷い有様だ。


「おじさん……!」


 そんな建物の様子を見て、店主の事が心配になった。死んでしまった村人達の中に姿はなかったけど、もしかしたら怪我をして詰所に運ばれていたりとかはあるかもしれない。

 そう思ったけど、店主が瓦礫の中か現れて、私の心配が杞憂だったことを示した。


「……無事だったか」


 店主は私の姿に気が付くと、静かにそう呟いた。


「なに、してるの……?」

「……無事な物を探していた。が、大半が燃え尽きてしまい、無事な物は少ない」


 私にとって、夢のような世界がなくなってしまった事はショックだ。でも店主が無事でなによりで、私は安心したよ。


「……」


 私はそうなんだけど、店主は凄く寂しそうだ。燃えつきた建物の中に立ち尽くし、とても悲しそう。


「また、お店を作って!私、絶対に見に来るからっ」

「……ああ」


 店主は静かに頷くと、再び廃墟と化した建物の中へと消えて行った。柱は焼け焦げ、今にも崩れそうなのに危なくないのかな。そう思って声を掛けようとしたけど、少し元気が出た様子の店主をみて、やめておいた。

 頼みの宝石屋さんで休む事は不可能となったけど、私はその場に居座る事にした。危ないので中に踏み入れる事はないけど、そこに座り込んでようやく休憩だ。子供の身体には、けっこう堪えるハードワークだよ。

 それに、精神的にもかなり堪えている。目の前で人が死ぬ姿を見た。見知った人が死んでいる姿も見た。家は焼け、帰る場所もない。本当に、疲れた。

 ……メグル、どこに行っちゃったんだろう。無事なのかな。心配で今すぐ会いたくなるけど、私は彼女の家の場所を知らない。いつも、どこからともなく現れて、どこかへと帰っていくだけだった。こういう時、知っておけば良かったと思うけど後悔してももう遅い。後悔っていうのは過ぎ去った事に対してにしかできないから、遅いも早いもないんだけどね。


「ねぇ、おじさん」

「……なんだ」

「メグルの家って、どこか知ってる?」

「……」


 私は、廃墟となった建物をかきわけ、無事な物を探索している店主に向かって尋ねてみた。すると店主は一旦手を止め、黙って俯いてしまうという反応を見せた。

 え、なにその反応。もしかして、知ってるの?


「……知らない」

「そ、そっか」


 しかし答えは、知らないだった。

 店主が知らないのは残念だったけど、でも私はこの時、誰かにメグルの家を聞くと言うアイディアを手に入れた。店主は知らなくとも、他の誰かが絶対に知っているはずである。メグルの家を誰かから聞き出して、そしてメグルに会いに行こう。

 そうと決まれば、行動に移すのみだ。私は勢いよく立ち上がると、役所の方向へと向かって走り出した。役所なら、絶対にメグルの家の事を知っている人がいるはずだと、そう読んでの行動だ。

 いや、でもその前に、パパとママには一応行き場所を伝えておいた方が良いよね。そう思うと、私は方向転換して詰所の方向へと向かって走り出した。

 そんな私の奇怪な行動を、店主が不思議そうに見つめていたけど気にしない。私は手を振って店主に挨拶し、その場を後にした。


「──きゃああ!」


 詰所に近づいて来た時、大きな悲鳴が聞こえてきた。ただならぬ悲鳴に私の足は自然と速まり、詰所へと急ぐ。

 そして辿り着くと、そこには詰所の周囲で建物の中を心配そうに伺う村人たちがいた。ただならぬ様子に遠目で見守っていると、詰所の中から人が現れた。それは、先程パパと一触即発になりそうだったスキンヘッドのおじさんだ。


「ああ、クソ……なんでこんな事に……!」


 彼の様子は、普通ではない。困惑した表情を浮かべ、その顔には血がついている。よく見ると彼の手には、何かが握られていた。


「……え?」


 私はその握られた物をみて、呆然とした。それは、人の首だ。切断面からは血が垂れており、まだそれが胴体から切り離されたばかりだという事を物語っている。

 その首は、サベルさんの物だった。一体、何が起こっているのだろう。理解が追いつかず、私はただただ混乱するばかりである。


「──ガーロンさんが突然暴れ出して、怪我人たちに襲い掛かったらしい。それを止めるために、ゼネルガストさんが……」


 そう語ったのは、私と同じように様子を伺っていた村人だ。私に対してではなく、別の村人の質問に対しての応答が、傍にいる私の耳にも届いた形だ。

 ガーロンはサベルさんの苗字で、彼の話によると暴れ出したサベルさんをスキンヘッドのおじさんが殺して止めた事になる。


「どうしてそんな事を……!」

「知らねぇよ。とにかく無差別に襲いだして、それを止めに入ったタラクティ夫妻も──」


 タラクティという名を聞いて、私は駆けだした。詰所に集まってきていた村人たちの間を駆け抜け、そして詰所の入口へと差し掛かる。そこにはスキンヘッドのおじさんがいたけど、私は構わずに中へと入った。

 何も、見る必要はない。例え男の人の傍を通ろうと、関係ない。私はパパとママの無事が確認したくて、必死だった。


「パパ!ママ!」


 叫びながら詰所に入ると、そこには大勢の怪我人がいた。その怪我人たちは部屋の隅っこに集められていて、広いホールなのに他のスペースが空いている。その空いたスペースは床が壊れたりして、破壊された痕跡が残されている。恐らくここで、サベルさんが暴れたんだと思う。

 その場には怪我人ではなく、他の村人も立っていて、叫びながら詰所に入ってきた私を見て驚いた表情を見せた。そして黙り込んだまま悲しそうな表情を見せて一歩退いて、人の道を作る。その道の先には、床に横たわったパパとママがいた。


「……」


 私はそんな2人を見て、息が止まった。もしかしたら、心臓も止まっているかもしれない。それくらい、大きな不安がよぎった。

 フラフラとした足つきでパパとママへと近づいて行き、その場までやってくると私は2人の傍に座り込んだ。


「パパ……。ママ……」


 声を掛けたけど、2人は返事をしてくれない。目を閉じたまま、眠ったままだ。

 ママの手を握ると、その手はまだ暖かかった。だけど、もう返事をしてくれる事はない。その手には力が入っておらず、私の手を握り返してくれる事もない。

 続いてパパの手も握った。最初は震えて戸惑ったけど、初めて自分から握ったパパの手も、暖かかった。震えながら掴んだその手も、私の手を握り返してはくれない。

 2人とも、胸にぽっかりと空いた穴により死んでしまっている事は明白だ。

 私は頭が真っ白になりながら、自問自答する。自分がなんのためにここにいるのか、何故この世界に生まれたのか、どうしてこんな目に合わなくてはいけないのか……。

 ああ、分かった。これは、罰なんだ。前世で酷い性格だった私に、幸せな人生が待っているはずなどない。私がこの世界に生まれた理由は、罰を受けるため。この先もきっと、地獄のような人生が待ち受けているに違いない。


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