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山椒姫、変わるとき<第四章完>

「コロス……殺すころすコロス殺すきょろすクォロッすぅー!!!」

「ロラン! 止めなさい!」


 悲鳴を聞きつけて寮へと急ぎやって来ると、そこには剣を振り回して暴れ回るロランの姿。警備兵もいるにはいますが、取り押さえているうちに中から逃げ出してくる生徒たちに危険が及んではいけないと判断したのか安全確保を優先しており、直接的な攻撃は加えていません。




「な、何なのよあれ! 無理よジョゼ様、逃げましょう」

「ですが!」


 そして何度も声を張り上げてロランに説得を試みるジョゼ様。マリエッタ様たちも逃げたいのでしょうが、彼女1人を置いていくわけにはいかないと一緒に留まって他の生徒が逃げてくるのを手伝っております。




「ロラン!」

「ジョゼフィーヌぅ〜! 俺のものにならぬなら殺すぅ〜!」


 あの尋常ではない様子、恐らく薬物過剰摂取(オーバードーズ)


 面倒なことになっているというのはこのことです。監視していた者の話だと、不安で眠れぬ日々を送って寝付けぬ彼は酒浸りだったそうですが、今の様子を見るに、それも効かなくなって薬物に手を出したのでしょう。


 どんな良薬でも過剰摂取すれば、体を蝕む毒でしかありません。しかもあの様子から察するに、出所の怪しい麻薬の類いかもしれません。ジョゼ様が最後まで改心する機会をと仰せでしたので、大事にはせず捕縛はしなかったのですがやはり無駄でしたね。もうあの状態では説得は難しいでしょう……




――ガサガサッ……


「みぃつけたぁ~!」

「ひいっ……」


 ロランが急に視線を外して、ニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべたと思うと植え込みの方に近づきます。そこには逃げ遅れたと思われる女生徒が1人身を隠していたようで、気付かれたと思いガタガタ震えていました。


「みぃつけたぁ~! ジョゼフィーヌぅ〜!」

「い、いや……来ないで」

「いっしょにかえろうよ~」

「嫌!」

「殺すぅ~!」


(危ない!)


 逃げ遅れた女子をジョゼ様だと思い込んでいるのか、ロランが彼女に向かって剣を振り上げますが、今から駆け寄っても私では届かない。マズい、油断した!




――バサッ! バサバサッ!! ガコン!


 万事休すかと思われたそのとき、ユベールさんが授業で使っていたであろう分厚いテキストを何冊か続けざまに投げつけたのが、ロランの後頭部に命中しました。なるほど、手首のスナップを利かせて水平に投げつけるとテキストも凶器になるのですね。勉強になりました、テキストだけに。


 そしてロランが怯んだその隙に女生徒を救出して無事に逃がしたユベールさん。そのまま宿敵(ロラン)に対峙します。


「おみゃえ()かぁ~! この僕をぶったのはぁ~」

「ロラン! これ以上醜態を晒すな!」

「おみゃえは……ユベールぅーーーー!」


 どうやら相手がユベールさんだと認識したようで、ロランがすさまじい敵意を向けてきました。




「怪我はない? 中に逃げ遅れた人は他にいる?」

「いえ、私が最後だと思います」


 救出された子に怪我がないことを確認し、みんなに彼女を任せるとお願いすると、ジョゼ様が私はどうするつもりと聞いてきましたが、聞くまでもないでしょ。


「私は……アイツをぶちのめします」

「キャサリン様。コイツは俺に任せてください」


 新生ルフェーヴル家の当主として、自分が決着をつけると言うユベールさんですが、テキストも投げてしまったし、他に武器になりそうな物を持っておりません。




「ユベール、危ないわ!」

「大丈夫です。あのような者に後れは取りません」


 当然ジョゼ様は無理をするなと止めますが、ユベールさんは皆さんに扱かれ抜いたので大丈夫と返してきます。皆さんとはお兄様たちやダミアンのことですよね? あ、私も数に含まれている?


「ユベール!」

「姫様、いえジョゼ。これは僕たちにとって避けて通ってはいけないのです。大丈夫、僕を信じてください」

「……分かった。でも決して無茶をしてダメよ。貴男がいなければ私は生きていけないわ」

「分かってます!」


 そう言ってジョゼ様に二カッと笑いかけ、改めてロランに向き合うユベールさん。


 ラウールさんやロクサーヌ様もそうでしたが、ブロワーズの方はこういうとき大仰に演じるのがお好きなのかしら? ちょっと芝居がかっている気が……






「ロラン……ルフェーヴルの面汚しが! これ以上醜態を晒すな!」

「ユ~ベ~ルぅ~! 卑しき身分の従者風情がルフェーヴルの名を語るなー! ◯※@◆△¥■◎$ー!」


 興奮が頂点に達したのか、もう何言ってるか分からないロラン。かかってこいと挑発するユベールさんに向かい、剣を振り上げながら突っ込んできますがあれでは武器を持つ優位性が全く発揮できませんね。


 だって……間合いに入ってもいないのに、剣を振り下ろしたり横に払ったりしながら走ってくるなんてどこに目が付いているというのか。元々剣の修練もしていないのでしょうが、それでも普通ならやらないですよ。むしろ武器のせいで動きが制約されているくらいです。


ジュ()ベーリュ! 死にぇ~!」

「はあーっ! (ドスンッ!)」


 ……心配するまでもありませんでした。焦点の定まらぬ切り払いをヒラリと避けると、ユベールさんは相手の襟筋を捕まえ、足払いでいとも容易く組み伏せてしまいました。


 その際に頭を強打したのか、ロランさんはグッタリしております。


「ユベールさん、お見事!」

「いや、相手が弱いだけで誇るようなものでもありません。むしろ弱すぎて受け身も取れなかったみたいで……大丈夫ですかね?」

「元々イカれていたから、大丈夫ではないと思うよ」

「そういえばそうでしたね……」




 その後、駆けつけた衛兵に捕縛されたロランさん。連行される際も意味不明の発言が続いています。


「グヘヘヘ、ジョゼ、ジョゼ、ジョゼ、俺の所へ来い」

「えーい、とっとと歩け!」

「うるしゃい、うるしゃいうるしゃいうるしゃーい! 俺はルフェービュルの次期当主だじょー! おみゃえらみたいにゃ◯※@◆△¥■◎$ー!」

「お前、ちょっと黙ってろ! (ゴツン!)」

「父上に言いつけてやるじょー!」

「やかましいわ!」


 強制送還前に要施療と判断され、檻付きの病院に入れられることになりそうです。




「ロラン……」

「ジョゼ様を想う気持ちは本物だったようですね。やり方はよろしくありませんでしたが」

「ご迷惑をお掛けしました」

「謝ることはありません。むしろ私は貴女に出会えて楽しかったし、お2人もこれでようやく区切りが付いたのではありませんか?」


 ロランさんの生き方は決して褒められるものではありませんでしたが、それは彼個人だけの責任ではありません。国のあり様、貴族のあり様、そして人としてのあり様。様々な要素が絡み合った結果、彼にとっては悲しい結末となってしまっただけ。


 そして彼らの負の遺産を継承し、ルフェーヴルを継ぐことになった2人。その手で過去の因縁にケリを付け、新たな出発を飾ることが出来たと思えば……




「そういう人間がこれから少しでも減るようにするのがジョゼ様の役目です」


 悲しんでばかりではロランさんが浮かばれません。まだ死んでないけど。


「そうですわ。私が……いえ、かけがえのない仲間たちと共に、ブロワーズを民が暮らしやすい国に変えていきます」

「その意気です」


 涙を浮かべながら真っ直ぐに前を向くジョゼ様。ユベールさんが一緒なら、きっと素敵な家庭、素敵な国を築いてくれるだろうと思います。


「キャサリン様。今までありがとうございました」

「ダメです。これからもよろしくですよ。私たちは友達なんだから」

「ええ、そうでしたわね。また頼りにするかもしれません」

「殿方に対するお悩み相談は受けられませんよ」

「まあ。ウフフ」



 ◆



「終わったね」

「あら、騒ぎを聞きつけてですか?」

「そんなところだ」


 ユベールさんと寄り添い寮の中へ入る2人の背を見送っていると、どこから現れたのかオリヴァーが横に立っていました。


「これでブロワーズも変わりますかね」

「変わってもらわねば困る」


 たしかに。そのために力を貸したのですからね。




「変わってもらうのはジョゼフィーヌ姫たちだけではないぞ」

「と仰ると?」

「ケイトも変わるときがきたのではないか?」


 そうでした。学生の身分は卒業し、これからは聖騎士としてアリス様の護衛に本格的に従事するのです。私も変わるとき……というか、学生でないだけでやることはあまり変わらないような気がしますが?




「それ以上に大事なことがあると思うんだけど……」

「何かありましたでしょうか?」

「ケイトさん? 僕と婚約しているのは覚えているよね」


 それはもちろん。当たり前じゃないですか。


「だからさ……婚約しているということは、その先に結婚が控えているんだけど」


 けっこん? 辞書によるとけっこんとは夫婦になること。でしたかね?


「そうだよ。君は僕の奥さんになるの。辺境伯令嬢から伯爵夫人に変わるの。理解してる?」


 ……そう言われればそうですね。オリヴァーと私がいつも一緒に居るのは婚約しているからであって、それは当然結婚が前提の話。側にいるのが当たり前になりすぎて全く意識しておりませんでした。




「いやそこは意識しようよ。1年後には結婚式だからね」


 ああそうでした。私が卒業して1年後を目処に結婚式を挙げる話になっておりました。


 ということは……私が奥様とか呼ばれちゃうわけ!?


「それは呼ぶでしょうよ。僕だって『妻のキャサリンです』って紹介するんだ。そして君は『ギャレット伯オリヴァーの妻でございます』って挨拶する。楽しみだね」

「奥様……妻……夫……はわわ~!!!!!」






 こうして私の学園生活は終わりを告げました。


「結婚式が待ち遠しいな」

「そんなに顔を近づけないでください! 皆さんが見ていますわ」

「もう学園は卒業したんだ。今さら遠慮することなんかないだろう」

「はわわ~! 月末までは学生の身分のままです! オリヴァー、自重なさいませ!」

「オリヴァーじゃない。旦那様だ」

「まだ早いです!」




 これからも私は、沢山の仲間、敬愛する主君、頼りになる家族、そして愛するオリ……


「旦那様」


 だ、旦那様と共に、”美人過ぎる女性騎士”への道を邁進いたします!




「子供は3人は欲しいかな」

「……精進します」

お読みいただきありがとうございました。

これにてキャサリンの学園生活は終了でございます。

次回は4/2(土)投稿予定。物語はあと2~3話で完結予定となりますので、是非最後までお付き合いください。よろしくお願いします!

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[一言] >強制送還前に要施療と判断され 治療の意味があるといいねぇ
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