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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第一章

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9/10

決闘

「では決闘を開始する!」


 立会人の号令と共に、ハヤトはぼくに剣の狙いを定めた。


「倍速!」


 その瞬間、ハヤトは超加速した。

 ぼくが身構えるより早く、剣がぼくの腹を貫通していた。

 それはあまりに素早い動作で、まるで反応できなかった。


「なんだ、拍子抜けだな」


 ハヤトは退屈そうに呟いた。


「やったか!」


 レオン派から歓声が上がる。

 だが、ぼくは刺さった剣を見下ろし、思った。


 ……腹か。甘い。


 相手を一撃で仕留めるなら、心臓を一突きにするか、首を落とさなければ。

 腹を刺したくらいでは、すぐには死なない。


 ぼくは何事もなかったように、腹に刺さった剣の柄を握った。


「……え?」


 ハヤトの顔から笑みが消えた。

 剣を引こうとするが、ぼくが握っているから抜けない。


「君、速いね」


 ぼくは素直な感想を述べた。


「それが強化者(ブースター)の能力? まったく反応できる気がしない」


 攻撃自体は甘いが、この速度で繰り出されたらぼくにはどうやっても避けられない。


「君の能力は、本当にすごいよ」


 ぼくが笑顔を浮かべると、ハヤトは青ざめ、剣から手を離して飛び退いた。


「な、なんで……お前、不死身なのか? なぜそんなに平然としていられる?」


 狼狽えるハヤトに、ぼくは答えた。


「刺されるのは慣れてるから、このくらい、どうってことないよ」


「え?」


 広場が静まり返る。

 死の苦痛に慣れたぼくには、この程度の痛みは問題にならない。


「いや、待て、明らかに致命傷のはずだが……」


 ハヤトはさらに後退りする。


「内臓もやられているね。これは多分助からない。でも、まだすぐには死なないよ」


 ぼくは腹から剣を引き抜き、二刀流のように構えた。

 腹部から血が吹き出し、周りから悲鳴が上がる。


「この剣、返したほうがいいかな。そうしないと勝負にならないよね」


「ひっ……!」


 ハヤトの顔色は真っ青だった。


「な、なんなんだお前! 本当に人間か!」


 何をそんなに動揺しているのか、ぼくは首をかしげる。


「もちろんごく普通の人間だけど?」


「う、嘘だ!」


 彼を落ち着かせるため、ぼくは穏やかな表情で歩み寄る。


「む、無理だ! 俺の負けでいい。だから近寄るなぁ!」


 ハヤトはそう叫ぶと、ぼくに背を向けて逃げ出した。


「勝者は……」


 静まり返った広場で、立会人が声を出そうとした。


「ぼくの負けだね。まったく、あんな能力に勝てっこないよ……」


 ぼくはそう呟いて、出血多量でぶっ倒れて死んだ。


   ◇ ◇ ◇


 ぼくはただの浪人生。戦いなんて向いているはずがない。

 ましてや、特殊な能力を持つ強化者(ブースター)と剣を交えて、万に一つも勝ち目はなかったのだ。

 それなのに、街の運命を決めるような大切な決闘を、成り行きとはいえ受けてしまった。ぼくはそれを深く後悔した。

 あれからハルカはどうなったのだろうか。彼女の大切な街は、守れたのだろうか。もちろん、自分が死んだ後のことを知る術はない。


 霧散した意識が再び集まり、ぼくが自分の体を認識できた時、気が付くと、ぼくは自転車にまたがり、信号待ちをしていた。

 湿ったアスファルトの匂い。

 ぼくはまた、現実世界へ戻ってきた。

 別世界で死ねば現実世界に戻り、現実世界で死ねば別世界へ行く。これまでに何度もぼくが経験した法則だ。

 しかし今回、現実世界に戻ってきて初めて感じる違和感があった。

 ここは、帰宅途中の道。自宅まであと一分くらいの場所だ。

 これまで別世界で命を落とした際は、いつも現実世界でぼくが刺される直前、自宅に到着した時間に戻っていた。

 だが今回はそれより少し前の時間に戻ってきている。

 その理由は分からないが、この変化は好都合だ。ぼくは即座に一つの決断をした。

 このまま自宅に向かえば、またあの黒の暗殺者(シャドウリーパー)に刺されることになるだろう。(ぼくは勝手に暗殺者をそう呼ぶことにした)

 ぼくはすぐに自宅と逆方向に自転車を漕ぎ始めた。

 刺されるまでに一分の猶予は大きい。

 黒の暗殺者(シャドウリーパー)は今も自宅でぼくの帰りを待ち構えているはず。


 全速力で自転車を走らせること二分。ぼくは高速で車が行き交うバイパス道路を走行していた。

 おそらく、いつもぼくが刺されたであろう時間はもう超えたはずだ。

 現実は変えられた。ついに、現実世界での死を回避できたのではないだろうか。


 しかし、その喜びはほんの束の間だった。


 後方から一台のバイクが高速で近づいてきた。

 エンジン音が驚くほど静かなそのバイクとすれ違った瞬間――

 ぼくの背中に刃物が突き立てられ、それはぼくの心臓を正確に捉えていた。

 驚き以上に、ぼくは冷静に感心した。

 バイクですれ違いざまに、背後から心臓をひと突き。一体、どんな訓練をしたらこんなことができるのだろうか。さすが、黒の暗殺者(シャドウリーパー)……

 自転車走行中に心臓を貫かれたぼくは派手に転倒した。車道を転がったぼくは、走行中のトラックに激突し、宙を舞った。

 一瞬で全身の骨が砕け散った。


 ギュリオォン、ギュリオォン。


 スマホが不気味な音を立てた直後、ぼくの意識は途絶えた。


 永遠に、死の苦しみが繰り返されるという無間(むけん)地獄。

 ぼくは、まだその地獄から抜け出せていない。

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