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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第二章

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責任回避

 こちらの世界はいつも、悪夢の黒い異形、マリスとの戦いから始まる。


「みー、うし、ひー、みー、ひー、うし、みー、じゃん!」


 ぼくは覚えた歌を口ずさみながら、その通りにステップを刻み、マリスの攻撃をすべて回避する。

 この場面の攻略は、もはや完全にマスターした。


 その後ぼくは、マリスの戦場から脱出し、兵団の馬車に拾われ、ミラと話しながら霧の街(ミラージュヴィル)に行く。

 そして、霧の塔(ミラージュ)を訪れ、ハルカと出会い、新しい家で暮らし始め、そこで一週間の穏やかな生活を送る。

 ここまで、前とまったく同じだ。


 しかし、支配者(ルーラー)レオンがハルカに対してこの街の支配権を主張してきた時、ぼくはミラが提案した決闘の参加を断固拒否した。

 予想を裏切られたミラは数秒絶句した後、懇願するような目でぼくを見た。


「そんな……強いやつと言ったら、あんたしかいないだろ?」


「ぼくは強くない。あいつと戦ったら、一撃で負けて死ぬ」


 地獄の果てに辿り着いたこの街で、ようやく穏やかな生活を手に入れたというのに、なぜ負けるとわかっている戦いに飛び込まなければならないのか。


「いや、戦場での様子を見る限りそんなはずは……」


 ぼくの反応に慌てながらも、ミラは食い下がる。


「ミラ、無理強いはいけません。そもそも、この街に来て間もないカナタさんに、この街の運命を背負う責任はありませんわ」


 穏やかにミラをたしなめたのは、ハルカだった。


「おやおや、それではどうするのです? そちらから決闘の提案をいただいたのですから、相手を決めていただかなくては」


 レオンが呆れた顔をすると、ミラは助けを求めるように視線を泳がせた。

 兵団の隊長の姿を見つけて声をかける。


「もう頼れるのは隊長しか……」


「悪いな、俺はこの件については中立派なんだ」


 だが、兵団の隊長は受けてはくれなかった。兵団の他のメンバーたちも視線を外している。

 その様子を見て、ミラは心を決めたようだった。


「仕方ない。じゃあ、あたしがやるしかないね。もともと言い出したのはあたしだ」


 そう言ってミラは剣を構えて進み出る。


「ミラ……」


 ハルカがためらうように呟いた。

 ミラも街を守る兵団の一員。剣の心得くらいはあるに違いない。

 とは言え、特殊能力を持たない者が、レムウォーカーに勝てるものだろうか。

 ぼくはそう思ったが、もうどうしようもない。

 実際、提案したのは彼女だ。


 街の広場で、強化者(ブースター)ハヤトと、ミラが向かい合う。


「女が相手でも俺は手加減はしない。今は力を見せつけることが大事だからな」


 ハヤトは冷たく言い放った。

 

「では決闘を開始する!」


 立会人が宣言した途端に、ハヤトは能力を発動する。


「倍速!」


 ハヤトの動きが突然速くなり、高速の刃がミラを襲った。

 ミラはよく見ていた。初撃はうまく剣でいなした。だが、ハヤトの攻撃は止まらない。

 ミラが剣を一振りする間に、ハヤトは二振り。

 ミラもこの速い攻撃に何とか応じてはいるが、明らかに劣勢だった。

 幾度か剣を交えた後に、ミラが大きく剣を振りかぶった。その隙をついて、ハヤトはミラの懐に飛び込み、剣で彼女の脇腹を貫いた。


「ミラ!」


 ハルカが悲鳴のような声を上げる。


「……なんて速さだ。あたしに、勝てっこないね」


 ハヤトが素早く剣を引き抜いて身を翻すと、ミラは傷口に手を当て、膝をついた。


「ハルカ、すまない。この街の支配権をかけた決闘なのに、この体たらく。あたしの命程度では到底償えないね……」


 ミラは苦しそうに顔を歪め、頭を垂らした。


「逆です。この街の支配権なんて、あなたの命と比べたらどうでもいいことです。そんなもの、いくらでも差し出しますわ」


 ハルカはミラに駆け寄り、大粒の涙を流してミラを抱きしめた。


「勝者は、ハヤト!」


 立会人が決闘の終わりを告げる。


 その後ミラは医療室に運ばれたが、間もなく昏睡状態に陥った。

 ハルカは一晩中ミラの手を握り、付き添っていたが、朝になるとミラの呼吸は止まっていた。


 ぼくは何もせず、ただ見ていただけだ。

 だって、ぼくには関係ない。

 ぼくはただ、この穏やかな街の暮らしを続けられれば、それでいい。

 ぼくは悪くない。どうせ何もできない。

 これは、どうしようもない出来事だ。

 

 けれど、ミラは死んだ。

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