変貌
ミラを失った後、ハルカは塞ぎ込んだままだった。
この街の皆は家族のようなもの、と彼女は言っていた。特に親しかったミラとの別れは、肉親との死別にも等しいのかもしれない。
そしてこれはぼくが決闘を拒んだ結果だ。
……いや、ぼくは強く首を振る。あそこでぼくが決闘を受ける理由はなかった。そもそも、受けたところで勝ち目はなかった。
そう自分に言い聞かせようとするが、彼女の顔を見るたび、心に暗い影が落ちた。
決闘の後、街の支配権を得たレオンはこの街のルールを次々に変えていった。
「この街をマリスの脅威から守るためには、さらなる備えが必要です。兵団を増員し、武器を整備します。そのために、皆さんから物資の供給をお願いしなければなりません」
一番大きなものは、軍備を建前とする税の徴収だった。
人々は無言で従い、表立って反論する者はいなかった。
レオンの支配者の能力は、人々を無意識のうちに服従させる。
最初はほんの少しだった。しかし、徴収量は次第に増えていった。
「皆さん、この街を守るために、これまで以上に働き、物資を提供してください。皆さんの協力が必要です」
やがて人々は所有するもののほとんどをレオンに提供することになり、生活の余裕もなくなってきた。
自分が生きるだけで精一杯。周りの家に配る余裕もない。
人々から笑顔が消え、やがて霧の街は、まるで別の街になってしまった。
人々が貧しくなる一方で、レオンは豊かになっていった。
ハルカに創ってもらった大きな城に住み、まるで王のように身につけるものも派手になった。
食べるものもいつも豪華で、贅沢の限りを尽くしていた。
さらに、レオンの支配は日を追うごとに強くなっていった。
マリスの脅威に備えるためのはずの兵団も、いつの間にか自分の私兵のように扱い、貧しい者から強制的に税を徴収したり、自分の気に入らない者を排除するために利用するようになった。
レオンだけではない。決闘で名を上げたハヤトもすっかり横柄になっていた。
自分の気に入った場所があれば、そこに住んでいた住民を追い出して占拠したり、自分の欲しいものがあれば当たり前のように他者から奪い取る。
「この街を守っている俺に提供するのは当たり前だよな」
レオンとハヤトは支配者の能力、権力、武力を濫用してやりたい放題だった。
一方、失意のハルカは霧の塔に監禁されているような状態で、レオンから街の拡大を命じられていた。
レオンのための城を作り、家を増やす。
「もっと街を広げてください。私の城はもっと高く、豪華に」
ハルカは何も言い返さなかった。
命令されるまま、彼女は朝から晩まで絵を描き続ける。
疲れ切った表情でふらつきながら筆を握り続けるその姿は、かつて街の創造者として慕われていた面影はなく、全てを失った囚人のようだった。
ぼくも例外ではない。
毎日畑へ駆り出され、朝から晩まで働く。
収穫した野菜は、ほとんど税として回収される。
疲れて家へ帰っても、食卓に並ぶのは、固いパンと少しのくず野菜のみ。
かつてのように、近所の人たちが笑顔で食べ物を分け与えてくれることはもうない。
一日の労働で疲れ果てたぼくは、料理を工夫する元気もなく、それらをただ腹に放り込み、泥のように眠るだけだった。
霧の街の誰もが、レオンの奴隷のように生きている。
思考のまとまらない頭でぼくは思う。
ぼくが決闘を拒んだことで、ぼくの命は助かった。代わりに、理想郷だったはずのこの街は、もう見る影もない。
だけど、それはぼくのせいじゃない。
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