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無間のハルカ・カナタ~死にすぎて致命傷でも平気なぼくは、生きるほど過去に戻る~  作者: マシナマナブ
第五章

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暗殺の刻

「ぼくが、消える……?」


 はっと気づいたぼくは、スマホを取り出した。

 要石に気を取られ過ぎていた。

 画面に表示されているのは、ぼくがいつも黒の暗殺者(シャドウリーパー)に襲われる時刻だった。


『パパ、避けて!』


 考えるより先に身をひねった。

 刃が胸元をかすめ、黒い影がすぐ脇を通り過ぎる。

 黒い影が振り返る。その顔を、黒いマスクが覆っていた。黒の暗殺者(シャドウリーパー)だ。


「こんなところまで来るのか……」


 ここは自家用ヘリで飛んできた山の中だ。

 それでも、こいつは現れた。


「カナタさん!」


 ハルカの声と同時に、暗殺者が踏み込む。

 突き出された刃が、目の前で止まった。

 背後から瀬葉が、暗殺者の手首をつかんでいた。


「お嬢様、カナタ様。お逃げください」


 暗殺者が腕を引こうとするが、瀬葉は離さない。


「瀬葉さん、そいつは強い! 一人じゃ――」


 ぼくが声を上げた時、ハルカに手を引かれた。


「ここは瀬葉さんに任せましょう。瀬葉さんが逃げろとおっしゃったのです。私たちが残れば、彼は役目を果たせませんわ」


 毅然とした声だった。


『パパ、こっち! ここにいちゃ駄目なんだ!』


 トワが霧の奥へと走る。

 ぼくも思い直した。瀬葉の覚悟を無駄にしてはいけない。

 ぼくは前を向き、ハルカと駆け出した。


 だが、黒の暗殺者(シャドウリーパー)の強さを、ぼくは嫌というほど知っている。

 瀬葉といえども、そう長くは食い止められないだろう。


『こっちだよ!』


 木々の間を曲がり、茂みを飛び越える。

 何度も進む向きを変えるうちに、霧が薄れてきた。

 やがて木立が途切れ、視界が開けた。

 そこは、山並みの向こうに広がる遠い街まで見渡せる高台だった。

 足を止め、息をつく。


『トワが来られるのは、ここまでなんだ』


 声のした方へ目を向ける。


「トワ?」


 しかし、辺りを見回しても、あの小さな姿はなかった。

 背後で、ハルカがあっと声を上げた。

 振り返ると、黒い影が霧を抜けてくるところだった。

 その手には、刃物が握られている。


「瀬葉さんは、どうしたのです!?」


 ハルカの声が裏返った。

 黒の暗殺者(シャドウリーパー)は足を止めずに答えた。


「一時的に動けなくしましたが、命に別状はありません。あなたも、そこを退きなさい! 私の標的は、その男だけです」


 刃先が、ぼくに向いた。


「カナタさんは私の旦那様ですわ。黙って見ているわけにはいきません」


 ハルカがぼくの前に出る。

 ぼくは、その肩に手を添えた。


「ありがとう。でも、こいつとの決着は、ぼく自身でつけなきゃいけないんだ」


 ハルカは振り向き、ぼくの顔を見つめた。

 何か言いかけたものの、唇を結び、小さく頷く。


「……では、これを」


 手渡されたのは、護身用のスタンガンだった。


「ありがとう」


 ぼくはハルカから距離を取り、スタンガンを握った。

 先端の二つの電極を相手に向け、親指を作動ボタンにかける。

 押すと、電極の間に青白い火花が走った。

 こいつを相手の体に押し当てることができれば、動きを止められるかもしれない。

 しかしそのためには、あの刃をかいくぐらなければならない。

 これまで奴に一撃すら入れられなかったぼくにできるのか?

 ぼくは自問しながら暗殺者を見据えた。

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