家族の再会
「そうですわ。カナタさんになら……聞こえませんか? トワの声が」
ハルカに言われ、ぼくは意識を澄ませる。
すると――頭の中に、小さな声が響いた。
『パパ?』
「トワ?」
『パパ! 会えて嬉しい』
今度は、はっきりと聞こえた。
「トワも、すっかりお話しできるようになりましたわ。ですが、レヴェリアで生まれたトワには、現実世界の体がありません。それでもこうして、私たちの中に存在しています」
「本当に、あのトワなのか?」
『そうだよ、パパ。トワ、ずっとママの中にいたの』
「トワと過ごした時間はもう三年になりますわ。これは誰にも話せない私だけの秘密だったのですけれど、カナタさんなら分かってくださると思っていました」
赤ん坊だったトワがもうこんなに話せるなんて……思わず胸の奥が熱くなる。
「トワもパパに会えて良かったですわ」
「……あの」
そこへ割って入った瀬葉の声に、ぼくたちは振り返った。
「先ほどから、お二人は誰とお話しになっているのですかな?」
「あ……」
そうか。瀬葉には聞こえていないのか。
「トワの声は、ぼくたちにしか聞こえないみたいです」
「トワ……というのは?」
「ぼくたちの子供です」
「……」
瀬葉は額に手を当てた。
さすがに理解が追いつかないようだった。
再会したハルカやトワと話したいことはいくらでもある。
けれど、今は話し込んでいる場合ではない。
「ハルカ。一つ、お願いがある」
「なんでしょう?」
「今から一時間以内に御嶽山へ行かなきゃならないんだ。協力してもらえないかな」
ハルカはすぐに頷いた。
「もちろんですわ。カナタさんのお願いとあれば喜んで。それは、とても大切なことなのでしょう?」
「ああ」
すると、それまで困惑していた瀬葉が口を挟んだ。
「青梅の御嶽山ですかな? ここからですと、車では二時間ほどかかりますな」
「それじゃ間に合わない。どうしても一時間以内に行かなきゃならないんだ」
「でしたら――」
瀬葉の表情が変わった。
「天宮家の自家用ヘリを出しましょう」
「ヘリ?」
「ええ。ヘリコプターなら、御嶽山付近まで二十分ほどで着きます。すぐに手配すれば、十分間に合うでしょう」
自家用ヘリが普通に出てくるあたりは、さすが天宮家だ。
「瀬葉さん、お願いしますわ」
「かしこまりました」
瀬葉は一礼すると、すぐにどこかへ連絡を入れた。
「御嶽山にはヘリコプター緊急離着陸場がございます。そちらへ連絡して、着陸の許可を取りました」
ここまで簡単に事を進められるなんて……
ぼくは改めて、天宮家の力を思い知らされた。
ぼくたちは瀬葉に案内され、屋敷の裏手へ向かった。
そこには大きな格納庫があり、その中に一機のヘリコプターが収められていた。
「すごいな……本当にヘリがあるんだ」
「さあ、急ぎましょう」
瀬葉が慣れた様子で格納庫へ入っていく。
「あれ? 操縦士は?」
「もちろん私ですぞ」
瀬葉がさらりと言って、胸を張った。
「瀬葉さん、ヘリの操縦ができるんですか?」
「ええ。グライダーからクルーザーまで。一通りの免許は取得しておりますので」
「一通りって……」
この人はいったい何者なんだ。
牽引車に引かれたヘリが、格納庫から出てきた。
すぐに瀬葉が操縦席に乗り込み、続いてぼくとハルカもヘリコプターへ乗り込んだ。
やがてローターが回転を始めた。
回転音は瞬く間に轟音へと変わり、巻き起こった風が周囲の草木を激しく揺らす。
「では、参りますぞ」
瀬葉の声とともに、機体がふわりと地面を離れた。
目指すは、武蔵御嶽山。
幼いぼくが三日間、神隠しに遭った場所だ。
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