黒髪のハルカ
気がつくと、ぼくは駅前の総合スーパーに立っていた。
ぼくは、レヴェリアでマリスとなり、ヨミやマドカと戦い、力尽きた。
そしてまた、現実世界へ戻ってきたのだ。
時刻は、黒の暗殺者に刺される一時間と少し前。
この一時間で、今度こそこの無限ループを前に進める。
『セイとシがマジわるトコロ、シンジツをテらすヒカリがウまれる。ヒカリはムサシのミタケにて、オトをアキらかにする』
ぼくは、預言者ミコのお告げを思い出した。
まだすべての意味が分かったわけではない。
だが、一つだけ心当たりがある。
『ムサシのミタケ』
これはおそらく、武蔵御嶽山のことだ。
東京都青梅市にある霊峰で、幼い頃、ぼくは両親とそこを訪れたことがある。そして――三日間の神隠しに遭った。
レヴェリア。マリス。そして、幼い頃の神隠し。
これらはきっと、どこかで繋がっている。できることなら、今すぐ御嶽山へ行きたい。
だが、ここから御嶽山までは、電車を使っても三時間以上かかる。
ぼくが黒の暗殺者に襲われるまで、あと一時間。
間に合わない。何か手はないだろうか……
そこで、一人の大切な人の顔が浮かんだ。
そうだ。ハルカだ。
ぼくはすぐにスーパーを出て、ハルカの家へ向かった。
駅から少し離れた場所に、大きな門と高い塀に囲まれた屋敷がある。
門に掲げられた表札には『天宮』の文字。
ここで間違いない。
少し緊張しながら、インターホンを押した。
『どなたですかな?』
聞き覚えのある男性の声だった。確か、瀬葉だったか。
「時任彼方といいます。遙香さんはいらっしゃいますか?」
『少々お待ちくださいませ』
しばらくすると、門が勢いよく開いた。
「カナタさん!?」
「ハルカ!」
そこにいたのは、目にいっぱいの涙を溜めたハルカだった。
彼女の髪は、銀色ではなく長い黒髪になっていた。
「本当に……カナタさんですわ!」
ハルカが駆け寄ってくる。
今のハルカは車椅子に乗っていない。誰かの支えも借りていない。
彼女は自分の足で走っている。
ぼくのあの戦いは、無駄ではなかった。
「またお会いできるなんて……夢のようですわ」
ハルカはそのまま、ぼくを抱きしめた。
「ああ。ぼくもだよ」
ぼくもハルカの背中へ腕を回した。
温かい。
こうして現実のハルカを抱きしめられるなんて、ぼくにとっても夢のようだった。
「あれから、霧の街を襲っていたマリスたちは、突然散り散りになって去っていきました」
腕の中で、ハルカが話し始める。
「そして、カナタさんもいなくなってしまいました。ですから、きっとカナタさんが街を救ってくださったのだと――」
「まあ……いろいろあってね」
何から話せばいいのか、自分でも分からない。
「コホン」
背後から、わざとらしい咳払いが聞こえた。
振り返ると、瀬葉が、なんとも言えない表情でぼくたちを見ていた。
「お嬢様。こちらの方は……?」
「ああ、瀬葉さん」
ハルカはぼくから離れると、何のためらいもなく答えた。
「カナタさんですわ。私の旦那様です」
「……」
瀬葉が固まった。
「だ、旦那様……ですと?」
その顔から、見る見るうちに血の気が引いていった。
ハルカは改めて瀬葉へ向き直る。
「瀬葉さんには、まだお話ししていませんでしたわね。私、カナタさんと結婚しているのです。正確には、レヴェリアにいるもう一人の私が、ですけれど」
「結婚!? お嬢様が!?」
瀬葉が目を見開く。
まあ、無理もない。瀬葉にとっては、ぼくはまったくの初対面だ。
しばらく呆然としていた瀬葉だったが、やがて何かに気づいたように手を打った。
「なるほど。レヴェリアというのは、ゲームか何かのお話ですな?」
「違いますわ」
ハルカが即座に否定する。
「レヴェリアは本当に存在する世界ですわ。それに、向こうにいる私も、間違いなく私です」
「は、はあ……」
「それどころか、私たちには子供もいますわ」
「こ、子供ッ!?」
瀬葉の目がさらに見開かれた。
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